お試し!ダイジェスト版!『吸血鬼ですが、何か?』最終バージョン

とみき ウィズ

第1話 第2部 開戦編 

ここまでのあらすじ。


宝くじを当てた吉岡彩斗は本物の吸血鬼が見たいと言う気持ちのあまり、吸血鬼である四郎を蘇らせたが、ひょんなことから四郎と生贄の乙女だった真鈴と3人で質が悪い悪鬼退治を始める事に。

人目に付かず訓練をする場所を探して超安値で売り出している辺鄙な場所にある大豪邸に向かうがその地下室で…。


以下本文



俺達は地下室に通じる頑丈な鉄の扉の前に立った。


「なんだ?かなり頑丈に作られているな。」


四郎がコンコンと拳で扉を叩いた。


「うん、俺も前に来た時に違和感を感じたよ。

 その時は中に入らなかったけど、この中はボイラーなどの機械室だったようだね。

 もっとも、持ち主が亡くなる数年前にこの屋敷を大幅に改装してガスや電気の設備を入れ替えたからボイラーとか使わなくなったそうだけど。」

「そうなのか。

 ん?ちょっと生臭くないか?」


四郎が鼻にしわを寄せて周りの空気の匂いを嗅いだ。


「そうかな?

 真鈴何か臭う?」

「私は…特に…」

「そうか…まぁ、地下だから動物が入り込んで死んでいる事も有りそうだからな。」

「それ、死霊よりも嫌だわ。」

「まぁ、真鈴、死体があっても片付ければ済む事だよ。」


俺が真鈴に言って地下室の重い頑丈な扉を開けて扉横の電灯のスイッチをつけた。

地下室は両側に棚があって様々な箱や麻袋が乗っていた。

中央の通路の先に大きなボイラーが鎮座していた。


「思ったよりも黴臭くなんか無いわね…」

「死体があって腐ってたりとか…そんな気配は無いよ。」

「だが、なんか獣臭いぞ。」


四郎はゆっくりと歩いてボイラーの前に歩いて行った。

俺達も四郎に続いて歩いて行きボイラーの前に着いた。

ボイラーの前は4畳ほどの広さの空間で壁はレンガ積みで上の方にある明かりとりの窓のガラスが割れていた。


「ほら、あそこ、あそこから何か動物が入り込んだのかも。」


俺が窓を指さした。


「じゃあ、やっぱり何かが入り込んで死んでいるのかもね。」


真鈴は周りを見回して不快げに言った。

四郎が俺たちが入って来た扉の方を向いた。


「いや、死んではいない、生きている。

 彩斗、真鈴、われの後ろに来い!」


「え?何…。」


真鈴が訊き返した瞬間、扉近くの箱が派手に通路に落ち、棚から人間とオオカミか熊が合体したような生き物が飛び出してきた。

俺と真鈴は悲鳴を上げて四郎の背中に隠れた。


その生き物は身長2メートルはあるだろうか、通路一杯をその筋肉質で毛むくじゃらの体で塞いで凶悪な牙を剥きだし、よだれを垂らしながらゆっくり探るようにこちらに近づいてきた。


「くそ、退路をふさがれたな、死霊の気配に気が紛れて奴に気が付かなかった。

 奴も気配を消していたのだろうが。」


四郎は後悔の言葉を言い、掌を生き物に突き出した。


「よせ!危害を加えるつもりはない!

