第33話 探宮部始動


「お、ようやく来たようだな」


 入ってきた人物に蘇芳さんが親し気に声をかける。


「ちょうど良いタイミングだったよ、げんさん。たった今、『探宮部』の創部が決まったところさ」


 玄さん、と声をかけられた相手をボクは横目で盗み見る。


 すらりとした綺麗な人だった。

 わりと本気で、蘇芳さんの『探宮部』入部条件に美少女限定とか、あるんじゃないかと疑いたくなるぐらいの容姿をしている。自分のことは言いたく無いが、ボクを含めて『探宮部』の顔面偏差値は恐ろしく高い。下手な新人アイドルグループより人気が出そうなレベルだ。


 それにしても……と探宮部員の最後の一人である玄さん(?)を改めて観察してみる。

 すぐ近くにモデル並みの背丈の蘇芳さんがいるので、そうは見えないが彼女も女性としては背が高い方だ。体型はスレンダーで手足も長くほっそりしている。髪の色は高校生なので黒だけど、髪型がミディアムのネオウルフなので、ボクと同じ制服を着ているというのにオシャレ感が半端ない。

 落ち着いた感じと相俟あいまって、ほんの少しお姉さんっぽく見える。同級生の男子がちょっと気後れする雰囲気がしていて、男子だったときのボクなら決して近づきたくないタイプと言えた。


「誰がげんさんだ。自分の名ははるかだって何度も言ったはずだぞ」


「いいじゃないか、「げんさん」。職人さんみたいで、かっこいいと思うぞ」


「そんな戯言を言うのは、お前ぐらいだ」


 げんさん改め『はるか』さんは文句を言いながら、蘇芳さんの隣に腰かける。声はやや高めでしっとりした声質だが、口調はぞんざいだ。親しそうに話す二人の会話は女の子の会話と言うより男子高校生同士のそれのように聞こえた。


「それよりも玄さん。新入部員がいるんだから、自己紹介でもしたらどうなんだ」


「わたくしも、朱音さんの言う通りだと思いますわ」


「え? ああ、それもそうだな」


 蘇芳さんと常磐さんは、呆気に取られているボク達を気にして玄さんに自己紹介を促す。


「はじめまして、C組の『紫黒 玄(しこく はるか)』だ。よろしくお願いするよ」


 口調はイケメンだが、容姿は蘇芳さんと違って女性らしいのでギャップが大きい。玄さん……紫黒さんも別のベクトルで女子の人気が高そうに見える。蘇芳さんもそうだけど、この二人がつい3月まで中学生だったとは到底信じられない。年齢、誤魔化してないか?


「おや、確か君は新入生代表の……」


「紺瑠璃 蒼です。よろしくお願いします」


 蒼ちゃんの顔には見覚えがあったようで、紫黒さんは蒼ちゃんの返答に頷く。


「こちらこそよろしく、紺瑠璃さん。『はるか』と呼んで構わないよ」


「では、はるかさんで……」


 紫黒さんは蒼ちゃんを、まじまじと見つめると息を吐いた。


「いやあ……入学式の時も思ったが、君は恐ろしいほどの美人だね。そこまでの容姿だと今までの人生、大変なことや気苦労も多かっただろう?」


「そんなこと無いですよ、いたって普通に生活してます。周りの環境に恵まれたおかげもありますけど」


 蒼ちゃんがボクをちらりと見てから、にっこり微笑む。


「それに紫黒さんだって綺麗だから、他人事ではないのでは?」


「いやいや、君とはレベチだよ。頭の良さを嫉妬されたことは多かったが、容姿については皆無だったさ」


「玄さん、小学校時代から頭脳明晰で周りから一目置かれていたからな。そういや、高校に入ってから急にコンタクトに変えたけど、何でだ?」


 不思議そうに蘇芳さんが尋ねる。


「べ、別にいいじゃないか、コンタクトぐらい……」


「朱音さん、満を持して高校デビューしたことバラすの止めてあげてください、可哀そうじゃないですか」


「翠、高校デビュー言うな! ただのイメチェンだから」


 大人美人の紫黒さんが慌てる姿はちょっとほっこりした。三人の立ち位置も何となく分かった。


「そ、それよりも蒼さんは美人なだけじゃなく、学業も優秀と聞いたぞ。全く恐れ入るね」


 自分の分が悪いと悟ったのか紫黒さんは話題を変えようとするが、蘇芳さんがまたも無自覚な攻撃を加える。


「そうそう、玄さんはね。自分が新入生代表になると思い込んでいたらしいんだ。自信過剰にもほどがあるよな」


「何を言う朱音、そう思っても仕方ないだろ。自分以上の成績優秀者がいるなんて初めてのことだったんだぞ」


 真顔で言う紫黒さんにちょっと笑ってしまう。ホントにそう信じていたっぽい。確かに蘇芳さんの言う通り自信家みたいだ。けど、逆にはっきりしていて嫌味さが全く無い。それに茶化す蘇芳さんだって相当自信家だと思う。

