不可視火のディール

ねむれす

暗闇の死と不可視の火

第1話 ただのサラリーマン


手記「代償者のルールについて」 著者不明


何らかの固体、気体、液体もしくは概念などを消費する代わりに、常とは異なる力を行使する人間がいる。

消費されることを「代償」

常とは異なる力を「能力」

その人間のことを「代償者」


と規定する。


一・「代償」「能力」「代償者」について、現存するあらゆるメディアへの露出はこれを認めず。

二・「代償者」は、他の「代償者」を殺害する権利を有する。

三・「代償者」によるあらゆる被害は、「代償者」に起因するものではない。


五・「 」は存在していない。





もし、この海が俺の物だったら、もっと温かいものにしたい。


俺の住む小さな島「水土島」と本土を繋ぐロープウェイに乗って、今日も通勤する。

朝に会社へ向かうときには、早いスピードで動くのに

夜に家へ帰るときには、遅いスピードで進んでいる。


ふと、暇になったので生まれつき得意な「マジック」をする。種も仕掛けもない、どうしようもなく、しょうもないものだが。


人差し指から小さな火を出す。 これは他人に見えないが、他の物に火を付けると燃え移ったその火は視認できるらしい。

簡単に言えば見えないライターといった所だろうか。


別に火を出すのに詠唱も要らないが、

「カチッ」

と口で言ってみる。


火は海からの潮風で綺麗に揺らめいている。

火から感じる温かさは、どこか懐かしく感じる。


ふと、目線を下に向ける。


太陽の光が遮られた、本来ならば「影」になっている場所はまるで、真っ白なペンキをぶちまけたように白く染まっている。


もう一つの手品。

火を出している間、「影」だとか「暗闇」だとかは全部真っ白に染められる。


傍から見たら異常な光景かもしれないが、昔からの光景には既に慣れてしまった。


さて、そろそろロープウェイが到着する頃だろう。


火を消して、荷物を持つ。影は戻ってきた。


帰って大好きなお風呂に入りたい。



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