元神童、貴族狩り廃業します!~実力至上主義の魔剣学院にて無双し、神童として返り咲くようです~

大豆あずき。

第1話 約束の日


「新入生代表挨拶、入学試験総合成績第一位、一年Sクラス―――アルセ・ニューミリオン」


 司会の女生徒に名前を呼ばれた瞬間、この場にいる新入生やら教師や何やらが、一斉にオレに注目する。


 畏怖や憧れ、敵意や悪意といった、バラバラな感情がオレに向けられた。


 そのどれもがウザったいが、一位になった以上、無視することは出来ねぇ。


 だから返事もせずに組んでいた足に勢いをつけて、「っしょ」と、反動をつけて椅子から立ち上がる。


 そして椅子に掛けていた剣を腰に差して、ポケットに手を突っ込んだまま壇上に続く小階段を目指して歩く。


 すると、やたらオレにアピールしてくるヤツらがいた。


 一人は眼帯を付けてケガしてねぇのに、手をグルングルンに包帯を巻きつけてるチビ男。


 そしてもう一人は、王子様っぽいオーラを醸し出す、如何にもな貴族野郎。


 ソイツらのオレに対する好感度のベクトルは、まるで正反対みてーだ。


「さすがは我が盟友! さすがは我が道標もくひょう! さすがは我がずっ友! ふっ、さすがはこの我と対等な存在だけのことはある! 共に輝かしい未来を掴み取るための【改変者】となるため切磋琢磨しようぞ!」


 違ぇーわ、廚二病。誰がずっ友だし、【改変者】だ。訳わかんねー帰れ、と的確なツッコミを放ち、


「僕の無双学園ライフはここから始まるんだ……! 君に受けた屈辱を必ず晴らして、僕が真の【ヒーロー】だってことを証明して見せる! 君を排除することで……。覚悟しておけよ……」


 何言ってんだ、オマエ。イテェーぞ。それと帰れ、とこれまた見事なツッコミを放ったオレ。


 ふとオレは、ある事に気が付いた。


  っつーかテメェら―――


 …………


 ……………………


 ………………………………


 マジで誰!? 知らねぇーんだけど!? ってか、オレの学院生活に面倒ごと起きんの確定じゃねぇーか!?


