ノンフィクションホラー!
崔 梨遙(再)
1話完結:900字
僕の父と親しかったお爺さんのお話。
そのお爺さんは、太平洋戦争で徴兵され、中国戦線で活躍したらしい。
「人間を初めて鉄砲で撃った時、自分が犯した罪に震え、怖い。“なんということをしてしまったのだろう”と怯える。せやけど、何人も撃ち殺していく内に、心が麻痺して徐々に何も感じなくなる。だから戦争は怖い」
と言っていた。また、
「仲閒が死ぬのは、とてもツライ。せやけど、それも慣れや。何人も戦友が戦死していく内に、心が麻痺してきて何も感じないようになってくる。そもそも、自分もいつ死ぬのか? わからへんのやから。それでも、戦わないといけない時代やった。“何故、自分が戦わなければいけないのか?”そんな疑問を抱くことも許されなかった」
とも言っていた。
そんな歴戦の猛者で、上等兵まで昇進したお爺ちゃんにも、度肝を抜かれた経験があったという。
休憩時間、戦友と並んで座って談笑していたら、
パーン!
という発砲音がした。と同時に、隣で話していた戦友の額を銃弾が貫いていた。それは一瞬の出来事だったらしい。隣に座っていた戦友、隣で死んだ戦友。もしかしたら、弾丸で射抜かれていたのは自分だったかもしれないのだ。さすがに、そのお爺さんも恐怖したという。運が良いとか悪いとか、そういう問題ではないと言っていた。だが、戦争で生き残るということは、説明できない運命だと思うと言っていた。
そして、眠ると、死んだいろいろな戦友が夢に出て来るらしい。それは決して、良い夢ではなかったとのことだった。
「戦友が、儂に何を伝えたかったのか? それがわからへん。でも、みんな暗い顔をしていた。死んだ戦友は、やっぱり死にたくなかったんやろうなぁ。みんな、恨めしそうな顔をしてたで」
その話をしてくれた時、お爺さんは遠い目をしていた。お爺さんが何を見ていたのか、僕には一生わからないだろう。死線をくぐり抜けたお爺さんは、小柄だったが貫禄があった。
僕は戦争の話を聞いて、“これはもうホラーだ!”と思った。だが、お爺さんが言うには、結局、ホラーよりも何よりも、人間と戦争が1番怖いということだった。
ノンフィクションホラー! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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