 また、われ達を食おうとするなら後悔するぞ!」


生き物は一瞬歩みを止めた、四郎が悪鬼なのを感じたのだろうか、が、しかし、悪鬼はものすごい咆哮を上げ更に牙を剥きだして近づいてきた。


「彩斗、真鈴、あの窓から出られるか?」


四郎が悪鬼を見たまま叫んだ。


「駄目よ無理無理!」

「とても出られないよ!」


俺たちが口々に叫ぶと四郎が見る見ると変化したようだ、後ろから見ても四郎の髪が逆立ち、体の筋肉が心持膨らんだ気がした。

そして、四郎は両手を腰の後ろに突っ込んで再び手を出した時、その両手には刃が湾曲した大振りなナイフが握られて、それを器用にくるくると回転させた。

凶悪な悪鬼の形相に変化した四郎が俺達に振り向いた。


「われが奴を食い止めるからその間に外に逃げろ!」


そう言うと四郎も悪鬼に負けじと咆哮して突進した。

俺と真鈴はガタガタと震える互いの体を抱きしめて四郎と悪鬼の戦いの行方を見守った。

四郎の戦闘態勢になった体は筋肉が膨張しているが体格では悪鬼よりも数段見劣りがする。

四郎は両手にナイフを持っているが、悪鬼の方も牙と共に両手から太く頑丈そうな爪をはやしている。


四郎が人間離れした速さでジャンプして棚に足をかけて悪鬼めがけて飛んでナイフを振るい、その肩口を切り裂いた。

派手に血しぶきが上がり悪鬼が咆哮したが致命傷にはならず却って逆上したように見えた。

そして、出血は瞬く間に収まり切り開かれた傷口が見る見る塞がって行く。

悪鬼が繰り出す爪を避けて四郎は悪鬼の体を切り裂いてゆく。

どうやらスピードに関しては四郎の方が上のようだが悪鬼のタフさは厄介そうだった。

悪鬼が振るった拳は頑丈な鉄製の棚の柱をぐにゃりとひん曲げた。

力も悪鬼は四郎以上かも知れない。


四郎が繰り出した両手からのナイフ攻撃を悪鬼は両掌で受け止めた。

悪鬼の掌に突き刺さったナイフをそのまま押し込みながら四郎は通路の片側の棚に悪鬼を押し付けた。


「この間に通路を抜けろ!

 そして走れ!」


四郎が俺達に叫んだが俺達は震える顔を左右に振ってそれは不可能だと四郎に示した。


「もぅ~!バカバカ!」


四郎がおねえっぽい言葉で叫び、そして悪鬼がナイフで刺された掌で四郎の両こぶしを掴んでそのまま俺達の方に投げ飛ばした。


「くそ!」


派手に転がって来た四郎は即座に起き上がるとボイラー脇に立てかけてある頑丈で先が尖った数本の火掻き棒の1本を掴んで立ち上がった。


「奴はわれよりも野生に近いから武器無しでは勝てるかどうか判らん!