 最悪だ……、と頭を抱えて、入学早々、憂鬱な気分になった。が、ふとあることが頭に浮かんだ。


 ……そーいや、家に合格通知が来たときは驚いたな。


 三つある試験の中で、二つが一位になんのは分かってたけど、まさかになるって思いもしなかった。


 正直、捨ててたからな……合格基準の点に達してれば、それでよかったんだけど。


 それもこれも根気強く教えてくれた、アイツのおかげか? いんや、全てオレの才能。そのおかげ。間違いなし。


「うんうん、さすがオレ―――ッたー!?」


 腕を組んでうなずきながら歩いてると、腰に衝撃が走った。


 オレはその衝撃に心当たりがあった。腰を叩かれたことに、そしてたったそれだけで、大打撃を与えられる腕力の持ち主に。


 アイツこと―――入学試験の手伝いをしてくれたオレの幼馴染だ。


「いきなり、何すんだよ! バカじゃねーの!」


 猛烈に襲い掛かる痛みを和らげるように、腰を擦りながら必要最小限の声量で幼馴染に怒鳴る。


 場所が場所だけにな。


「名前を呼ばれたら返事をする。そんなこともできないの? アルセ。私たち、新入生の代表としての自覚を持ってよね」


 うっざー……! 正論、うっざー……! テメェ、後で覚えておけよ……、とピクピクと青筋を立てて睨みつけた。


「はいはい、わぁったわぁった」


 それだけ告げて再び歩き出すと、背後から「それと」と幼馴染はまだ言いたいことがあるようだ。


 少しだけ振り返り流し目で幼馴染を見ると、真っ直ぐな笑顔でオレに言う。




「―――気張りなさいよ」




 幼馴染はこれからオレが何をするか知ってる。新入生代表挨拶のことじゃない。


 自分勝手で、わがままで、独りよがりな誓い。それを今日、果たすことをだ。


 そんなオレのために、幼馴染は止めるどころか協力してくれた。


 おかげで新入生代表になれたし、すぐに約束を果たすことができる。


 まっ、いきなり殴ってきたりする暴力的な部分は、どうかと思うけどな。


 ……それでも、オレは感謝してる。


 でも、今ここで言う言葉は『ありがとう』じゃねーよな。



「おう!」



 最高で最強にカッコイイ、覚悟を示す言葉だ。


 言葉じゃなくて背中でも覚悟を語ってから歩き出すと、背後から幼馴染の「ふふっ」と言う声が聞こえてきた。


 そしてオレは小階段を上って壇上に立つと、この場にいる全員の顔が見えて、また全員がオレの顔を見ていた。


 視線とは比にならない感情の圧がプレッシャーに変わるが、注目慣れしてるオレからすれば余裕だ。


 予定通り、事を進めるだけだ。


 なので一先ず―――跳躍して演壇の上に立った。


「「「――――――!?」」」


 瞬間、会場全体に動揺が走り騒めく。ただし、若干名はそんなこともなく、オレの目的のヤツも至って冷静だった。


 ソイツはただただ、オレの瞳を真っ直ぐに見上げていた。その蒼い瞳には、強い意志を宿していた。


 数か月経った今でも、ソイツの気持ちは分かってないみたいだ。それを今、確信した。


 だからオレは笑って、よりオレの意志は強くなった。



 ―――救いたい、という気持ちが。



「おい! あん時の約束、果たしに来たぜ!」



「…………」



「オマエの気持ちなんかどうでもいいし、望みなんか知ったこっちゃねぇ。それでもオマエが自分を貫くってなら……上等だ。そんなもん真正面から全否定して、ぶった斬ってやる」



 オレはゆっくりと、白銀の刃を鞘から取り出す。

 

 ブンッと真上から切り下すように、その切先を向けて言う。



「オマエが折れるまでオレはオレを貫く! さぁオレと、勝負だ!!」



 これは【貴族狩り】を廃業させたこの女に下剋上を果たして、【神童】として返り咲くための戦いじゃない。



 過去に囚われ、孤独と悲しみに絶望する、一人の小さな女を救う、どこにでもありふれた、たったそれだけの戦いだ。



 半年前のある夜。オレとコイツは初めて出会った時のことだ。



 


 大貴族メタボンから金になる物、全て奪い去った後、オレは微かな月光の入る薄暗い路地裏を歩いていた。


 その途中、オレは空間魔法を展開して、底のない真っ暗な空間の中に手を入れる。


 取り出したのは、一つのデカい宝石が乗っかった、逆に品性を失せさせるような指輪だった。


「これ、ディアモンドだよな? 世界で最も価値のある宝石って有名な、あの。そんなもん持ってるなんて、あのブタおっさん、マジで大貴族だったんだな」


 指輪を軽く弾いて、一時的に滞空するそれを華麗にキャッチ。それから脳裏にメタボン達の無様な姿を思い浮かべる。


「にしてもアホだな。あんな傭兵どもじゃ、オレに勝てるわけねーし、止められるわけねーっての。ったく、あんなヤツらに投資するぐれーなら、オレにしろってんだ」


「―――待ちなさい」


 背後から鈴の音を転がしたような声、オレの鼓膜を震わす……ほどではない、落ち着いた声色。


 悪く言えば、機械的で抑揚がない。


 思わずオレは、反射的にソイツの方へ振り向く。


 目に映ったのは、透き通るほど真っ白で長く片方の目を隠す、腰まで伸ばした純白の長い髪。


 そして、空いた髪から覗ける片方の瞳には、海のように深い蒼があった。


 正しく美人。だが、オレは上っ面な魅力など関係なしに、平等に誰であっても睨みつける。


 それは目の前にいる女も、例外じゃあない。


 次いで目に入ったのは、この女の服装だった。


 あの制服、どっかで見たことあるな……。にしても、どうして学生がこんな時間に出歩いてんだ? 


 しかし―――


「テメェ……いつからオレの跡をつけてきやがった。全く気配なんか感じなかったぞ」


「あなたがメタボンさんの屋敷から出て行ったところよ」


「初っ端からつけられてたのかよ!? ってか、何でテメェはメタボンの屋敷なんかに向かってたんだ? アイツの娘かなんかか?」


 確か丁度コイツぐらいの年だった気がする。学生ってのも、から聞いていたし、そうじゃねーのか?


