第7話 VS煉獄の魔女
煉獄の魔女の手の平に魔力が溜まっていく。
その魔力は熱く燃える炎のようで、焚き火をしたら丁度ええわ、みたいな呑気なモノじゃなくて、確実に俺の肉体を炭にするものだった。
どうする俺? どぉするぅ?
どうもできん。
まだ煉獄の魔女の攻撃は発射されていない。
死ぬ前に思ったのは、家の扉の鍵を閉めたっけ? という事だった。
だけど鍵をかけた事を思い出す。
コレが走馬灯というヤツか?
いや、違う。もっと色んな事を思い出すべきなのだ。
学校に行く前に見たアブーの着替え。パンツにも尻尾を通す穴が開いていた。
よくよく思い出すと尻尾が上がった時にパンツの穴から、お尻の割れ目が見えたような気がする。
最後に考えるのが、こんな事でいいのか?
俺の事を応援するクラスメイト達を見た。
ドワーフの事はどうでもいい。
可憐なスノーホワイト。彼女とあんなことやこんな事をしたかった。
いや、俺はしなくちゃいけない。
前世でもエッチな経験はなかった。
今世でもエッチな経験がない。
死んでも死にきれねぇーよ。
「私を見たら変顔しやがって死ね」
と煉獄の魔女が叫んだ。
どうやら顔を覚えられないための変顔が裏目に出ていたらしい。
煉獄の魔女が、炎の塊を放出させた。
赤い炎が向かって来た。
逃げなきゃ、と俺は思った。
足に力を入れる。
足の指に力が入り、地面を蹴ろうとしたところで、思ったより何倍も早く炎が俺の元へ。
メジャーリーガーの投球ぐらいに炎が飛んで来るスピードが早かった。それに彼女との間も3メートルぐらいしかない。
瞬きをする間に、炎が俺に襲いかかる。
死んだ。
……死んだと思った。
だけど俺はノーダメージだった。
杖に付いている黒き水晶が炎を吸収したのだ。
俺は驚きすぎて、しゃくれた。そして黒き水晶を見た。
俺は何が起こったのか考えた。
黒き水晶は、魔力災害から村を守るモノである。
そして魔女が出した魔法を吸収した。
運が上昇するんじゃねぇ? と思って杖に付けてきた黒き水晶。
魔力を吸収する原理はわからんけど、やっぱり杖に水晶を付けて来てよかった。
ラッキーである。
つーか、俺は天才である。
杖に水晶をはめ込もう、それに思い至った時点で俺は勝ち確だったのだ。
「グハハハハハハハハ」
と俺は笑った。
笑いが止まらん。
自分が天才過ぎて怖い。
「私のファイアが……」
と煉獄の魔女が愕然としている。
「お前の力はそんなモノか?」
と俺が言う。
「クソ」
と彼女が悔しそうな顔をする。
そして彼女が手に魔力を溜めた。
さっきよりも大きくて熱そうな炎を手の平に作り出す。
「俺はラスボスなんだぜ」
と俺は言う。
ちゃんと俺が強い事を説明しないといけない、と俺は思った。
「本来、四天王を倒さないと俺と戦えないんだぜ」
と俺が言う。
四天王なんていうモノは存在しない。
「だけど入学式祝いに特別に俺様が君みたいな弱い魔女と戦っているわけ」
と俺が言う。
特別、をかなり強調した。
これは観客達に聞かせる言葉でもあった。
ラスボスなので俺とは簡単に戦えない。だから喧嘩を売って来ないでください。喧嘩を売るなら四天王を倒してからにしてください。四天王はどこぉ? うるせぇー知るかそんなの。勝手に四天王を探して倒せバーカ。
「撃って来いよ」
と俺は煉獄の魔女を挑発した。
いや、煉獄の魔女という呼び名は止めよう。
ハートちゃん、でいい。
ハートちゃんが精一杯の魔法攻撃を俺に発射した。
黒き水晶が、炎を吸収する。
「グハハハハハハハハ、グハ、グハハハ、ゴホンゴホン」
笑い過ぎて俺はむせ返る。
ハートちゃんは、慌てて俺にファイアの連打を打ち込んだ。
炎が綺麗である。
全ての魔力は黒き水晶に吸収される。
「吸収した魔力はどうなると思う?」
と俺はニヤリ、と笑って尋ねた。
「ま、まさか」
とハートちゃんが言う。
吸収した魔力は本当にどうなるの? 俺が知りたい。
「そうだ、お前が考えている通りになる」
と俺は言った。
「私の魔力を溜めているっていうのか」
とハートちゃんが愕然として言った。
マジかよ。そんな能力あるのかよ?
