知らない人に話しかけられる。

 話は先週まで遡る。とある日の休み時間のことだ。僕は中庭のベンチに座り流行りのゲームにいそしんでいた。僕以外には誰もいない。表示されていくセリフを目で追っていく。

 なんて良い物語なんだろう……。なんと素晴らしい音楽なんだろう。

 思わず声を上げそうになってしまう。


「そのゲーム、今流行ってるやつじゃないですか」


 近くから声が響いた。顔を上げ、声のした方を向く。感動が引いていくのを感じた。オーマイガー、白けてしまったよ……


 声の主は知らない女の子だった。おそらく下級生だろうか。すぐ脇に佇み、私の手元を覗き込んでいる。


この子は、かわいい。

 視線を逸らして「そ、そうだね」と口にする。普通君の名前は?からになるはずなのに。


「いつもここにいますよね。そんなにこの場所が好きなんですか?」

「う、うん……そうだね」

「へぇ〜物好きなんですね」

うっ、ちょっと癪に障るかも。で、この女の子は一体なんなんだ?


「この子はなんなんだ?って顔してますね。先輩」

「ああ。図星か」そんなにわかりやすいか?僕は。

「私はただの後輩ですよ」

「そうなのか。……興味はないね」早く去ってくれ。君みたいなキラキラしてかわいい子は苦手なんだ。


「興味な、な?ない!?そうですか、今日は仕方がないから帰ります。ではまたです!」


そう言ってばいばい、と手を振って離れていった。


「名前、聞いとくべきだったか」


名前さえわかれば、先生に通報できるのに。




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