 だけど—――


「違うわ。確かに娘さんはいらっしゃるけど、私はメタボンさんに雇われていたのよ」


「だよなー。顔の出来とか正反対だもんな。娘なわけ―――はっ? 雇われ?」


 メタボンの身内じゃないと確信した瞬間、オレは耳を疑うような言葉が聞こえたきた。


 だからオレは、素っ頓狂な声を上げて、仮面の中から目をパチパチとさせる。


「えぇ、あなたのような貴族狩りから守るよう、今日だけのアルバイトとして雇われていたの」


「バイト? なら、どうしてあそこにいなかったんだよ。いたのはあのブタが金で雇った傭兵団しかいなかったぜ。おかしいだろ? 雇われてたなら、オレと戦っているはずだ」


「たまたま……」


「たまたま?」


 しばらく女は俯いて考えると、顔を上げて自信満々な表情を浮かべる。


「たまたま、道に迷ってたら。いつの間にか、あなたが貴族狩りをし終えていたのよ。……ただそれだけ」


 ヒュー、と風が通りすぎ、静寂が訪れる。が、すぐにその静寂は切り裂かれることのなる。

 


「ブフッー!! バッカじゃねぇーの!」



 ―――オレの吹き出しによって。


「あんなデケー屋敷なんだから目印になって道に迷うわけねぇ―じゃん! せいぜい寝坊したって言い訳の方がまだマシだぜ! 方向音痴にもほどがあんだろ!」


 腹いてぇー、と女を指差し、腹を抱えて笑っていると、無表情なコイツの顔に僅かな変化が現れる。


 ムスッ、とした顔へと。


「……私が重度の方向音痴であることは認めるわ。だけどあなた、屋敷から出て行く時―――スゴく嬉しそうにしてたわね」


「うっ……!」


 そう言えばコイツ、オレが出て行く所から跡を付けてやがった……!!


 つまり―――


「子どもみたいにスキップしてルンルンではしゃいでいたけれど、そんなにメタボンさんのコレクションが手に入って嬉しかったの?」


 オレがご機嫌で帰っている所を、見てやがったってことだ!! クソがっ!!


「テメェー今すぐ忘れやがれ!! じゃなきゃ殺す!! マジで殺す!!」


「いいえ、あなたはそんなことしないわ。だって―――」


 瞬間、冷たい夜風がふわりとこの女の髪を靡かせる。そして、隠された片側の顔が明らかになった。


 そこには、同じように蒼い瞳だが少し色褪せ、氷のようなアイスブルーの瞳だった。



「あなたは貴族を狩って金目の物は奪い去るけど、決して殺すことのない―――【不殺の金月】、でしょ?」



 なのに、ただ瞳の色が僅かに違うだけってのに、なぜかとても神秘的だ……隠された顔が、もう片方とほとんど同じなのに……。


 たったそれだけの違いで、オレは―――まるで女神みてぇーだ、と、ふとそう思ってしまった。


 毒気を抜かれたオレは、仮面の中から笑みを浮かべる。


「【不殺の金月】ねぇ……」


 仮面と黒マントに身に付け、煌めく金髪が月光に照らされた様が、金色の月にように見えることからこんな風に呼ばれるようになった。

 

 もちろん、この二つ名は自分から名乗ったものじゃねぇ。貴族を狩ってく中で勝手に付いて来たもんだ。


 オレが望んだもんじゃない。


 ていうか、自分から名乗ったら、イタいし厨二すぎるだろ? 


 死にたくなる。


 まぁオレには、もう一つ二つ名的なヤツがあるが……それは過去の栄光であり、呪いだ。


 早く、消え去って欲しい。


「そう言えば、いつの間にかそう呼ばれるようになったな。けど、殺さねーのには理由がある。それは殺す価値のあるほど強えーヤツじゃねぇーからだ。だから、殺す必要はねぇ。どいつもこいつも雑魚ばっかり。ホント、つまらねぇー狭い世界だ」


 全力なんか一度も出したことねぇー。


 オレと戦ってきたヤツら、全員オレが実力の一割を出す前に伸びるか、戦意喪失して降参するヤツしかいない。


 本当につまらなくて、せめぇ……。と、今まで戦ってきたヤツらの顔を思い浮かべる。


 その度に大きくなるのは……虚しさだけだった。

 

