VOL2第3話『決戦前-作戦会議-』
原宿病院 3F病室
布施たちは、未来のいる病室にテレポートしていた。テレポートした布施の視界に、椅子に座って俯く稜太の姿が入る。彼氏が傷つけられたのだ。想像は容易い苦痛だろう。
「状況は絶望的ですね……どうしますか、副教会長」
布施が眉間に皺を寄せて、スノウに問う。状況は布施の言う通り絶望的だ。最大戦力であるシュヴァリエの乗っ取り。単純な戦力の差。課題は多い。スノウは考える。
(“セバスチャン”は貧血でおそらく戦闘はできない。不可魔術師の前田くんも厳しいはず。布施さんには単騎でハイヌウェレと戦ってもらって……私はコーンロウの男と、そして『黒幕』であろう魔術師は——)
そこまで考えて、スノウは稜太へと視線を移す。布施はスノウが何を考えているか察する。
「藤稜太くん、だっけ。貴方に頼みたい方があります」
「……?」
稜太は顔を上げて、スノウの姿を捉える。その瞳にはなんともいえない怒りが宿っている。
「未来クンを攻撃した魔術師を、倒したくない?」
稜太にとって、その提案は意外なものだった。未来を攻撃した魔術師と交戦する。それは別にいい。しかし、勝てるのかという不安がある。病室に沈黙が流れる。
「オレの魔術で……やれますかね」
稜太は力なく拳を握り込む。布施はスノウの提案に口を挟む。
「……それは許容できません、副教会長。相手のレベルもわからない。魔術師としての実力も測れていない状態で、生徒を戦わせるのは反対です」
布施は、生徒想い故にスノウの意見に反対する。
「先生、オレにやらせてください」
稜太は力強く訴える。今の一瞬でどれだけの思いの逡巡があったのだろう。彼は弱気な自分を切り捨て、確固たる勇気を瞳に宿している。
「藤くん、しかし——」
「大事な彼氏を刺されて黙ってられるほど、オレはヤワじゃないんです。先生。オレに、やらせてください」
「——」
布施は右拳を口元に当てて考え込む。隣のスノウが口を開く。
「藤稜太くん。魔術師との交戦は危険なものです。私の命令にはある程度従ってもらいますが……いいですね?」
「……はい!」
力強く稜太は頷く。戦力は増強した。稜太の参戦によって、戦況がどこまで動くかはわからない。布施は心配しているが、スノウは稜太の勝利を確信している。上乗せの不正であるが、その不正は確実な勝利をもたらす。
「しかし、問題はシュヴァリエさんでしょう。宇宙を掌握する彼女をどうやって無力化するか……」
稜太たちにとって、最大の壁はシュヴァリエ=ハイヌウェレだ。
「シュヴァリエの“宇宙”は防御と攻撃を両立した完璧な魔術。“引力操作”で回避は容易。“重力操作”で敵を圧殺することもできる。“引力操作”を無力化したとしても、“宇宙”を盾にすれば大抵の攻撃は無効化できる。“隕石”で範囲攻撃、“流星”で単体集中攻撃、“召喚”で自身の戦闘の身体的負担も減らすこともできる。……弱点が、まるで見えないんです」
「いいえ、副教会長。まだ勝機はあります」
布施が決意のこもった声色で宣言する。
「どんな強力な魔術も、発動できる空間がなければ無意味です。つまり—」
「そういうこと……! 確かに布施さんの『結界』なら……」」
「結界?」
合点がいくスノウ。しかし、稜太は置いてけぼりだ。
「藤くん。『結界』というのは、俗っぽくいえば『オレ様ルール』の押し付けみたいなものです、そうですね、例をあげるとすれば——」
何を例にあげようか迷う布施より先に、スノウが言葉を紡ぐ。
「サッカーのコートがあったとしましょう。この空間に、貴方は“任意のタイミング”、“任意の時間幅”でハンドなどの反則が許される『空間』を生成できるとしましょう。これが『結界』なんです。反則を許容する異空間、というイメージです」
「……うーん……サッカーで話されてもよぬわかんないですね。僕の専門は、野球なので」
「そうなんですか、これは失礼しました」
スノウは謝意を示すように、頭を下げる。それを稜太は「そんな、大丈夫っすよ!」というふうに手を右へ左へ振る。
「布施さんの結界でシュヴァリエの魔術を封印するにしても……攻撃はどうするの?」
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