第36話 きょうのわんこ ⑦

ミラは、漁業組合と交渉をしたりなんだりと忙しそうだな。


その間、私は、見張り五人に囲まれながら、学校の技術室を借りていた。


電力はどうしようか?などと思っていたが、幸いにもこの学校には「アマチュア無線部」があるらしく、設備をそのまま使えた……。


電源については、部室にフル充電のバッテリーがあった。


助かるな。


「あ、あなた、自衛隊の人……?」


ん?


……臭いな。


精液の匂いが酷い。


なんだ、この女は?


……いや、まあ、そうだな。


普通に性奴隷の類だろう。


ここは学校で、やりたい盛りのガキが多い訳で。


そういうのがいてもおかしくはないだろうな。


「お、お願いっ!助けて、助けてぇ!私、ここの人達に犯されてるの!もう嫌、嫌なの!助けて!!!」


知らないんだよ、そんなのは。


絡んでこないでほしい。


仕事でもないのに、誰が進んで人助けなんかするものか。


「あーすいませんー、自分そういうんじゃないんでー」


「やだやだやだ!助けて!助けてぇ!」


泣き喚く女を突き飛ばして、私は先に進む。


さて、電波の感度が良さそうな校庭に移動するか……。




「何をやっている?」


「ありゃ?ミラだっけ?自分は、アマチュア無線を繋いでるんすよ」


「無線?誰にだ?」


「そりゃ、もちろん……」




『コールサインG13RAVEN、クリス・レッドフィールドだ。場所は四日市辺り……』


愛しい愛しい、私の先輩に、だよ。




『おお、繋がった繋がった。やっぱりゾンビものだと、アマチュア無線で生存者同士が通信するのは基本だもんなあ。そっちは誰だ?』


漁業組合の吉岡から聞いておいたのだ。


先輩が、暇潰し兼人集めに、アマチュア無線で不特定多数に呼びかけている、って。


「先輩、お久しぶりっす!」


『んー?俺のことを先輩と呼ぶ女は数多くいるが、一番印象に残っているのは威貴だな。お前は威貴か?』


「はい!武尊威貴っす!またお話できて嬉しいっす!」


『はえー、お前生きてたんだ。まあ死にはしないと思ったが。隊はどうなった?』


「あ、脱走したっす!」


『えーマジ〜?脱柵ぅ〜?脱柵が許されるのは士長までだよね〜!』


「まあどうでも良いんじゃないっすか?あいつらなんか最後まで市民を守る!みたいなこと言ってたっすけど、自分は付き合いきれないんで、小銃盗んで逃げたっす」


『マジぃ?俺もそうすりゃ良かったかなあ。今は手元にショットガンとリボルバーと重機関銃しか用意できなくてさあ』


「え?何でそんなもん持ってんすか?」


『ああ、俺って生まれつき超能力が使えて……あれ?これって言って良いんだっけ?超能力者って普通にいるよな?』


……んーん。


あの人は本当にもう……!


「超能力者は、中国が三十年前にやった『次元の壁を越える実験』で異次元ゲートが繋がった以降、千万人に一人くらいの割合で生まれてるらしいっすね。因みに、超能力者は名乗り出ないと重犯罪扱いっす」


『ハハッ、面白。犯罪者と脱走者でイリーガルコンビ組もうぜ!……あー、で、俺の超能力だっけ?んー、なんて言ったら良いかな?言っちまえば、ランダムに物質を創造する、みたいな?』


「あー、じゃ、ランダムガチャでSR銃器引いた感じっすか?」


『そうそう。まあ、一度引いたカードはもう一度同じの出せるから引き得なんだけどね』


んんんんんーーー。


何で、この人は、こう……。


超能力者。


いるんだよ、本当に。


中国政府が世界の反対を押し切って行った危険な実験である、『ゲート』の発生。


それは、ほんの数秒だけ、暗黒の異次元ゲートが地球に繋がり、即座に消失したというしょぼいものだったが……。


その時に実は、ゲートから、観測できない何かが地球に入り込んでいたらしく、「謎の奇形生命体の死骸」や「明らかに地球由来ではない超技術の産物」などが世界中で少しずつ見つかったという。


この私の身体を変異させた薬剤なども、その異次元由来の生命体から抽出された「何か」を使用されているらしいし……。


アメリカなんかでは、異次元の科学技術を解析して、高性能ロボットやパワードスーツ、レーザー銃なんかを作ったと聞く。


そして、その「異次元の遺物」と同じように、地球人類の中にも「超能力者」としか言いようのない子供がごく稀に産まれるようになった。これは、テレビなどでも放送済みの周知の事実だが……。


まさか、先輩がそうだったなんて……!


