第24話 危機


 導かれるように裏路地を少しだけ奥へと進むと、はたして漫画などでよく見るお決まりの光景が目に飛び込んで来る。

 奥まった行き止まりで、見るからに悪そうな集団に取り込まれた一人の女子高生の姿だ。


 女の子の表情は集団の陰に隠れて見えないが、おそらく恐怖に怯えているに違いない。一方、囲んでいる連中もボクらとさほど変わらない年齢に見えた。

 ただし、武具や防具を装備しているところを見ると、おそらく探宮者の一団であることは間違いない。


 経済的な理由や病気などちゃんとした理由で進学しない人もいるので一概には言えないけれど、成績不良や素行不良で高校に進学しなかったり中退したりした一部の未成年者の受け皿的な意味合いを探宮者という職業が担っている部分があるのも事実だ。


 なにしろ、どんなに粗暴で攻撃的であってもモンスターを倒すのなら問題ないし、レベルが上がれば周囲から高い評価を得ることも出来る。何よりお金が稼げるのも大きなメリットだ。

 世間では認められにくい彼らのような立場の人達が探宮者になるのは自明の理と言えるだろう。おかげで、夜間に暴走行為をする集団が激減したとも聞いている。

 一方で、それらの探宮者が、元々そうした集団の延長線上にあった上の連中のシノギに関わっているケースもあると言われ、そういう困った輩のせいで、探宮者という職業自体を忌避する人も少なからずいるようだ。


 もちろん、迷宮協会側もその辺りのルールに厳しいし、常に目も光らせているが、完全に排除することは難しいらしい。ただ、そもそも異界迷宮には配信義務もあるので、異界迷宮内での触法行為はめったに起きないと言っていい。逆に監視の目が届かない現実世界の方で、こういうことがたまにあるとは耳にしていたが本当のようだ。


 周囲を見渡してみたが、偶然なのか意図的なのか路地裏には人通りがほとんどない。気付かなかったけど、どこかに見張りでもいたのだろうか?

 そんなことより、この緊急事態に対処しないと……幸いなことに、ここから駆け込める範囲に迷宮協会がある。


 助けを求めに行こうとして振り返ると、いつの間にか連中の仲間らしい二人がニヤニヤしながらボクの後ろに立っていた。恐らく、ボクが通るのをやり過ごしてから退路を断つように現れたに違いない。


 二人とも武器を手にしている上、強面で見るから悪そうに見えた。一人は背の高い筋肉質の男で、もう一人は小柄だが残忍そうな笑みを浮かべている。以前のボクなら絶対に近づきたくない相手と言っていい。


「こいつは当たりだぜ」


 残忍そうな男が舌なめずりしながらボクを見る。


「ひっ……」


 生理的な嫌悪感と恐怖で反射的に身体が縮こまる。


「おっと声を上げるなよ。上げたらどうなるか、わかってるな?」


 目付きの悪い残忍そうな男はダガーをちらつかせながら近づいてくる。そしてボクの腕を掴むと無理やり引っ張って奥へと進んだ。


「おい、お前ら。新しい兎ちゃんを連れて来たぜ」


「お、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。小っさいけど」


「リーダー、どうしたんスか、その子?」


 女子高生を取り囲んでいた仲間が答えると、ボクの腕を掴んでいるリーダー格の男が怒鳴った。


「何、言ってんだ。その女が悲鳴を上げたせいで、こいつが来たんだろ。静かにさせろや」


「あ、すんません」


 ど、どうしよう。このままじゃ、あの子もボクも酷い目にあいそうだ。考えろ、何か助けを呼ぶ方法を…………助けを呼ぶ…………ん? 待てよ。でも今のボクって……。


 ―― もう昔のボクじゃない ――。


 ドクンと胸の鼓動が聞こえた気がした。


 ―― 今のボクなら ――。


【『蘇芳秋良』になれるんじゃないか?】


 そう思った瞬間、頭の中でカチリと何かが切り替わる感じがしてボクの身体は勝手に動いていた。腕を掴んでいる男を力任せに振り回す。


「あ?…………ぐぇっ!」


 男はボクの腕を掴んだまま振り回され、そのままの勢いで地面に叩きつけられ、気を失ってボクの腕から手を離した。

 

「へ?」


 突然の出来事に連中の動きが固まった。その隙をボクが見逃すはずも無い。


「ぐがっ!」「げっ!」「ごあっ!」


 後ろにいた筋肉質の男、近寄ってきたチャラそうな二人の男。瞬く間にその3人を叩きのめす。異界迷宮での鍛錬が現実世界でも生きていた。


「こ、こいつ。何か武術やってやがるぞ、気をつけろ!」


 ようやく反応したな、雑魚め。だが、もう遅い。


 下手に女の子を人質に取られないためにも速攻で片付けるとするか。無論、死人を出さないように手加減はするけどね。



◇◆



「まあ、こんなもんか」


 ボクの周りには叩きのめされた男達が死屍累々と倒れ伏していた。


 結果的に言うと、異界迷宮内と同様のステータスで戦えるボクは現実世界では無双出来ることが分かった。不幸中の幸いだけど、今回の件はその事実が確認できて、ちょうどいい実験になったとも言える。


 あと、暴力を振るうことに忌避感を全く覚えなかったことに意外な感じがした。恐怖で感覚が麻痺でもしているのだろうか?


 とにかく、これからは十分注意しないと人外だとバレる公算が高い。気をつけなくちゃ……あ、そう言えば制服で大太刀回りをしちゃったっけど、どこも破れてないよね?


 慌てて、制服や身体の具合を確認するが大丈夫のようだ。


 良かった。何かあったら蒼ちゃんに怒られるところだった…………あ、蒼ちゃんのこと忘れてた。


 思わず血の気がさーっと引いたが、まさかこの後さらに顔面蒼白になる事態が待ち受けているとは思ってもみなかった。


「あの……」


 気が付くと、もう一人の被害者がボクの前に立っていた。しかも、今気付いたけどボクと同じ制服を着ている。


 もしかして、同じ高校とか?


「あの……同じクラスの『一色 白』さんですよね?」


 何ですと?


~~~~

 あとがき

  第24話です

  いつもお読みいただきありがとうございます。

  作者のモチベに繋がりますので、心優しい読者の方、感想・高評価等を

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  本当によろしくお願いいたします。(心が折れそうなんで)


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