第13話
嫌ではないのだが落ち着かない気分で、ぱたぱた顔をあおいでみる。その動きが気になったのか、ウロコや髪を拭いてもらったメルがちょろちょろっと近寄ってきた。どうしたの? とでも言うような仕草で首をかしげて、こっちの顔を覗き込んでくる。うん、かわいい。
『きゅ?』
「ああ、うん、何でもないよ。平気平気」
『うきゅー』
――ごおぉっ!!
アマビエの頭を撫でて和んでいたときだった。一同の頭上を巨大な影が駆け抜けて、一拍おいて風を切る音が響く。あまりの速度に音の方が遅れて聞こえているのだ。
影はそのまま邸の方へ向かう、かと思いきや、途中で減速しつつ方向転換した。その拍子に、今まで単色の塊にしか見えなかった姿がはっきりする。
「ドラゴンだ! えっ、何で!?」
「こここここっちに飛んできますよ!! お嬢様早く逃げましょうっっ」
「……待って、大丈夫! 私の身内だから!
ここよ、お兄様ー!!」
「、へっ!?」
突然の事態にあわやパニックになりかけたところで、それ以上の衝撃に見舞われてしまった。お兄様って!?
説明を求めたいところだったが、それよりもキャロルの声に反応したドラゴンがUターンして接近してくる方が早い。あっという間に距離を詰めると、上空でいったんホバリングする要領で勢いを緩めてから、庭園の開けたところに見事着地を決める。翼が巻き起こした強風で、その場にいた全員の髪や衣服がばたばたと翻った。さらに、
『――キャロル! それにロビンも!!』
「しゃべったああああ!?!」
『きゅううっ』
頭上から実に流暢な人語で話しかけられて、とっさにしがみ付いたシーナのせいでアマビエがちょっと苦しそうだ。助けるべきかなぁと横目で見ていると、ふいにドラゴンがぱっと光った。そのシルエットがすうっと縮んでいき、同時に見慣れた形――人の姿へと変わっていく。
しばしの後に光が消えると、そこには一人の青年が立っていた。年齢はロビンと同年代、おそらく十代後半から二十代の頭といったところ。淡いプラチナブロンドの髪と爽やかな新緑の瞳、端正に整った品のある顔立ちは、年齢と性別を差し引いてもキャロルによく似ている。服装は落ち着いた深い緑のジャケットに灰黒色のズボン、革靴という、どこかの高校の制服みたいなものだった。なんだか見覚えがある組み合わせだ。
……それはいいのだが。問題はその美青年、眉が見事なハの字になっていて、今にも泣きだしそうな顔だということだ。
「お兄様、お会いしたかったわ! 今日はどうしむぎゅーっっ」
「キャロルうううう!! 会いたかったー!! ていうか怖かったあああああああ」
「え、ええええええ……??」
駆け寄っていったご令嬢を、抱き留めるというよりはしがみ付く勢いでハグして半泣きの声を上げる青年。あまりにも唐突な事態に、かろうじて落ち着きだけは保ったエレノアのうめきが漂った。
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