『まあ今はそんな大したもん出せてねえよ。牛肉が出なくてなあ……、豚肉とサラダチキンは出せたんだが……』


「あーーー、えっと……、先輩?」


『ん?どうした?』


「自分がそっち行ったら、養ってもらえます?」


『構わねーよ?今ちょうど人を集めて、勢力作るかーみたいな話してたんだよね。神戸に向かってて、神戸に停泊してる豪華客船で北海道に帰郷して、実家の村で暮らすかなー、みたいな』


「ご一緒しても?」


『良いよ。けど、迎えに行くのはめんどくせーからお前が来い。船の状況次第だが、本州で物資集めもしたいから出発はまだまだ遠い』


そんな話をしていると、隣から手が伸びて来た。


手元の端末を奪われる。


「おい、お前!聞こえているか?!なあ!」


『えっ何怖い。誰……?』


「味布高校のミラ・グラークと言う者だ!私のことを保護してもらいたい!私は、ライフル射撃競技の全米ハイスクール大会で二位の腕前だ!必ず役に立つ!」


ミラだ。


自分を売り込んできた……!


『いきなり出て来て何だ?何の話だ?』


「こちらの位置は浜松。お前が、現地の漁業組合の連中と取引して、その際に大量の物資を渡したことが先程確認できた。作物の種や、生きた鶏もだ。そこから、お前の能力は本物だとこちらは判断した」


『あーそうね』


「私も神戸というところへ向かう。お前のために働くと誓おう。だから、保護してほしい」


『んー……、威貴』


あ、私の意見を言えと?


「んー、まあぶっちゃけ、動きは素人っすけど居ないよりはマシな感じっすね。女なのに男共を従えて、数十人のコミュニティのリーダーやれてるんで、無能ではないんじゃないっすか?」


『へえ』


「あーでも、普通に性奴隷とか飼ってるし、強盗強姦もやってるっぽいっす」


『あー、そっか』


「ま、待て!私はやっていない!指示をしただけだ!性奴隷だって、あの女はそれにしか使えない無能だからであってだな……!」


いや、してるんじゃないか、指示を。


……だがまあ、やり過ぎない程度のお上品な略奪は「徴税」とも言える。


生かさず殺さずだが、漁業組合の人々も生かしてはいたし、周辺地域のゾンビやら敵対者などを積極的に狩っていたし、治安維持をしようという意思は感じられた。


悪ではあるが無能ではない、と言ったところか?


『んー、まあ、裏切ったら殺すだけだし……、村に入っちまえば、うちの村は閉鎖的でみんな身内みたいなもんだから、従わないなら村人達が殺すし……。うん、良いよ、受け入れるわ』


「ほ、本当か?!」


『ああ、手下は何人いる?』


「連れて行きたいのは……、まあ、三十ってところだな」


『全員では?』


「八十五いるが……、良いのか?」


『構わねーよ、性奴隷も連れて来て良い。女は多い方が助かるんだ。俺が使う訳じゃねえが、男のガス抜きにも、今後を見据えた母胎にもなる』


「分かった。道中で奴隷狩りもするか?」


『んー……、いや、四日市に物資を隠して集積しておく。乗り物とかあるか?』


私が答えよう。


「大型トラックが四台手に入る予定っす」


『分かった、それくらいの分を置いておく。さっきの女……あー、ミラとか言ったか?奴隷狩りなんざしないで、物資を餌に保護してやれ。男でも女でも、若くて使えそうなのをな。もちろん、無能な年寄りは捨て置けよ?』


「分かった、期待に応えると約束しよう」


『話はこんなもんでいいか?まあ、毎日この時間帯にはこのチャンネルを開いておくから、なんかあれば連絡してくれ。オーバー』




「……お前、何している?早く漁業組合とやらに燃料を渡しに行くぞ」


「あ、やっぱついてくるんすねえ」

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