第20話
……今さらだがロビン、普段はいたって穏やかで落ち着いていて、上品な笑みを絶やさないタイプの美青年だ。少々愉快犯っぽいところがあったりもするが、エレノアに対して何かするわけじゃないので『意外とお茶目さんだなぁ』なんて微笑ましく思うくらいのものである。そんな相手がめずらしく、ちょっとしおらしい表情をしているのもドキドキだが、それにプラスして騎士か何かみたいに跪かれているというシチュエーションがやばい。正直、前世でも今世でも全く色恋に縁がない身には心臓に悪すぎる!
「だっ、だいじょうぶです! もう平気ですから謝らなくっていいです!!」
「……そうですか? ご無理なさらずとも」
「無理してないです平気です!! それよりえーっと、あのやかましいお姉さんたちなんですけど!!」
「ええ、相変わらずお元気そうで。――キツネが憑いている、と仰いましたね」
「はい。って言っても普通の動物じゃなくて、長生きしたりしてそこそこの魔力を持ってるやつですね」
これを
しかし、その辺はまだ序の口。野狐のすべてがそんな牧歌的な化かし方をするとは限らない。中にはとんでもない悪さをしでかす、正真正銘の化け狐もいる。どこでどう憑いたかはちょっと置いといて、とにかく一刻も早くお嬢様たちから離れてもらわなくては。
「じゃあロビンさん、わたしが合図したら魔法を使うってことで」
「承知いたしました。お気をつけて」
「はいっ。任せといてください!」
めいっぱいの気合いを込めた返事をして、エレノアは持ってきた荷物を引き寄せる。その中から両手で持てるほどの大きさで、何かがぎっしり詰まっている麻袋を取り出すと、おもむろに振りかぶって、
「――どっ、せえーい!!! 今ですッ」
力の限り放り投げつつ合図を送る。はっと振り返った令嬢たちの頭上で、投擲された麻袋の口がほどけて、ほぼ真っ白の砂のようなものが宙に舞う。そこへ、
ぶわああああああああ!!!!
「「「「ぎぃぃやああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!?!」」」」
すかさずロビンが呼び出した風の渦が、白い粒子を巻き込みながら令嬢たちに襲いかかった。普通ならちょっと息苦しい、という程度の強風のはずが、この世の終わりのような絶叫を上げてのたうち回る。たとえでもなんでもなく、見ていて気の毒になるほどの七転八倒だ。
やがて一人ひとりから青白い鬼火のようなものがぽん、と飛び出し、もだえ苦しむ素振りをしたかと思うと、そのまま蒸発するように空気に溶けて消えていく。思わず全力でガッツポーズを取った。
「よーっし! やっぱり効きましたね、塩!!」
何のひねりもない正統派の方法だが、和モノの妖怪相手なら日本の伝統的なお祓いがいちばん確実だと判断したのだ。上手くいってよかった!
かくして勢い付いた特攻野郎Eチーム、もといエレノアとロビンは、校内各所でたむろしていたキツネ憑き令嬢たちを各個撃破していったのである。
……生徒会室で叫び声だけを聞いていた面々が、何の地獄絵図かと恐れおののいたであろうことは想像に難くない。良かれと思って逆に申し訳ないことをした、と自覚したのは、残念ながら全員分の野狐を無事に祓い終わった後であった。
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