青の令嬢 〜今日も私の騎士団の様子がおかしい〜

@040413shun

プロローグ わたくし、気が付きましたわ!!

神が作りたもうた偉大なる世界


アルドンニア


はるか昔、人類と魔族による戦争のさなか、劣勢の人類に神の力が舞い降りた。

その力を受けた人類の中から、強力な4人の戦士が生まれた。


1人は、あらゆるものを焼き付くす

炎の力を得た者

1人は、あらゆるものを飲み込み押しつぶす

水の力を得た者

1人は、あらゆるものを育みまた癒す

風の力を得た者

1人は、あらゆる力を引き出し増幅させる

雷の力を得た者


4人は、力を合わせ、魔の王を打ち倒し、人類が大陸を制覇し、繁栄を極めた。


そして、時は流れ、4人の戦士を祖にもつ、4つの一族が生まれた。






これは、そんな一族の、とある屋敷、その令嬢と近衛騎士団の物語である。














===============



鳥が囀り、柔らかな陽光が照らすバルコニー。

そこで、わたくしはいつものように紅茶を嗜む。


視線を巡らせれば、そこに控えるは老齢の執事。


眼光鋭く、片腕にはクロスを垂らし、ピシャリと直立して、ただ一点を射抜かんばかりに睨みつけている。


わたくしは、ティーテーブルにティーカップを置く。

そして、ゆっくりと立ち上がり、執事の視線の先へと顔を向ける。


そこには──────






「もっと腕は大きく振れ!足の開きが甘い!!まだまだ動きにキレがないぞ!!!」


「「「「はい!団長!!」」」」




バルコニーの正面の中庭。

そこで、謎の棒を振り回しなが謎の踊りを踊っている騎士団長と騎士団の姿。


騎士団が振り回している棒は、どういう原理か分からないが様々な色の光を放っており、不思議な踊りに合わせて見事な流線状の光の帯を何本も作り出している。


そして、一際大きな声を張り上げ、キレキレの踊りを披露する鎧姿の大男。


彼こそ、わたしく、"青海璃ルナ"の近衛騎士団の団長、"フルーツェル=シュメル"である。


フルーツェルは、大陸最強の騎士であり、彼に勝てる人類は居ないとまで言わしめるほどの実力者。

かの四騎士の再来とまで言われるほどの猛者である。


それが、その御仁が────




「情熱だ!熱気だ!限界突破だ!!!もっともっと体全体で伝えろ!!俺たちの!パッションを!!お嬢様に!!!」


「「「「はいっ!フルーツェル団長!!!」」」」




・・・・これが、わたくしの騎士団。

・・・・これが、大陸最強???



まったく、どこの節穴かしら?

そんな大層な呼び名と称号を与えたトンチキは?




わたくしは、小さくため息を漏らすと、彼らに背を向けた。


すると、執事は恭しく一礼して、バルコニーの扉を開けた。


その間、背後で「お!お嬢様が!お嬢様が立離席なさるぞっ!!!我々のエールが届いたのだ!!!」と団長の声が聞こえたかと思えば、騎士団員が一斉に勝鬨のような歓声を上げていた。


わたくしは、それを無視してバルコニーを後にして、出せる限りの最高速度で歩き、部屋に戻った。


そして、部屋に備え付けられているわたくしの机に両手を付き、誰に言うでもなく呟いた。




「や、やっぱりですわ。

わたくし、気が付きましたわ!

わたくしの騎士団、もしかして、変??」




どうして、どうしてわたくしはあの時異変を感じ取ることが出来なかったのかしら?


前評判だけで判断したわたくしの落ち度?

それとも、初めて会った時の変な行動や発言をもっと気にするべきだった?


後悔の念に苛まれながら、いまだ外から聞こえてくる騎士団員たちの声をバックに、わたくしは当時のことを思い返した。













=========




「ルナお嬢様、旦那様がお呼びです。」




突然部屋の扉をノックして、執事がそう声をかけてきた。

執事が伝えてきた言葉に、わたくしは小首を傾げた。



(お父様がわたくしを?なにかしら?)



