BLUE REALIZE

けろすけ

序章/2021年4月

第1節第1話『2021年4月某日』

『本日未明、魔術師とおぼしき人物が確保されました。容疑者は火属性を扱う術師とされ、家屋を炎上させたとして放火罪に問われています』


『では次のニュースです。不可魔術師リアライザーについて、新たなことが——』


 と、そこでアナログ風のテレビは暗転した。ハリネズミのようなボサボサな黒髪をかきながら、男はテレビのリモコンをおく。


——ったく。どいつもこいつもバカだよな。どうしてそう、自分の力を使いたがるんだか。


 男は頭の中に疑問符を浮かべて、洗面台へと向かう。魔術師、というのは現代において秘匿されるべき存在だ。理屈や常識を覆しかねない人間は、多くの人の目がつく表側で活動することをよしとされていない。使い方の問題じゃない。『使う』という行為自体が犯罪に問われるような時代になっている。そういうのが国の見解はであるということは、ニュースの男と同じくして魔術師である藤稜太ふじりょうたも聞き及んでいる。


——国が規制してるってのもわけわかんねえけどな。魔術も便利だと思うんだが。


 魔術。それは第二次世界大戦にて、アメリカの技術者が編み出した、道理埒外の技術。空気中に数多と漂う

魔力元素エーテル』を利用して実現される。


 洗面台で歯磨きと洗顔を終えて、稜太はテレビの前に配置した赤いソファーに腰をかける。座り心地は最高だ。ソファーの最高峰『kuribo』とも張り合えるぐらいだろう。フワフワなソファーに身体を預けて、稜太は目を閉じる。


——魔術師の本分は、魔術の根源を知ることだろうに。


 稜太の思考は、火災事件のことへと振り戻る。魔術師という存在は、魔力を極めることも去ることながら、その『出自』を追い求めて活動している。

それが魔術師としての本能とも言えるだろう。


——俺が死ぬ頃にも、まだまともな術師が残っていればいいが。


 若干の諦観だった。魔術師のその先が危ぶまれる。ニュースについて所感を弾き出すのは終えた。稜太が立ちあがろうとした時、ふと甲高い呼び出し音が響いた。


——もう来たのか、じゃあ、もう切り替えだな。


 稜太は立ち上がり、自慢の早業で制服へと着替え、玄関へと向かう。そしてゆっくりと扉を開ける。


 が、稜太の配慮は泡となって消える。外側にいた人間が、開いた扉のドアノブをさらに引っ張ったからだ。


「んーーもうっ! 遅いじゃない! 集合、7時30分って言ったじゃない! 時間間違えるなんて最低!」

 

 そしてその先に、出会って3秒で怒号を飛ばすガールフレンドが立っていた。髪型は清々しいほどの赤。髪型の派手さに反して、どうやらおとなしく控えめな胸。いわゆる貧乳、というやつだ。ああ、あと声は可愛い。いい塩梅の天邪鬼ツンデレだ。

 待てよ、と稜太は抗議中の学生を静止する。


「待てよ有紗。まだ7時だろ? 何怒ってんだよ」


 稜太が朝起きたとき、目覚まし時計は6時半を指していた。そこから朝の準備30分……で、ちょうど7時くらいのはずだが。


「しち……!? あんた、勉強できなさすぎて時間感覚すら吹っ飛んだんじゃないでしょうね!?」


「そこまでいうことないだろ! あと、ナチュラルな批判は普通に傷つくからな!」


「悪かったわね! んで、ほら! 私の時計見なさいよ!」


 有紗は手首あたりにつけた腕時計を、稜太の視界の前に差し出す。そこで稜太は今一度時計の針を確認してみる。確認して、稜太の顔が青ざめていった。どうやら稜太の目覚まし時計の針が狂っていたらしい。


「私に何かいうことは?」


「すみません……」


「わかればよろしい。じゃ、行くわよ」


 口論の決着は穏やかなついた。稜太の完敗である。二人は足並みを揃えてアスファルトの道を歩き始める。

 

——これは、一人の魔術師の物語。出会いと別れを繰り返し、やがて不可魔術師を撃ち破る、成長の冒険譚。

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