第3節間話『巡り出す運命』

 魔術。それは科学的現象・非科学的な現象を可能とする妙技。その中には、傷を癒すための『回復指向』の魔術も存在する。聖教会の臨時戦闘員である布施真澄とまた、その魔術の保有者だった。


「っいたいですね……心臓を思いっきりやられました……」


  布施がスーツについた土を払いながら呟く。先の銀閃による傷は全て治癒しており、出血も止まっている。


(……どこからともなくナイフが飛んできた。初見殺しにも程があるでしょう。私の『命護』がなければ終わっていましたね……)


 『命護』。それが布施が有する回復魔術の一つだった。1週間に一度だけ使える『全回復』。即時発動はできないが、この効果だけでも恩の字だ。


 布施は辺りを見回す。


(……あれほどの傷を負ったのに、騒ぎになっていない。……どういうことだ?)


 疑問。布施は不可視の刃で命を絶たれている。死人が出ているのだから、騒ぎにならないはずはないのに……。


「気配遮断の魔術を持っていると考えるのが妥当か。だとしたら、厄介極まりない。問答無用のゲームオーバーとは、レベルが違いすぎる」


 気配を消せるというのは圧倒的なアドバンテージだ。敵の得意を殺して、圧倒的な死を押し付けられる。気配遮断という魔術があること事態は、スノウから聞いていたが。


(しかし、近くに敵がいないのは確かだ)


 近くにいるというなら、布施が『命護』を発動した時点で、攻撃が飛んでくるはずだ。布施は、自身のやるべきことを考える。


(教会への通信……は機械が破壊されたからできない。かといって無策で敵陣に行けば返り討ちになる)


(本隊の魔術師もいつくるかわからない。手詰まり、ですね)


 その時であった。布施の思考を遮るように、公園内に叫び声が響く。その声は聞き馴染みのあるもので——


「藤くん!?」


——

 10分前。公園全体を見渡せる連絡橋に、『ミスターT』は立っていた。黒い縁のメガネのブリッジに指を当てて、会場を見下ろす。見下ろして、ある一点を強く睨む。


 『ミスターT』の視線の先には、坊主の少年と仲良く喋る、大人しそうな魔術師の男の子。


(不可魔術師……前田未来。聖教会からの派遣か? いや……違うな。あれは、私服だろう)


 不可魔術師・前田未来。時間を操ることができるとは、風の噂で聞いたことがある。その実力は深くは知らないが、不可魔術に目覚めるほどの素質はあるとみるべき、とミスターTは考える。


(……なら、それは排除すべきものだ)


 ミスターTは未来から視線を切り、階段を降りていく。彼もまたれっきとした魔術師だ。彼の掌の中で、魔力が渦巻く。


(いや、どうせなら)


 ミスターTは不敵な笑みを浮かべる。


(巻き込んでしまおうか。オレの——結界に)

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