お熱い夫婦のイチャラブは世界を救う。

よんただ

第1話:それは、おとぎ話でしょ?。

恭介きょうすけさん、なにを読んでいるの?」


 土曜日の夜更け過ぎ、俺はリビングにあるパソコンでネット小説を読んでいた。


「ああ、暇つぶしにSNSのフォロワーさんが書いた小説を読んでいたんだ。」


 俺は妻の陽葵ひまりから声をかけられて、読んでる小説を見せてみる。

 陽葵はダイニングから椅子を持ってきて俺の隣に座った。


「あなた、フォロワーさんの書いた作品でも、ファンタジー系の小説を読むなんて、すごく珍しいじゃない?」


 本来なら、中国の春秋戦国時代などの小難しい歴史小説を中心に読む俺が、ファンタジーの異世界転生の小説を読むこと自体が陽葵にとって珍しく見えたらしい。


「このフォロワーさんの作品、なかなか面白いよ。ただ、今の流行りで、この系統のファンタジーは、死んで転生して前世の記憶がありつつ異次元の異能があって無双とか、優秀すぎる主人公が勇者パーティーから首になってギャフンと言わせる奴が多いよね…。」


 陽葵は俺の言葉を聞いて少し眉をひそめた。


「わたしは暇つぶしで、その系統の漫画をよく読むけど、たしかに多いわ。安易にクビを切るなんて考えにくいし、こんなに優秀な人を突き放すなんて自爆行為だわ…。」


 俺は大好きな妻の陽葵の頭をなでながら、その会話を続けた。


 陽葵とは学生時代から付き合って結婚に至ったのだが、若いときから陽葵の頭をなでるのが俺の癖になっていて、自然と彼女の頭をなでてしまう。


「まぁ、これを真剣に書いているフォロワーさんを否定するワケじゃないけど、多くの人からこの系統が読まれるから、市場もそれを求めているのだろうけど…。」


 陽葵は頭をなでられながら、しばらく考え込んでいた様子だったが、目をパッと見開いて、俺の右腕を抱き寄せながら何かを思いついたように口を開いた。


「ねぇ、あなたもラブコメ系みたいな変則の恋愛小説を投稿してるでしょ?。これをあなたがやってみたら、どうなるの?」


 俺は大好きすぎる妻の問いに深く考え込んだ…。

 そして30秒ぐらい考えた後に、ようやく陽葵の顔をのぞき込んで答えた。


「うーん、たぶん、真面目には書かないぞ。人を笑い飛ばすような…、もしくは読んでる人をもだえさせるような、とても奇妙な小説になると思う。」


 それを聞いた陽葵はクスクスと笑った。


「ふふっ、それがあなたらしいわ。やっぱり面白そうだから書いて欲しいわっ♡。」


 俺は陽葵が語尾にハートマークまで付けた言葉に、首を静かに横に振って、書くことを暗に否定した。


「いやぁ、陽葵。餅屋は餅屋だから基本は無理。俺は真面目に書いている人から小石をウンザリするほどぶつけられる覚悟で書くしかねぇよ。だからギャクとかネタモノで攻めないと笑って許されなくなる。」


 陽葵は俺の言葉を聞いて、なぜか少し笑顔になっている。


「わたしは、あなたの書いたへそ曲がりの小説を読んでみたいわ。あの奇妙な長編小説だって、なぜか数十人の固定読者がいるっぽいし、誰にも読まれなくて構わないと言ったくせに独特な味があるところが、あなたらしくて油断ならないのよ。」


 なんだか書くことが決定しているような陽葵の口ぶりに、慌てて俺は書くことを否定した。


「まっ、待ってくれ。絶対に俺には無理だよ。ファンタジーは設定も緻密にやらないとダメだし、ファンタジー自体がマンネリ化しているから世界設定も相当に練らないとマジにダメだ。」


 俺は陽葵の言葉に頭を抱えつつ、とりあえずSNSのフォロワーの小説を夫婦で読むことにした。


『参ったなぁ。これは1週間ぐらい書くように強請ねだられるぞ。たぶん、書くまで、あの手この手で強請ってくるぞ…。』


 俺はそんなことを考えながらフォロワーの小説を読んでいた。


 ちなみに、俺の妻の陽葵は、学生時代から相変わらず可憐で可愛い。


 学生時代は陽葵に言い寄ってきた学生が何人かいたが、彼女は下心がある男性は嫌いらしく、言い寄ってきた男性などは全く相手にしなかった。

 

 しかし、ある日、大学構内で陽葵が暴漢に襲われそうになったところを、俺が助けたことから付き合うようになって、お互いがベタ状態で結婚に至ったのだ。


 陽葵は思ったら真っ直ぐすぎる綺麗な性格をしているから、俺も陽葵が好きになった途端に一直線だった。


 そんな可憐で可愛い妻からの頼みだし、まして大好きすぎる妻からの懇願なら、聞きざるを得ないだろう…。


 俺が小説を書かなければ、陽葵は一緒にお風呂に入ろうと執拗に迫るだろう。


 そして、お風呂に一緒に入っているときに、陽葵がお風呂の中で恥じらいながら、

 「ねぇ♡。あなた書いて♡」

 なんて真剣に迫られたら、俺は二つ返事で承諾せざるを得ない。


 それに、夕食になれば、大きいハートマークがついたオムライスが出てくる可能性だってある。


 挙げ句の果てには、いきなり抱きしめられて、「あなたが書くと言うまでズッと抱きついているわ♡」などと、真剣なまなざしで俺を誘惑してくるだろう。


 陽葵がとても可愛すぎるから、最後にはウンと言わざるを得ないのだ。


『どうしようかなぁ…』


 とりあえず、頭の中で小説を書くネタや構成を考えながら、俺は陽葵を少し抱き寄せるようにして眠りについた…。

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