第2話:キョウスケとヒマリはゴブリン討伐へ。

 俺と陽葵は同じ夢をみていた。


 -ここはファンタジーの世界。-


 俺こと『キョウスケ』は魔法戦士で剣に魔力を乗せながらモンスターを攻撃するのが得意だし、陽葵こと『ヒマリ』は愛の女神アフロディーテの加護を受けた聖女だ。


 俺と陽葵はローラン国のメリッサという街の『遊撃自警団』に属していた。


 遊撃自警団は、軍や国の警備隊と独立した公営組織で、この世界で各国共通のギルド制民間自衛組織だ。


 いわば、冒険者ギルドのような組織だが、どちらかというと周辺地域でモンスターがいればギルドから依頼されて討伐に行ったり、街で凶悪な犯罪や暴行事件などがあれば逮捕権や公権力を持つ民間警察のような役割も担っていた。


 遊撃自警団にもランクがあって、俺と陽葵は共にAランク。

 このバッチとカードさえあれば、他の街や他の国の遊撃自警団の仕事も請け負うことができる。


 故に、Aランク以上の自警団員は周辺地域や隣国の厄介ごとも依頼されたりする。


 それなので、俺達夫婦は固定した家も持てず、子供もいなかった。

 だから余計に隣国が絡むような難しい依頼がギルドから舞い込んでくる事もある。


 俺達はギルドからSランクになることを勧められていたが、そうなると政治的思惑が絡むことが多くて、それが面倒だからAランクにあえて留まっていた。


 ◇


 俺たち夫婦はギルドの依頼を受けていた。


 メリッサから歩いて1時間ぐらい離れている郊外の森の中に、50匹以上のゴブリンがいるから、それを2人で討伐する依頼だ。


 2人ともSランク相当の実力なので「このぐらいなら2人で簡単に倒せるだろう」という、とても楽観的なギルドの依頼だ…。


 その規模のゴブリンの群れになると、キングゴブリンがいるかも知れないのに…。


 俺は森の中を歩きながら、陽葵にギルドに疑問を呈す言葉をかけた。


「いまは魔王が出たから、そっちに優秀な人材が引っぱられて人が減ってるよなぁ。こんな依頼なんて、本来ならゴブリンがいる人数分以上の自警団員が集まって討伐に行くのがお約束なのに…。」


 陽葵が少し溜息をつきながら俺の愚痴に答えた。


「…はぁ…。そうよね、しかたないわ。いまは魔王討伐で国王が認定した勇者に付き添ったり、勇者のサポートを命じられている自警団員も多いわ。わたし達はメリッサの切り札だから、ギルドは渋っているけどね…。」


「そういえば、ゴブリンの巣はどう片付ける?。50匹ぐらいなら、アフロディーテ様のお力を借りするか?。ここは誰もいないから発動が楽そうだよな?。神様のご加護なら魔力をあまり使わないし、周りも一気に浄化できるから一石二鳥だけど…。」


「ふふっ♡。そうよねっ。もうね、それが一番だわ。キングゴブリンもこれでイチコロよ♡。」

 

 陽葵から謎のハートマークが飛び出しているが、今は考えないことにした。


 俺と陽葵は森の中を歩いていると、少し木がまばらに生えて、辺りから木漏れ日が強く差し込むような明るい場所に出た。


「ねぇ、あなた♡。そろそろお昼だからご飯にしましょ♡」


 俺は遊撃団員が目撃したゴブリンの巣まで、15分ぐらい歩かなければいけないので、ここで腹ごしらえをして討伐に備えようと決めた。


「おっと、そんな時間か。ゴブリンの巣まで15分はかかるから、距離的にはちょうど良いか。お昼を食べてゆっくりしたら、早々に討伐をして帰ろう。」


 ここなら、突然、モンスターに襲われても木陰に隠れられる心配は少ないし、ちょうど大きな木が倒れていて、それがベンチがわりになりそうだ。


 俺は真空カットの魔法を使って、魔力を微調整しながら、ベンチ代わりに使おうとしている倒れた木の表面を、座りやすいように表面だけ少し削った。


 そして、魔力最小の真空カットで紙やすりのように表面を綺麗に整えた。


「あなたは小細工魔法を使うのが上手すぎるのよ。この前も街の大工さんに呼ばれて銀貨30枚で手伝いに行っていたよね?」


「だって、ギルドの練習場の増築が間に合わないから、練習場を建てている大工さんからさぁ、キョウスケさん、材木を切り出すのを手伝ってと言われて、ギルドの職員の許可を貰ってやったんだよ。民間組織だから、べらぼうな報酬は受け取れないし…。」


 そして、俺と陽葵は、魔法で座りやすいようにカットした木に腰掛けると、陽葵が作った弁当を広げて昼飯を食べ始めた。


「あなたはよく魔力の微調整ができるわよね。だけど、この前は失敗したでしょ?。あの時の依頼で、あなたがブッ放した超凝縮魔力弾で山ごと吹き飛ばしたから、周辺の地形を変えたお陰でギルドから怒られたばかりだから、しばらくは封印よ…。」


 陽葵は少し前の俺の失敗を思い出したのか、お弁当を食べながら俺の頭をポンと軽く叩いて悪戯っぽく笑った。


「すまない、あれは陽葵が可愛すぎて、よそ見をしてしまったんだ…。あんなところで戦ってる最中に陽葵の服が木に引っかかって、胸が見えてしまったから…そのぉ…。」


 俺の言葉に陽葵は顔を赤らめた。

「もおぉ~~、あなたったら、だめよ!!!。それでなくても高魔力を流しているから詠唱中は集中しないと!!」


 陽葵はそう言っているが、恥じらう姿が可愛すぎて、俺が悶えそうだ…。


『こういう姿の陽葵も可愛いなぁ…。』


 そう思いながら、俺は大好きな陽葵が作ったお弁当を広げていた…。

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