杖を振って重さを確認した。
重さ変わらず。
たぶん黒き水晶は吸収するだけで、溜めてないんじゃないかな? わからんけど。
「お前の魔力と俺の魔力を同時に発射したら、お前はチリになるだろう」
と俺が言う。
俺の魔力を足してもゼロなんですけどーーー、と俺は思った。
ハートちゃんは怯えている。
さっきまでの威勢は無くなったみたいである。
それに、もう炎を発射させることもなかった。
ハートちゃんとの距離、1メートルぐらいまで近づく。
恐ろしいモノを見る目で、ハートちゃんが俺を見た。
「我は世界の支配者になるモノなり、
我は絶大な才を持つモノなり、
我はカリスマであり、天才である」
と俺は詠唱を唱え始めた。
観客が多いので、いつもよりも多めに詠唱させていただきます。
「空前絶後の怒涛の魔法使い、
魔法に愛され、魔法に求められた我が唱えよう、
我が前に立ちふさがるものを打ち砕き、
雷の力を解き放ち、全てを焼き尽くす怒りを示せ、
電神よ、才能に溢れる我に力をかしたえ。
と俺は本を開き、料理レシピを見ながら叫んだ。
強力な魔法攻撃が来ると思っているハートちゃんが膝から崩れ落ちた。
俺は彼女の頭を思いっきり、杖で殴った。
死ね、って気持ちで思いっきりである。
頭を抱えて地面に倒れるハートちゃん。
「弱き者よ、お主に魔法を使うまでもないわ」
と俺は言った。
キャラがブレちゃったけど、魔法を使わなかったのは俺が魔力ゼロというわけじゃなく、お前が弱いからなんですよ、という説明である。
俺は気絶しているハートちゃんの内ポケットに手を入れた。
これはおっぱいを触るために、という訳じゃなくて、決闘のルールが学生証を取ったら勝ちだからである。
もちろん学生証を取るフリをして、手の甲でおっぱいは触らせていただきました。
だけど手の甲だからセクハラじゃないよ。ノーカンである。
「決闘は終了」
と30代の男性が言った。
「勝者……君、名前なんて言うの?」
「大魔王ヘンゼル」
と俺が言う。
「ヘンゼル」
と30代男性が言った。
おいおい、大魔王の部分が抜けているぜ。
別にかまわないけど。
「マジかよ。Aクラスの煉獄の魔女が倒されたぜ」「圧勝じゃねぇーか」「アイツは一体、誰なんだよ?」「あんな奴、いたっけ?」「天才魔女姉妹の妹も大した事がねぇーな」「アイツ、Fクラスのくせに勝ちやがった」
校舎から観戦していた生徒達が騒いでいる。
「学生証の契約を上書きするんだ」
と立会人が言う。
親指を噛んで血を出した。ナイフで切った跡が、まだ治りきっていないので歯で噛むだけで血を出す事ができた。
そして俺は血の契約のページに、自分の拇印を押した。
「これって全員分、拇印を押すんですか?」
と俺は尋ねた。
「もちろん」と立会人が言う。
学生証のルールが今ひとつわかんねぇーけど、上書き保存みたいな事ができるシステムになっているらしい。
血の拇印。その上から血の拇印を押す事で上書きされる。
6人分の血の拇印を押して、自分の学生証を重ねると統合された。
奪い取った学生証が、俺の学生証と融合したのだ。
俺は観客達に手を振り、公衆便所みたいな教室に戻って行く。
気持ちが良い。
ワタクシ、ボロ勝ちしましたヘンゼルという者です。清き一票をお願いします。なんの一票かは知らんけど。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、と観客の中から不吉な呪文を唱えている奴がいた。
観客が多過ぎて誰が俺を殺そうとしているのかはわからんけど。
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