第6話

 獄炎竜の試練・第3層。


 次におっさんを待ち受けるのは、飛竜の巣であった。

 第三層に広がるのは、ダンジョンの中とは思えない巨大なドーム状の荒野。その上空を、空を埋め尽くすほどの無数のワイバーンが飛び回っている。


 この異世界は、ドラゴンが全ての生物の頂点に立っている。

 よくあるラノベ異世界の何倍もドラゴン族の力が強いのだ。

 それ故、ワイバーンやレッサードラゴンなどの雑種も馬鹿みたいに強い。

 酒場で煽って来たチビデブも一刀両断なんて言っていたが、1対1で死にそうになりながら倒したのが実情である。


 そんなのが300体以上。もはやA級どころかS級冒険者ですら瞬殺されるレベルだ。 

 しかも荒野は遮蔽物が殆どない。どれだけ運が上がっていようが、こればかりはどうしようもないだろう。


 ……とまあ普通はそう思うが、そこをノリと運でどうにかしてしまうのがこのおっさんである。


 荒野をふらふらと歩くおっさん。だがワイバーンはすぐさま侵入者に気付いた。そのまま一斉に襲い掛かるも、途中でおっさんの放つ悪臭に気付き全員急停止。

 とはいえ、そこで逃げ出さないのが今までの魔物との違いだ。

 ワイバーンは縄張り意識が強い。相手が各上だろうが悪臭撒き散らす汚いおっさんだろうが、縄張りを荒らす者を決して許しはしないのだ。


「フォオオオオオオオッ!」


 ワイバーンが一斉に吠え、大きく息を吸い込み――そして凄まじい威力のブレスを放った。

 1つ1つが人間なんて跡形もなく消し去ってしまうほどの超威力のブレス。それが太い束となっておっさんを襲う。広範囲に放たれたブレスはおっさんの身体能力では躱すのは不可能。

 ――万事休す。いよいよおっさんの強運もここまでかと思われたのだが。


「……あ?」


 唐突にふらりと真横に上体が揺れ、よろけたおっさんの足が地面を踏み抜いた。そうして踏んだ地面は青白い光を放ち、その後半径5メートルくらいある大穴を作り出す。


 ──そう、一層で何度も避けた落とし穴の罠である。


 そこに今度は運よく落っこちて、おっさんはギリギリのところで収束ブレスを躱す事に成功する。


「おわああああああああああああっ!!?!?」


 情けない悲鳴を上げながら、おっさんは真っ逆さまに落とし穴を落ちて行く。

 頭上を焼き尽くすワイバーンの収束ブレスが、最近少なくなってきているおっさんの髪を僅かに焦がした。


 落とし穴の下には、特大の剣山が待ち受けていた。

 無数にある棘の一本一本が太くて鋭い。あんなところに落ちればひとたまりもないだろう。

 だが……おっさんはやはりというか、上手いこと棘と棘の間に落っこちた。

 それどころか上着だけが棘に引っ掛かり、ビリビリ破れながら落下の衝撃を和らげてくれる。

 そうしてまたも紙一重で生き残ると、


「……ぐがー」


 おっさんの眠気は遂に限界を迎えた。

 道路の真ん中で寝る酔っ払いのように、太い棘の根元に寄りかかって落とし穴の底で爆睡をかましやがったのだ。


 果たして、目が覚めたおっさんは深い落とし穴の底からどう生還するのか。

 乞うご期待。

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