すぐ行く旨を伝え、わたくしは少しだけ身綺麗にして、お父様のいる部屋まで移動した。




「旦那様、お嬢様がお見えになりました。」


「・・・・入れ」



執事が、扉をノックし、要件を伝えると、中から威厳たっぷりの声が聞こえてきた。

部屋に入り、わたくしはスカートをチョンとツマミ、恭しく一礼した。

すると、お父様は執事を部屋から出し、わたくしとお父様だけが部屋に残された。




「・・・・行ったか?」

「・・・・ええ、マシューは行きましたわよ?」


「・・・・そうか」




わたくしが執事が退席したことを伝えると、お父様は目に見えてフニャフニャと机に突っ伏し、ふへぇーときの抜けた声を漏らした。




「いやぁ〜、よく来てくれたねぇルナ。まあ、その辺に座って座って?お菓子もあるから食べるといいよ?」




先程の威厳たっぷりなお父様は何処へ?と疑いたくなるほどニコニコと笑顔を浮かべたお父様は、どっさりとお菓子の入ったバスケットを目の前にある机の上に置いた。


いつもの事とはいえ、昔から本当に変わらない。

家族の前以外では、本当に威厳たっぷりで厳格な人でいらっしゃるのに。


食べないとしょんぼりするので、わたくしは1番手近にあった飴玉をひとつつまみ上げた。



「それで、何かありましたの?。お父様がわたくしを呼ぶなんて、あまりありませんわよね?」




わたくしがそう言うと、お父様はしょぼんと肩を落として、語り出した。




「いやぁ、実はね?。ルナに相談というか、ちょっと面倒というか、直接ルナには関係ないけど何とかして欲しいというか・・・・」




お父様は歯切れの悪そうに頭をかき、窓の外を見た。




「実はね、最近我が家の人間を狙う不届きものが増えているみたいなんだ。

そこで、ルナを守る護衛を雇うことにしたんだ。

募集をかけたら、すごい人が名乗りを上げてくれてね?

私はすぐに彼らに話をして、屋敷に招いたんだ。」


「あら、お父様ったら、わたくし自分の身くらい自分で守れましてよ?」




わたくしが小さく笑うと、苦笑いをしながら続きを話し始めた。



「それは十分分かってるさ。でもね?ルナは私の可愛い娘で、私は父親だ。どんなに信頼していても、心配なものは心配なんだ。そこで、噂に名高い騎士団の方々が来てくれたんだ。

ルナは、"フルーツェル"という名の御仁を知っているかな?」


「あら、もちろんですわ。"大陸最強"のお方の名前ですわね?」




わたくしの答えに、お父様は頷いた。

・・・・ま、まさか。

護衛というのは─────




「なら話が早い。今回護衛に名乗りを上げてくれたのが、その"フルーツェル君"と"彼が率いる騎士団の皆さん"だ。」




その言葉に、わたくしは両目を見開き、思わず息を飲んだ。


あ、あの大陸最強が?

しかも、その傘下の騎士団まで?!

い、一体どれだけの金額をつぎ込んだのか!!


わたくしは、思わずキッ!とお父様を睨むように見てしまい、それを察したお父様は慌てて弁明を始めた。




「い、いやいや待ってくれ違うんだ!かか、彼らは別に高額で私に雇われたわけじゃない!!!

依頼内容を話していたら、フルーツェル君が二つ返事で了承してくれたんだ!!

もも、もちろん引き受けてくれる前に、事前に説明をしっかりして、報酬の話も理解してもらって、全てを了承してくれた上で引き受けてくれたんだ!!無駄遣いなんてしてないよ!!!」





苦笑いを浮かべながら、そういったお父様に、わたくしは冷ややかな目を向けた。


そもそも、わたくしには自己防衛が十分可能な実力があり、この話自体が不要である。

なのに、勝手に話をつけてきてしまったお父様に、若干のいらだちを覚えてしまう。


しかも、わざわざわたくしを呼び出したということは、間違いなく護衛としての挨拶をフルーツェル様とのするため、顔合わせのために呼び出したのだろう。


そうだと言うのに、肝心要のフルーツェル様はどこにもいらっしゃらない。


これはどういうことなのだろうか??




「はっはっはっ、さすがに気付いてるみたいだね?

