第32話 部活動説明会
という訳で今日は、蘇芳さんと約束した部活動説明会の日だ。ボク達1年生は既に体育館に集合していてステージ行われる説明会が始まるのを待っていた。今日は4月としては暖かい方なので、これだけ人が集まっていると、さすがに熱気がこもっている。集団が苦手なボクとしてはあまり嬉しくない状況だけど、説明会自体は少し楽しみにしている。生徒会主催の本校の部活動説明会は聞くところによると型破りで有名らしい。
ちなみに午前中には、高校に入って初の実力テストがあったりしたのだけど、内容については多くは語らない。いや、語りたくない。
えっ? 本当のところ、どうだったのかって? 一応、善戦はしたとだけ言っておこう。ただ、これから真剣に勉強しないとマジやばい気がする。頼りすぎにはなりたくないが、受験のときみたいに『蒼ちゃん塾』が必要になるかも。
『
とにかく明日からは通常日課となり普通授業が始まるので、今日までのような特別感のある非日常ともお別れだ。ようやく本格的な高校生活が始まるって感じがしている。
「ねえ、蒼ちゃん。説明会、思ってたより楽しいかも」
「っ……そうみたいね」
隣の蒼ちゃんにそっと耳打ちすると、くすぐったかったのか蒼ちゃんは身じろぎして身体を離す。
「あ、ごめん」
「ううん、違うの。嫌とかじゃないから」
「……うん」
いかん、いかん。この身体になってから無意識に距離感がバグってしまう。女子特有のスキンシップに慣れたせいもあり、ついついやり過ぎてしまう時がある。他の人に対してやると蒼ちゃんに注意されるので気を付けているのだけど。
大体、それをボクに教え込んだのは蒼ちゃん当人であって、最初の頃はボクの方が戸惑って赤面してばかりだったのだから、まさに因果応報と言える。蒼くん、反省したまえ。
「それにしても、うちの高校ってけっこういろんな部活があるんだね」
「ホントそうね。まあ、私たちは『迷宮部』一択なのだけど」
「それは、そうなんだけどさ……へえ、漕艇部なんてのもあるんだ」
ステージで繰り広げられるパフォーマンスの数々は各部それぞれの特色が出ていて見ごたえがあった。
真面目に部活内容を説明する部もあれば、それってその部に関係あるの?というような芸を見せつける部もあり、大いに盛り上がっている。
「なに、あれ? 将棋は将棋には違いないけど」
「ば、馬鹿じゃないの……あはは」
ちょうど目の前では、部下の歩を従えた金将と銀将のコスプレした将棋部の部長と副部長がステージ上でヒーローショーばりのバトルを展開していた。
「や、やつら天才か?」
しかも、劣勢だった銀将が途中で
受けてはいるけど、それでいいのか将棋部。真っ当な部員が集まらないぞ、きっと。
そんな感じで部活動説明会は滞りなく無事終了した。まだ申請中で正式な部活でない『探宮部』の紹介は無かったのは当然だけど、説明会の終わりに申請中の新部が複数あることがアナウンスされた。
◇◆◇◆◇◆◇
「つくも、部活動説明会はどうだった?」
蘇芳さんがクールな笑みを浮かべながら言った。
ボクと蒼ちゃんはクラスメイトが帰った放課後の教室で、蘇芳さんと常磐さんに相対していた。
「うん、いろんな意味で楽しかったよ。ね、あおいちゃん」
「そうね、まあまあ興味深かったわね」
「そうかい。それで、二人とも結論は出たのかな」
蘇芳さんが入部希望の意思を確認してくる。
「ボクとあおいちゃんの気持ちは変わってないよ」
ここに来る前に蒼ちゃんにも確認したけど、入部希望に変更は無いとの話だったので代表して答える。
「そうか、それでは『探宮部』に入部する、で間違いないんだな」
「うん、よろしくお願いします」
「私も……よろしく」
ボク達二人が大きく頷くと蘇芳さんの顔が心なしか
「こちらこそ、よろしく。心から歓迎しよう」
「つくも様、紺瑠璃さん。わたくしも歓迎いたしますわ。これからもよろしくお願いします」
蘇芳さんと常磐さんも、ほっとした表情で答える。
「朱音さん、おめでとうございます、これで創部に必要な人数は確保できましたね」
「ああ、間に合って良かった」
「ん? 間に合うってどういうこと?」
蘇芳さんの言葉に蒼ちゃんが聞き返す。
「言葉通りの意味さ。今日の部活動説明会の翌日から仮入部が可能になるんだが、それまでに創部手続きが完了していないと創部が許されない決まりなんだ」
「え、じゃあ……」
「現在、仮申請中でね。今からこの足で部員名簿を提出して手続きが完了するって訳さ」
なんと、締め切りギリギリだったのか。
「もっと早く言ってくれたら部活動説明会を待つまでも無かったのに……」
「全くね。もっと早く創部の手続きが済んでいれば、今日の部活動説明会で募集できたんじゃないの?」
ホントそうだ。蒼ちゃんの言う通りだと思う。
「それはそうなんだが……」
蘇芳さんの返答は珍しく歯切れが悪い。
「朱音さんはですね。自分がこれだと思った人しか入部させたく無かったんですよ」
横から常磐さんがくすくす笑いながら理由を暴露する。
「み、翠……バラすなよ」
拗ねたように横を向く蘇芳さんがイケカワ過ぎて脳がバグりそう。
感情が見えにくい蘇芳さんが時折見せる表情の変化は女子(ボクは男子だけど)にとっては悶え死にしそうになるくらいの萌ポイントではなかろうか。現に常磐さんはダイレクトに直撃したらしく真っ赤になってあわあわしている。
「あおいちゃんは平気なんだね」
平然としている蒼ちゃんを不思議に思って尋ねると、あれ以上の萌ポイントを頻繁に感じているから耐性が出来ているのだそうだ。意味不明なのだけど?
「ところで、蘇芳さん。顧問は誰なの?」
至極、真っ当な質問を蒼ちゃんが投げかける。確か、部活動には正式な顧問が必要な筈だ。
「担任の中山葉月先生にお願いしてある。未経験者だそうだが理解はあるぞ」
へえ、うちの担任なのか。若いけど、ちょっと怖そうなんだよね。
蘇芳さんの説明によると、中山先生は昨年までは山岳部の副顧問だったが、今年度の異動で登山経験豊富なベテランの先生が赴任して来たとかで、三人顧問体制になっていたらしい。もともとキャンプとかの経験があるだけで、本格的な登山の経験無しで顧問になったそうなので、懇切にお願いしたところ「困っているなら」と了承してくれたそうだ。
「実際は名ばかりの顧問だけどね。『探宮競技』じゃないから大会に出ることないし」
なるほど、創部に必要なだけで実質何かしてもらうわけではないと言うことか。
「そんなことありません。迷宮協会に提出する『資格制限解除申請書』に顧問の記名が必要なんですから、大切な人です」
常磐さんが大真面目に反論する。
「……そうだな、仲良くしていくのには異論はない」
蘇芳さんはばつが悪そうな顔をしながら、常磐さんを宥める。何となく二人の関係性が垣間見えた気がした。
「そう言えば蘇芳さん、もう一人の部員は……?」
話題を変えようとボクが疑問を投げかけた瞬間、教室の戸がガラリと開いた。
~~~~~
あとがき
第32話をお読みいただきありがとうございます。
いよいよ探宮部が創部されますね。やっと迷宮探索が始まるw
が、頑張ります!
モチベのためにも高評価・応援コメントお待ちしています。
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