 何とか血路を開くから通路を通って逃げろ!」


悪鬼は苦痛の叫びをあげながら掌に刺さったナイフを一本づつ抜いていた。

その隙に四郎は火掻き棒を構えて悪鬼に突進し、気合と共に悪鬼の腹部に火掻き棒を深く突き刺した。

苦痛の咆哮を上げる悪鬼が四郎の両腕を掴んで肩に噛みつき深く牙を突き立てた。


「うぉおおお~!いてぇええええ~!」


じたばた暴れる四郎がまだ掴んでいる火掻き棒をさらに深く悪鬼の腹に差し込んで上下に動かした。

悪鬼は苦痛で四郎を掴んでいた手の力が抜けて、四郎が床に落ちた。

四郎も悪鬼なので肩の出血と傷が塞がり始めたが、その戦いは、その戦いの凄まじさは俺の想像の遥か上を行くものすごい物だった。


悪鬼は腹に深く刺さった火掻き棒を引き抜こうと、火掻き棒を両手で握り身を捩っているがなかなか抜けないらしく苦痛の声を上げていた。

火掻き棒が刺さった所からは激しい出血が続いている。


四郎はその隙に通路に転がっている2本のナイフを両手に握りしめ、火掻き棒を抜こうとする悪鬼の両手を何度も切りつけた。

腕を切り落とそうとしているらしい。

俺は四郎が言った悪鬼退治の方法を思い出した。

再生しようとする傷に異物が入ったままだと再生できない。

頭や腕を切断するとまた傷口に付けないと繋がって再生できない。

なるほど、四郎が悪鬼退治のプロだと今更ながら感じながらも、俺は恐怖で動けずにいた。


人間よりも遥かに耐久力があり再生能力を持つ悪鬼同士の戦いは直視する事が耐えられないほどの惨たらしく血生臭い『壊し合い』だった。

殺し合いと言うレベルをとっくに超えていた。

真鈴もガタガタ震えながらも四郎と悪鬼との戦いから目を逸らせず、涙が流れ落ちる瞳でじっと戦いの成り行きを見ている。


「うっうっうっ!無理!こんなの無理だよ!怖いよ!あたし怖いよ!」


真鈴が嗚咽と共に叫ぶ。

俺も同じ気持ちだ、だが、今ここで俺達が何かを四郎を手助けする何かをやらないと四郎も俺達もあの凶悪な悪鬼の餌食になる。


四郎が懸命に悪鬼の腕を切りつけて悪鬼の左手首がぶらぶらと垂れ下がり、役に立たなくなっているようだ。

しかし、悪鬼が四郎の首筋に噛みついて左右に激しく揺さぶった。

四郎の口から夥しく血が溢れ出て力が抜け、ついに四郎が膝をついた。

悪鬼は勝ち誇った咆哮を上げながら、ブラブラの左手首を右手で傷口に当てて再生を図っている。

徐々につながり始める左手首、悪鬼の足元に膝をつき何とか立ち上がろうとする四郎。


その時の俺の行動は…後から考えても無謀だったのかも知れない、が体が勝手に動いたんだ。

俺はボイラー横の火掻き棒を掴んで大声を上げて突進して悪鬼の腹に突き刺した。

左手首の再生で両手が塞がっていた悪鬼は俺の突き出した火掻き棒を腹に受け、咆哮を上げた。

2本の火掻き棒を腹に突き刺し、そのうち四郎が刺した火掻き棒は悪鬼の腹を貫通して背中側に突き出ていた。

後から考えたらぞっとする。

悪鬼が手首の再生の為に両腕が塞がっていなければ俺は悪鬼に掴まれてずたずたに引き裂かれていただろう。

俺は四郎の服を掴んでボイラーの方に引きずって行く。


「彩斗、今のうちに真鈴を連れて…」


四郎は何とか言葉を出そうとしたがまた口から血がごぼごぼと溢れて言葉にならなかった。

悪鬼は火掻き棒を突き刺された腹をそのままに俺達を追ってきた。

俺は思わず目をつぶってしまった。


その時、バチバチバチ!とどこかで聞いたような音と悪鬼の苦痛の叫びが聞こえて来た。


「くらえ~!この野郎~!」


真鈴の泣き声交じりの声が聞こえた。

目を開けると真鈴がスタンガンを両手に握りしめて前に突き出しどうやら悪鬼の顔に電極が当たったらしい。

悪鬼が苦痛?に顔を歪めて手で顔を掻き毟っている。


動けるまで回復した四郎がその隙を逃がさずに起き上がり、悪鬼に強烈な蹴りをお見舞いして、仰向けに倒れた悪鬼の体に馬乗りになって両手のナイフを悪鬼の喉元に深く突き刺すと怒号を上げて捻り捩じり、またナイフを突き刺し捻り捩じった。

遂に悪鬼の頭は体から切断されたが、悪鬼の頭はまだ凶悪な表情を浮かべて牙を剥きだしている。

四郎がその頭を掴んでボイラーに走り、蓋を開けると頭を放り込んだ。

そしてボイラーの蓋の前に立ちふさがり、悪鬼の胴体に向けて両手のナイフを突き出して戦う構えを取った。

うろたえた感じで両手を突き出した悪鬼の胴体は頭の在りかを感じたのか、両手で探りながらボイラーの方に向かってゆく、が途中で力尽いたのか両膝をついて蹲った。

四郎は油断無くナイフを構えたままで悪鬼の胴体を見つめた。


「見ろ、かなり歳が古りた悪鬼なのだろう。

 年月が追いつくぞ。」


悪鬼の体が動かなくなるとやがて体が崩れ始め、そして灰の山になった。

支える力を失った火掻き棒がカランと音を立てて通路を転がった。


「彩斗、真鈴、お手柄だな。

 われ一人だったらもう少してこずる所であった。」


人間の顔に戻った四郎が口から溢れた血の跡を袖で拭って笑顔を向けた。






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