第8話 村を出て、新たな地へ
シーラの回復から2週間が経ち、郁夫は村での穏やかな日々を過ごしていた。発酵による治療が見事に成功したことで、村の人々は彼に深い感謝の意を示し、郁夫の存在は「村の恩人」として広く知られるようになった。だが、郁夫はここで立ち止まるつもりはなかった。彼の頭の中には、まだ見ぬ異世界の広い地域で発酵技術をどう広めていくか、その計画が膨らんでいた。
ある朝、郁夫は荷造りを終えてエイリンの家に向かった。彼が再びリグラントへ向かう準備が整ったことを告げるためだ。
「郁夫さん、本当に行ってしまうのね……」エイリンは少し寂しそうな表情を浮かべながらも、郁夫を笑顔で見送ろうとしていた。
「ええ、僕には次の場所でやるべきことがあるんです。でも、ここでの時間は忘れません。エイリンさんやシーラさん、村のみんなのおかげで、僕は発酵技術がどれだけ多くの可能性を秘めているか、改めて実感しました。」
エイリンは静かにうなずきながら、優しく言葉を返した。「郁夫さんのおかげで、シーラは命を救われました。どうか、あなたの旅が成功することを祈っています。もしまた戻ってくることがあれば、いつでもこの村に立ち寄ってくださいね。」
「ありがとうございます。エイリンさん、シーラさんにもよろしく伝えてください。」
郁夫は少し照れくさそうに微笑み、エイリンとしっかりと握手を交わした。
村を出て、郁夫はしばらく広い道を歩き続けた。次に目指す場所は、この地域の中心地である「リグラント」という大きな町だ。リグラントは商業と農業が盛んな町で、郁夫にとっては新しい技術や食材を学ぶ絶好の場所だった。
「ここでは、きっともっと多くの食材や料理が見つかるはずだ。それに、リグラントなら発酵食品を広める大きなチャンスがあるかもしれない。」
郁夫は心を踊らせながら、歩みを進めた。
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村を出てしばらく道を進むと、突然、遠くから喧騒が聞こえてきた。何かトラブルが起きているようで、郁夫は急いでその方向に向かった。すると、リグラントへ向かう道の途中で、馬車が故障して困っている商人とその従者たちがいた。
「大丈夫ですか?」郁夫が声をかけると、商人は焦った表情で振り向いた。
「おお、旅人か……実は、車輪が外れてしまってな。修理道具が足りなくて困っているところなんだ。」
郁夫は状況を確認し、少し考えた。彼のスキル「錬金(発酵)」は主に食材に使うものだったが、錬金術の応用として、他の物質を変化させる能力も少しは持っている。そこで、地面に散らばっていた木片や岩を利用して、応急処置として馬車の車輪を修復することにした。
「少し手伝ってみます。これで何とか動くかもしれません。」
郁夫は慎重に材料を錬金し、壊れた車輪を修復した。すると、馬車は問題なく再び動き出した。
「おお、すごい!まさかこんな方法があるとは……本当にありがとう!」
商人は感激し、郁夫に礼を言った。
「いえ、こちらこそお役に立ててよかったです。ところで、リグラントに向かっているんですか?」
「そうだ、リグラントに商売の用事があってな。もし良ければ君も一緒にどうだい?こんなことをしてくれた礼に、馬車で町まで連れて行くよ。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
郁夫は馬車に乗り込み、商人とともにリグラントへ向かうことになった。道中、商人は町の様子や、この世界の経済事情について教えてくれた。リグラントは大きな市場があり、世界中からさまざまな商品や食材が集まる場所だという。
「それに、リグラントには『ガストロフィア』という名高い料理ギルドがあるんだ。料理人や食材の取引をする人たちが集まる場所で、君のような食の探求者にはピッタリかもしれない。」
郁夫はその言葉を聞いて、ますます興味が湧いてきた。料理ギルドなら、自分の発酵技術を広めるための絶好の場所だ。しかも、ギルドに集まる料理人たちは、きっと郁夫の技術に興味を持ってくれるはずだ。
「ガストロフィアか……ぜひ行ってみたいな。」
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数時間後、リグラントの町が見えてきた。町は思ったよりも大きく、石造りの家々や広場が広がっていた。馬車が町に入ると、活気あふれる市場の音や、料理の香りが郁夫の鼻をくすぐった。
「ここがリグラントか……いよいよ、次のステップだな。」
郁夫は馬車を降り、商人に礼を言ってから町を歩き始めた。彼の目指す料理ギルド「ガストロフィア」は、町の中心にあるという。郁夫は胸の高鳴りを抑えながら、次なる冒険の舞台へと足を踏み入れた。
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