魔法少女?コトミちゃん!~魔法少女と入れ替わったが毎日刺激が強すぎる!~

烏丸

プロローグ

犯人は誰?

琴未ことみちゃんが犯人なんでしょう?」


 沙里さりちゃんの声は、絶望と怒りに震えていた。


「へっ?」


 俺は思わず声を上げる。


「お願い琴未ことみちゃん! 思い出して!!」


 沙里さりちゃんは俺の両肩を掴み、必死に訴えかける。


「お、思い出してって言われてもなあ……」


 俺は困惑しながら言葉を濁した。


「うぅ……」


 沙里さりちゃんは悲痛な声を上げ、俺から離れると、しきりに頭を動かし始めた。

 絹の糸のような長髪が揺れる。

 自分自身の感情を処理するために必要な行動なのだろう。


 純白のワンピースを着こなしている沙里さりちゃんだが、動きが激しいせいで着崩れしてしまっている。

 いつもなら肩の紐がずれないように気をつけているはずだが、今はそれどころではないようだ。


 沙里さりちゃんの服は、俺には到底着ることのできない乙女レベルの服だ。

 自分にはまだ早過ぎる。

 デニムのショートパンツとジャケットを着ることぐらいしかできない。

 スカートや女の子っぽいフリフリ系は無理だ。


 それより、俺は先ほどから沙里さりちゃんに言われていることを必死に考えあぐねていた。

 だが、脳内にそのデータは記録されていない。

 そもそも、俺が犯人だという証拠はあるのだろうか。


 苦笑いをしている俺を見て、沙里さりちゃんは何かを察したようで目に涙を溜め始めた。

 大粒の涙が床に落ち、小粒となって弾ける。

 俺にとっては些細なことかもしれないが、沙里さりちゃんにとっては天変地異が起こってしまう程の大事件なのだろう。


「大事なことなの……! 私にとっての世界なんだよ! 夢なんだよ! 最後の希望なんだよ!」


 沙里さりちゃんの声は震えている。


「いや、それはさすがに言い過ぎなんじゃ……」


 俺は言葉に詰まった。


「言い過ぎじゃないもん! ……返してよー!」


 沙里さりちゃんは俺のポニーテールを掴み、激しく引っ張った。


「い、イテテテ! 沙里さりちゃん! ポニーテールを引っ張らないで!」


 俺は思わず悲鳴を上げる。

 ゴムで止めた付け根から引っ張られ、まとまった髪の毛が一斉に引っこ抜かれる感覚に、恐ろしいほどの激痛が走る。


「わ、分かったよ沙里さりちゃん! ちゃんと思い出すから!!」


 俺は降参した。


「……むー。本当だね?」


 沙里さりちゃんは納得したのか、髪を引っ張るのを止めてくれた。

 だが、まだ俺の髪の毛を持っている。返答によっては武力行使も辞さないという意思表示だ。


 思い出しても思い出さなくても地獄を見そうで嫌だが、とりあえず、俺は沙里さりちゃんの監視の下、過去を思い返すことにした。

 果たしてどこから遡ればいいのか。

 俺の体が『琴未ことみ』になってしまった直前ぐらいから思い出した方がいいだろう。

 沙里さりちゃんに急接近したのがそこくらいだから、俺が何かした場合はそうなのだろう。

 琴未ことみが犯人でなければ、だが。

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