第7話


 どーん!!!


 「へぶうっ!?!」

 『きゅーっっ』

 「きゃーっ!! お嬢様ぁ!?」

 なんか来た、と認識するよりも、衝撃が襲ってくる方が早かった。ラグビー選手が全力で突っ込んできたのかと思うレベルの一撃に、同年代の子より若干小柄なエレノアはぽーん、と景気よく真横に吹っ飛ばされる。

 ただ、そのまま芝生に投げ出されることはなかった。滑り込んできた誰かが、転がる寸前でキャッチしてくれたからだ。聞き慣れてはいないが、いちおう覚えのある声が降ってくる。

 「エレノア嬢、お気を確かに!! ――キャロル様、一体何があったのですか」

 「ごめん、完全に事故なの!! ねえ大丈夫? 頭とか打ってない!?」

 「~~~~~っだ、だいじょーぶです、たぶん……」

 うおおおお、と心の中で令嬢らしからぬ呻き声とともに悶絶しつつ、どうにか返事した自分を全力で褒めたい。なんとかして立ち直ろうと頑張っていたら、ふいにぽわっとまぶたの向こうが明るくなった。その瞬間、胴体の中程に居座っていた鈍痛がすうっと溶けるように消え去っていく。

 「……あれ? 痛くない?」

 『うきゅっ』

 「ってうわあ!?」

 どうにか目を開いたとたん、間近でこちらをのぞき込んでいる相手と視線がかち合って、失礼な話だが飛び退いてしまった。ほとんどお姫様抱っこの体勢で抱えてくれていたロビンにしがみ付く形になったが、正直恥じらっている場合ではない。

 申し訳なさそうにもじもじしつつ、芝生にちょこんと佇んでいる、多分ぶつかった相手。背丈は一メートルに満たないくらいで、ちょっと大きめのぬいぐるみといったスケール感だ。地面に引きずりそうなほど長い、淡い色合いの髪の間から、きょろんとした大きな瞳が覗いていて愛嬌がある……のだが、人間なら口があるべき所には黄色いクチバシ。全身に淡い緑色のウロコを備えていて、なおかつ脚とも腕ともつかないものが三本。

 見覚えがある、どころの騒ぎではない。まさかこんなところで実物にお目にかかれるとは!

 「わああ、アマビエさんだー!! 絵で見たよりうんと可愛いなあ、よーしよしよし」

 『きゅっ? ……きゅうう』

 「……まあ、ホントに詳しいのね。それに全然怖がらないし。ロビンが言ってたとおりだわ」

 「ええ、本当に。しかしキャロル様、何よりもまず謝罪と自己紹介をなさいませんと」

 「わかってるってば。……あの、エレノアさん、急に呼び出した上にこんなことになってごめんなさいね。大きな怪我がなくて、本当に良かったわ。

 それでね、もう分かってるとは思うけど、今日お呼びしたのはその子の事なの」

 こちらは初めて見る顔ながら、ロビンとのやり取りから察するに本日のホストであろう。エレノアとほぼ同い年に見える少女は、彼女がひたすらなでなでしている妖怪を指し示して、にこっと可愛らしく笑って見せた。



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