第22話 作って遊ぼ!

相変わらず、兵庫への道中のパーキングエリアで休憩中。


どうやら、まともなコミュニティも世の中にはあるようだな。


……いや、それはここが都心から離れた田舎だから、か?


とにかく、世の中にはまだ生き残っている人々が多いようだった。


食事を終えてから、俺は再び外に出る。


まだ昼だ、暇を潰さなくては……。


こんな世界では、暇つぶしにも難儀するな。


ゲーム、本、テレビ……。全ては、遥か遠き文明の遺産だな。


まあトレーラーには発電機があるけどさ。


それに、折角のゾンビ世界なのだから、平和そうなコミュニティを見て回るのも醍醐味ってもんだろう……。




俺は、冬芽を伴いながらトレーラーを降りて、周りを見回した。


ここはパーキングエリア。


広い畑に面する、柵で囲われた公道にある、パーキングエリアである。


田舎のパーキングエリアって感じの様相で、「地元の野菜を使ったフードコートメニュー!」みたいな、いかにも田舎臭いのぼりが出ているな。


近くにある畑は、キャベツとさつまいもと大豆と米と……ってくらいか。季節が変われば、他にも色々あるんだろうな。


それと、鶏が木製の柵の中で飼われている。


鶏の餌はくず米や、豆殻とかを与えているらしい。エコロジーだ。


水は、農業用水を煮沸するなどして使っているみたいだな。


燃料は……、近くの森の木材か。


「ん、どうした?」


おっと、先ほどの猟師爺さんか。


「今晩はここで過ごすことにした。明日の朝に出ていくよ」


「そうかい」


「それで、相談なんだが……」


俺は、爺さんに提案をした……。


「はあ?何だって?」


「だから、試しにここに建物を建てたりしてみて良いか?って聞いたんだよ」


「……何言ってんだ、おめえさん?」


俺は、コンソール能力に付随する、メニュー画面を開いて、クラフト画面に遷移した。


視界の端に、ずらりと並ぶ素材表と建築物……。


パッと手をかざして、手に持った木材を、ハンマーで叩くと……。


カンカンカーン!と甲高い音がして、次の瞬間には「ぽこっ」と、一瞬でバリケードが一枚生えてきた……。


やはり、できたか。


これが俺の能力の一つ……、「クラフトメニュー」である!


「な、なんだあ、こりゃあ……?!」


爺さんがたまげるのも無理はない。


他人から見ると、虚空に向けてハンマーを振り下ろした俺の目の前に、いきなり木製バリケードが生えたとしか知覚できないからだ。クラフト……「作った」という感じすらしないだろう。


あ、因みにだが、「木材」と「鉄」は既にコンソールコマンドで出せるので、要求材料が「木材」と「鉄」の建築物は事実上無限に出せるぞ!


「良ければ、バリケードを作らせてくれないか?」


「あ、ああ……、頼みたいけどよ。でも、何にも対価は……」


「いや、俺もいつかどこかで、ここみたいなコミュニティ?居住地?……まあとにかくそういうのを作りたいと思っているんだよ。その時のために腕を上げる訓練だと思えば……」


で、ノーコストで居住地作りの練習ができるなら、やるでしょ?ってことで……。


「い、良いのか?なら、頼む」


そんな訳で、このパーキングエリアの周りをぐるっと、安易な木製バリケードで覆って。


バリケードより高い櫓を作って設置して。


表門と裏門に、鉄製のスライド門を作ってやった……。


それと、熱の効率がいい石窯と、マットレスか。


石窯は、その辺の道端のアスファルトを破壊することで回収した「石」で作って、マットレスは手拭いで作ったぞ。


え?手拭いではマットレスの量産なんかできない?


うるさいですね……。俺のゲームではできるんだよ。


但し、ゲームのクラフトコマンドは、ゲームのレシピに存在するものしか作れないから、マットレスだってそんな高級品だとかではない。


だがそれでも、人々は大喜びして俺を称えた。


「これで柔らかいところに寝られる!」


「あら、釜は助かるわ」


「壁はいいな、見張りの巡回を減らして、畑仕事をやれる」


「「「「ありがとう!」」」」


「どうも」


で、もちろん、ゾンビを軽く数体だけ誘引してきて、バリケードを叩かせる。


いや、許可は取ったぞ?


普通のゾンビはご覧の通り、戸も開けないし、階段も登れない。


目の前の木製バリケードに体当たりをするだけだ。


それも、速度は乗っていないので大したものではない。まあ、何時間もやられたら穴が空くかもしれんけど。


そんなゾンビを……。


「喰らえっ!」


櫓の上に立つ見張りの猟師が、ライフルで撃ち抜いた。


『ウボァー……』


脳みそを側頭部から溢したゾンビは、そのまま倒れて動かなくなった……。


うん、いい感じだな。


小規模の居住地ならこんなもんでいいか。




そして次の日。


俺達は……。


「助かったぜ!」


「また来いよ!」


「ありがとな!」


人々の声援を受けながら、兵庫へと進んでいった……。

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