そう、フルーツェル君が居ないのは理由がある。実は本人の希望で・・・ほら!入ってきなさい」



すると、お父様は窓の鍵を開け、掛け声とともに窓を開けた。


すると、突然巨大な影が室内へと飛び込んできて、「とうっ!」と声を上げながら、1人の大男がわたくしとお父様の間に綺麗に着地し、高らかに声を上げた。




「はっはっはっ!ようやく出番ですな!!

お初にお目にかかる!!

"お戦士騎士団、変態長"の"フルーツェル=シュメル"ここに参上した!!!」




サムズアップしながら、豪快に笑う大男に、わたくしはポカンと見上げることしか出来なかったが、お父様は困ったように笑いながらこちらを見た。




「ルナ、見ての通りだ。

勝手に変な名乗りを上げて、かなり自由に振舞っている彼が、フルーツェル君だ。」




お父様がそう言うと、フルーツェルはサムズアップをやめて、私の方へ向き直った。

そして、顎に手を当ててマジマジとこちらを観察するように上から下へと視線を巡らせてきた。


わたくしは、その不躾で失礼な視線に、強い嫌悪感を感じて、わざとらしく胸を両手で隠す。




「あらあら、随分とご挨拶な方ですね?

初対面でわたくしの身体を舐めまわすように見るなんて、騎士団流の挨拶ですの?」


わたくしは、フルーツェルを見上げながら挑発的に笑う。

すると彼は、呆気に取られたようにキョトンとした顔をしてから、笑顔を浮かべ、わたくしの方へ向き直った。




「これはこれは失礼!!!

お嬢様に置かれましては、太陽すら霞むほどのご尊顔、噂にたがわぬ美貌を拝見出来たこと、心より感謝致します。

本日は、よろしくお願い致します。」




彼はそう言うと、その場に片膝を付き、騎士の礼を取った。

わたくしは彼が粗野な態度から一変したことに驚きつつ、気を取り直し、礼には礼をと考えてカテーシーを返し、再びお父様へ視線を向けた。




「お父様?、確かにかなり目に余る態度を取るようだけれど、しっかりするところはしっかりする見たいですわね?彼。」


「・・・・・そのようだね」




少し考える素振りを見せてから、神妙な面持ちでフルーツェルを見るお父様。

まだ礼を解いていないフルーツェルに、お父様は何かを感じ取ったのか、いつもの緩い笑顔をうかべた。

そして、頭を上げるように声をかけると、フルーツェルはゆっくりと顔を上げた。




「フルーツェル君、君は、私の娘を・・・・ルナを、守り通すと誓えるか?」




お父様の問いかけに、フルーツェルは再び頭を垂れる。




「初めてお目通りかなった瞬間より、心に誓っております。

この命燃え尽きるまで、お嬢様をお守り致します。」



フルーツェルの言葉に、お父様は苦笑いを浮かべ、首だけをわたくしの方へ向けた。




「さて、ルナ。本人の快諾も得たし、君もそこまで嫌っていないようだから、フルーツェル君を"ルナの剣"にすることにしよう。いいね?」


「・・・わたくしの、剣??」




お父様の言葉をよく理解できず、小首を傾げてしまった。

その瞬間、フルーツェルがものすごい勢でこちらに視線を向けてきが、務めて無視して、冷静にお父様の方を見た。


お父様は、にっこりと笑みを浮かべると、手を叩き、仕事用のキリッとした顔を貼り付けた。

すると、すぐに執事のマシューが扉をノックして入ってきた。




「お呼びでしょうか、旦那様」


「ああ、例の件について、詳しい説明をルナに。」


「かしこまりました。」




マシューが深く一礼すると、わたくしの方を見やり、部屋の外へと促してきた。

未だに不躾な視線を向けてきているフルーツェルを睨みつけ、見下ろした。




「・・・よく分かりませんが、あなたにも関係があるお話でしょう?着いていらっしゃい」




わたくしがそう言うと、フルーツェルはニッカリと笑い、その場にたち、わたくしの数歩後ろに陣取った。


それを確認して、わたくしはお父様へカテーシーをし、そのまま部屋を後にした。




・・・カテーシーの時、フルーツェルがものすごい顔でわたしくの後頭部を見ている気がしましたが、気にしないことした。

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