 

「いえ、受験の時たまたま調子が良かったのだと思います。代表に選ばれたのも運が良かっただけで……」


 蒼ちゃんが謙遜して答えると紫黒さんはニヤリと笑って答える。


「まあ、受験なんて入口に過ぎないからね。入ってからが大事だろう。それに勉強が出来ても高校生活が充実していなけりゃ意味が無い。とにかく、同じ部活の部員同士、切磋琢磨していこうじゃないか」


「お手柔らかに……」


「え……と、それともう一人の部員が君だね……」


 蒼ちゃんからボクへと視線を移した途端、紫黒さんの動きが止まった。目を見開き口をあんぐり開けて、美人が台無しの顔でボクを凝視する。


「あの……紫黒さん、どうかしました? 何かボクの顔に付いています?」


 挙動不審な彼女の行動に、心配になって声をかけるが、反応はない。


「おい、玄さんどうした?」


「あ、ああ……大丈夫だ」


 蘇芳さんが紫黒さんの肩を掴んで揺さぶると、ようやく我に返る。


「す、すまなかった。知り合いに似ていて、ちょっと驚いただけだ。えと……君は?」


「一色 白です。よろしくお願いします、紫黒……さん」


 思わず、紫黒先輩と言ってしまいそうな謎の貫禄があるよな、この人。

 けど……知り合いと似ていただけで、そんなに驚くものなのだろうか?


 いや、待てよ。ボクは以前のボクじゃなかった……この顔に似ているってことは紫黒さんの知ってる人は相当な美少女のはずだ。このレベルの娘はめったにいないから、似ていたら驚くのも当然か。


 それよりも気になったのは、今のボクに似た人って言うのは、もしかしたらこの身体の本当の持ち主かもしれないってことだ。


「あの……紫黒さん。そのボクに似た知り合いって、どんな人なんですか?」


 本音としては、会えるものなら会ってみたい。万が一ラノベのように入れ替わっているのなら、その人の身体がボクになっているかもしれない。そこを確認したいのだ。


 それに対する紫黒さんの反応はやや不自然なものだった。


「…………い、いやごめん。よく見たらそれほど似ているわけでは無かったようだ。小柄で可愛いらしいところから似た印象を受けたのかな。大体、君の方がずっと可愛いよ」


 自分の勘違いだと謝る紫黒さんに違和感を覚える。理由は分からないが、何かを隠している感じがした。

 けど、知り合って間もないので立ち入ったことを聞くのは躊躇われる。距離が縮まったら、ぜひ聞き出したい。


「しかし、朱音。これだけの逸材が揃ったなら『探宮部』も安泰だな」


「わたくしもそう思います。さすが、自分のお眼鏡にかなった人しか入れなかっただけのことはありますね」


「そうだろう」


 常磐さんの皮肉が通じず蘇芳さんは鼻高々だ。


「朱音、プロデュースは自分に任せておけ」


「プロデュース?」


 部活動では聞きなれない言葉に蒼ちゃんが反応する。


「ああ、言ってなかったが、玄さんは表に立つより裏方志望なんだ。だから、『探宮部』の運営を任せるつもりなのさ」


「まあ、悪いようにしないから、安心したまえ」


 紫黒さんは黒い笑みを浮かべる。

 何か、裏方と言うより黒幕って感じだ。



 兎にも角にも、こうして我が校の『探宮部』が始動した。


~~~~

 あとがき


  第33話をお読みいただきありがとうございます。

  ようやく『探宮部』が始動しました。我ながら展開が遅いと反省しております。

  何とか改善も考えていますが、ままなりません。

  全面的に改稿した方が良い気もしますが、キリの良いところまではこのまま書き

  進めたいと思っています。不甲斐ない作者で申し訳ありません。

  今月はリアルがめちゃくちゃ忙しいですが、何とか頑張りたいと思います。

  高評価・コメントをよろしくお願いいたします。


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