第12話 ラブ・サバイバー
そろそろ、辿々しいが冬芽も歩けるようになってきた。
どう考えても二次性サルコペニアだからなあ。
つまりは、筋肉が足りないってこと。
なんで、少しずつ摂取カロリーを増やして、リハビリ運動をさせなくちゃならない。
「おっ、頑張ったな!」
よちよち歩きで俺の前まで来た冬芽を抱きしめて、頭を撫でてやる。
「えへへぇ……♡」
冬芽はそれを受け入れて、喜んでくれた。
冬芽の趣味である文学の話が通じると分かって以降、冬芽は俺に心を許してくれるようになったな。
今も裸のまま、タオルを巻いた姿で生活させているが、それもあまり嫌がっている節はない。
「じゃあ、今日はストレッチしたら終わりにするからな。もうちょっと頑張れるか?」
「はいっ!」
「よし、良い子だ」
身体に触れても、甘い吐息を漏らすだけ。
嫌悪は感じられなかった。
うーん、どういうことだ?
聞いてみるか。
「冬芽よー」
「はい?」
「俺のこと、どう思ってる?」
「好きですよ?感謝も、しています」
「最初は結構警戒してたじゃん」
「そうですが……、でも今は違います。お兄さんが、優しくて素敵な人だって分かったので」
ふーん?
「何でそう思うんだ?」
「……お兄さん。私は、今までに『地獄』を見てきました。人と人が争い合い、奪い合い、犯して殺すような、地獄を」
「ふむ」
「私自身も、もう死ぬんだと、ここで終わりなんだと思っていました。事実、立つこともできなかった訳ですからね。仮に食べ物が手に入っても、既に重度の飢餓状態で、消化もままならない状態だったんです」
「で?」
「それを……、私がここまで回復するまで、甲斐甲斐しく介護してくださった貴方のことを。嫌ったりなんて、できませんよ」
あー、そう。
でも……。
俺は、冬芽を包んでいるバスタオルの、胸の部分をずらしておっぱいを露出させた。
「下心ありき、だがな」
すると、冬芽は少し笑って。
「だとしたら、嬉しいです。お兄さんに必要だと言ってもらえたら、私は幸せ」
自分から、バスタオルを全部剥いだ。
うわあ、まだガリガリだなあ。
マシにはなってきたと言え、まだちょっと食指が動かない。
「お兄さん。私にはもう、貴方しかいないんです。親兄弟も家政婦も死んで、友達は元からおらず、好きだった本屋ももう……。貴方が、私の世界の全てなんです。だから……」
「ああ、分かった。ずーっと、可愛がってやるからな」
「……はいっ!」
そうかそうか、そう言ってくれるか。
なら、こうしよう。
コンソールコマンド……、『パーティ加入』!
一つ、分かっていることがある。
コンソールコマンドの力は、実は、他人に分け与えることができるのだ。
分け与える、は正確ではないか?
だが少なくとも、これはできる。
「凄い……、凄いです、お兄さん!お兄さんの言った通り、魔法を使えば使うほどに魔力が増えて来ました!」
「ははは、そうだろうそうだろう」
『ステータス』の付与だ。
俺は、不断の努力により、凄まじいまでのステータスとスキルを山程得た。
だが、ご存知の通り、努力をすれば結果が出る訳ではないのが人間というもの。
筋トレをすれば筋肉が増える、勉強をすれば頭が良くなる。なるほど、理論上はそうだな、理論上は。
しかし、実際の話、鍛えれば結果が必ず出る訳ではないし、鍛えてもその人の上限は越えられない。これは絶対不変の真理だ。
それを、ステータスの付与は、ぶち壊すのである。
即ち、鍛えれば鍛えた分だけ無限大に強く、賢く、健康に!
本来なら生まれた時から変わることのない魔力量や、IQまでもがガンガン伸びる!
ご覧の通り俺は、体格は人間の理論値ほどにデカくなっており、その腕力なんかは人間の最大値を遥かに超えている。それがステータスの力だ。
そのステータスを、冬芽にも付与してやったのだ。
故に、冬芽は、凄まじい勢いで知力と魔力が伸びており、今では本人が自称している「傍流の三流魔導師」なんてものではなく、「一端の一般魔導師」くらいの実力を手にしていた……。
「見ててくださいね……、Τρυπήστε τον εχθρό με ένα φλεγόμενο βέλος!『火炎のボルト』!!!」
そんな冬芽は、回復した身体もそこそこに、俺と共に外に出て、ゾンビ相手に魔法を放った。
前に見せてもらった攻撃魔法は、精々が単発の拳銃弾程度だったものだが……。
今、新しく覚えたらしい呪文は、人の腕ほどもある焔の矢が、音速程度の速さで飛来して、ゾンビ五、六体をまとめて貫いた!
そして、貫かれたゾンビの身体は発火して、数十秒程度で灰になり、崩れた……。
火炎のボルト、か。
凄い威力の呪文だな。
後で聞いた話だが、この必殺級の呪文を、五回まで連続で使えるほどに魔力も高めているらしい。素晴らしい努力だ。
「ど、どうですか?」
不安そうにこちらを見上げる冬芽に、俺は……。
「凄いな、よく頑張った。自分の身を守るどころか、戦うにも充分な力だと思うぞ」
そう言って頭を撫でてやった。
すると……、冬芽は、いきなり涙をこぼした。
「……初めてです。頑張ったねと、頭を優しく撫でてもらったのは」
ああ、そうだったな。
冬芽の親は厳しくて、冬芽を落ちこぼれと呼んで遠ざけていたのだとか。
「嬉しい……、嬉しいんです。大好きなお兄さんに、優しく褒めてもらえて。私は、お兄さんのそばにいて良いんだ……!」
なるほどねえ。
肯定してほしかったんだな。
なら、してやろうじゃないか。
「お前はよく頑張ってるよ。偉いぞ、良い子だ。これからも俺を支えてくれるな?」
「……っ!はい、はいっ!もちろんです!」
そう言って、俺と冬芽は抱きしめ合った……。
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