 その鬱屈とした気持ちを殺すため、話題を切り替える。


「それよりお前、なんで片方の顔隠してんだ? 美人が半減しちまうぜ」


「だからよ。私が顔を全開にしたら、世の男性に目を付けられて面倒だもの。それくらい察してちょうだい」


 ウソだな。ぜってぇ何か訳アリ。ただ……。


「うっわー、ナルシストかよ、お前!」


 あまり追及するのは良くねぇーか。


 そう思ったオレが、わざらしく引いて見せると、初めて見る表情が見えた。


 オレは目を見開いて驚く。


 それは、ソイツの微笑みだった。気のせいかもしれないが、微かに口角が上がっていた。


「優しいのね……やっぱり」


「はっ? 何言ってやがんだ、テメェ。オレのこと知ってるってことは、今までにどれだけ貴族狩って財宝を強奪し、さらには貴族を守護するヤツらをボコしてきたか知ってんだろ? なら、どう考えても、血も涙もねぇ、悪逆非道の貴族狩り。それをお前は優しいだなんて、頭イカれてんじゃねぇーの」


 そうオレが真っ向から否定しても、コイツからは穏やかさが増すばかりだ。


 ……ムカつく。


「いえ、あなたは優しいわ。気づいてるでしょ? 私が片側だけ顔を隠すのには理由があるってこと」


「し、知らねぇーよ! そんなもん!」


「ウソ吐くのが下手ね……。私、知っているの。あなたが殺さない―――本当の理由を」


 本当の理由?


「さっきも言ったじゃねぇーか。雑魚だから殺す価値がねぇーって」


「いいえ違うわ。あなたは殺される人の恐怖が分かる。殺されて残された家族の人の悲しみが分かる。……憎しみが分かる。だからあなたは—――殺さないのよ」


「………」


「それにあなたは彼らを生かしておけば、自分がどうなるか分かっている。いずれ報復を受けると……それは自分だけではなく家族も。だから仮面を付けて素性を隠し、家族に被害が及ばないようにしている。これのどこか優しくないのかしら?」


 オレが無言を決め込んでいると、コイツは「図星ね」と呟いた。


 しかし、オレは反論する。コイツの言ったことが癪ってのもあるが、一番の目的は訂正だ。


「お前、勘違いしてるぞ。オレは家族のことなんか、だーいきらいだ。テキトーなこと抜かしてんじゃねぇーよ……何も知れねぇくせに」


 コイツはオレを分かった気でいるが、まるでわかってねぇ……。


 オレはそこまで……強くはねぇ……。


「そうね。全て私の憶測、あなたの本心ではないかもしれない。勝手なことを言ってごめんなさい。だけど、あなただって勘違いしていることがあるわ」


「あるわけねぇーだろ。オレが勘違いしてることなんて」


「いいえ、あるわ。それは—――」


 女がオレを指差して、言い放つ。


「あなたは強者ではないってこと、そしてこの世界はつまらなくない、広いってことよ」


 堂々とした声だった。


 今までのどの言葉よりも力強い。


 理想でも、綺麗事でもなく、己の経験、っつーことか。


 つまりは実体験、真実ってことだ。


 不思議とオレは怒りが湧いてくるかと思ったんだか、存外違うらしい。


 あるのはただ―――コイツに対する興味だけだ。


 貴族を狩った時の興奮よりも高まったオレは、その感情に身を任せて確かめることにした。


「ハハハッ!! なるほど、オレはただの井の中の蛙ってことか? 面白れぇー!! なら証明して見せろよ!! お前が言うように、オレがただの咬ませ犬だってことを、本当に世界が面白くて広いってことをなァ!!」


 オレは手を前にかざし、全身を駆け巡る熱―――魔力を掌に集中させる。


「テメェ、名前は何だ? ぶちのめしてやる前に覚えといてやるよォ……」


「そうね……」


 女は顎に手を当て、少々考えた後、ついに明かした。




「―――マリア・ルージェリオ。それが私の名よ」




「そうか、それがテメェの名か……いいぜ、覚えた」


 ヒヒッ、って口角を上げてから、掌に集中させて溜めていた魔力を解き放つ。


「いくぜ! 速攻で終わらせてやる! 【ライトニング・サンダー】!!」





~あとがき~

 

 貴族狩りが勝つか! ポンコツ少女が勝つか!

 

 貴族が狩りは勝つと予想する方は、星★3つ、作品フォロー、作者フォローを!

 

 ポンコツ少女が勝つと予想する方は、星★3つ、作品フォロー、作者フォローを!



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