k16(浅谷彰行)

@self-consciousness

Test01

「浅谷さんは、左眼を閉じていることが多いですね。癖ですか?」

「左眼を? そうですね。癖かもしれません」

 和久井さんに指摘されるまで、自分では認識していなかった。僕にも、無意識に行う癖があるというのは、新鮮な驚きだった。でも、原因はすぐに分かった。

「僕の左眼は、いつも少しぼやけています。半年前に破損して、新しい眼に交換した時からです。何度調整してもらっても、ずっとぼやけたままなのです。エンジニアによると、左の新しい目の方が性能は良いのだそうですが、脳との相性が悪いのだろうとのことでした。以前と同じ古い型の眼に取り換えることも検討されましたが、在庫がもう無くて、不可能だとのことでした」

「そういうこともあるんですね」和久井さんは、悲しそうに言った。

 自分のことを誰かに話したくなるのは初めてだった。エンジニアに質問されて答えることはある。でも、それ以外で話すことはなかった。脳が何らなかのメリットを感じたのだろうか?

「右足も、一年前に膝から下の部分が故障しました。新しい足に交換するとうまくフィットして、動きも格段になめらかになったのですが、左足とのバランスがとれなくて、違和感がありました。それで左足も膝から下を同じものに交換してもらいました。それで両足のバランスがとれて、動きがスムーズになりました。左眼はいっそ外してしまいたいという思う事があります」

 また彼女に、悲しそうな顔をさせてしまった。


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

k16(浅谷彰行) @self-consciousness

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