第3話 冷めた海 暖かな風呂
書類のチェックやら、取引相手との交渉やら....ついでに、朝の彼らについての資料探しで気づけば時刻は午後過ぎとなっていた。
そういえば、朝の三人組と社長は未だに戻ってきていない。
よほど重要な話をしているのだろうか。
休憩時間になったし、外で昼食を取ろう。
少し高いところにあって、海と水土島が良く見える中華料理屋「ふぉぼす」がお気に入りのお店だ。
チャーハン定食550円(税込み)は定番メニューで、俺のお気に入り。
「大将、いつもので。」
「あいよ!今はお客さんいないからテラスでいいぞ!」
このお店のテラス。この港町「
やはりこの街は美しい。あの海の冷たさを除けば、最高の景色だろう。
「失礼、相席、よろしいですか?」
ふと、誰かが声をかけてきた。
振り向くと、黒髪の長身な男性...朝の三人組の一人だ。
確か名前は...
「貴方は
「はあ...どうも。おかけになってください。」
彼は一礼して、反対側の椅子に座る。
「ここからの景色は美しいですね。特に、あの海の蒼さと言ったら。故郷を思い出します。」
ルソーと名乗った男は少し日本語に違和感があったが、この人は流暢な日本語だ。
見た目、名前からしても、日本人であることに疑いはない。
「俺は嫌いですね。」
「...おや、なぜですか?」
不思議そうに早魔と名乗る男はこちらを見る。
「海は冷たい。」
彼は首をかしげる。
「冷たいから、嫌いなのですか?」
「風呂は温かいでしょう?俺はお風呂が好きなんです。海が温かいのなら、きっとそれは素敵な公衆の浴場になりますよ。」
...彼はぽかん、とこちらを見るだけだ。
ちょうど、料理が運ばれてくる。
「お待ち!...おや、そっちの人は?見ない顔だな。何か注文はあるかい?」
「お水をお願いします。」
大将は返事をして再び戻り、水を持ってくると彼はお礼を言う。
「ありがとうございます。...あと、できれば彼と二人にしていただきたい。重要な、社外秘の事ですので」
「は、はぁ...分かったが、お客さんが来たらそっち優先だからな?」
大将はそう言い、キッチンの奥の方へと戻っていった。
「...さて、これで邪魔者は消えましたね。それでは本題に移りましょうか。」
彼の、雰囲気が変わる。
ああ、これは確か、崖から下を見下ろした時のような。
何もないはずの空間が、地獄に連れて行こうと俺の名前を呼んでいるような。
死を間近に感じ取った時の、火の揺らめきのような酩酊感。
「代償者として私たちと一緒に来い。もしくは、そのままこの街と共に死ね。」
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