第24話 幼き姉弟との真剣勝負
ソニックブレイドもシャドーエッジも遠距離対応のスキルではあるが、距離が離れれば離れるほど精度も威力も下がってしまう。ソニックブレイドは対象に近ければ近いほど、絶大な威力を発揮するのは今までの戦闘で確認済みだ。
またシャドーエッジは近づいたところで、それほど威力が向上するという事はないのだが、ソニックブレイドのような衝撃波とは違い、実体化した影を投げるため普通に視認する事が出来る。つまり距離が離れれば離れるほど、相手からしたら回避しやすくなるという事になる。
相手がそこら辺の魔物ならともかく各階層のボスなどには一切通用しなかった。どの程度まで近づければ確実にシャドーエッジが当たるのかを探るため僕は、ソロダンジョンとマルチダンジョンのボスで何度も試し続けた。
その結果、僕が導き出した有効射程距離は3m、それ以上離れると回避やガードされる可能性が高くなる。逆にそれよりも内側に入りさえすれば、確実に当てる事が出来る。またこの距離はソニックブレイドの威力減少を最小限に抑えつつ、僕が精確に衝撃波を飛ばせる範囲でもある。
ただこれはあくまでボスで試した有効射程距離であって、楓御前と凪太郎にそれが当てはまるかというとこれまた別問題ではあるが、もし回避されたとしてもそれはそれでこちらに分がある。
それは僕の攻撃を回避するという隙を生ませる事が出来るから、楓御前の意識を僕に攻撃をするのではなくて、回避する方に向かせる事が出来れば、それだけこっちは攻撃に専念する事が出来る。
僕は「ソニックブレイド」と叫び、楓御前に向かってショートソードを右から振り抜き、さらに距離を詰めるため前方に走る。僕が放ったソニックブレイドは楓御前に当たる事はなかった。楓御前はピョンと軽く左に飛んで特に何の問題もなさそうに回避していた。
ソニックブレイドを回避するため左に飛んだ今の楓御前の重心は左に傾いている、このタイミングなら……。
僕はさらに「シャドーエッジ」と声に出して追撃する。ダガーを模したその影は、一直線に楓御前の身体を貫こうと飛翔する。
鋭利な影が自分を貫こうと迫ってくるなか楓御前は、不敵な笑みを浮かべ「連射強化」と呟くのだった。
連射強化とは弓矢専用のスキルで、文字通り連射に関連する能力を向上させるスキル。これは弓をつがえたり弓を引くなどの動作を補助する事によって、さらにスムーズに全ての動作が行えるようになる。
楓御前はそもそも3秒もあれば余裕で矢を射る事が可能、そんな彼女がこのスキルを発動するとどうなるか……。
答えは簡単、今度は僕が楓御前が放つ矢から身を守るためパリィに専念する事になった。それも近づいた代償として1m前後の距離で……。
「今度はカエデの番ですね!いきますよぉ、タクトくん!!」
シュン!シュン!シュン!シュン!シュン!シュン!シュン!シュン!
キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!
楓御前の楽しそうな声からは想像も出来ないほどの絶望が僕に向かって放たれる。1秒間に矢が3本……それがひたすら僕の身体を射抜こうと飛んでくる。それが毎回同じ部位を狙ってくれればまだ対応が楽なのだが腕、胴体、脚など常に違う部位を狙ってくるのが非常に厄介だ。
シャドーエッジはどうなったかって、楓御前が放った一本目の矢で普通に撃ち落とされましたが……。
そんな状況の中、背後からは「兄ちゃん~!ナギとも遊ぼうよぉ~!!」という恐ろしいお誘いが聞こえる。
そしてこの姉弟はさらに耳を疑うような恐ろしい言葉を紡ぐのだった。
「んじゃ~、兄ちゃん!ナギも本気の本気で戦うから、兄ちゃんも本気できてくれよぉ!!いくぜぇ~!兄ちゃん!背水の陣!!」
「そうですよぉ、タクトくん!カエデも!もっと、もぉ~っと本気出しちゃいますよぉ!!ブレイジングアロー!パラライズアロー!ポイズンアロー!!」
さすがにこれはマズイ……前方には正確無比なうえに超連射の楓御前、後方には縦横無尽な剣筋にトリッキー立ち回りの凪太郎。それはまるで前門の虎後門の狼。
スキルの発動により凪太郎は、最低でも1分間は攻撃力と攻撃速度が向上した状態になる。そして楓御前は放つ矢の中に各種状態異常を付与した矢を混ぜてきた。
ブレイジングアローは一定時間ダメージを受ける延焼効果を付与し、パラライズアローは一定時間身動きが出来なくなる麻痺効果を付与し、ポイズンアローは延焼効果と同じで一定時間ダメージを受ける毒効果を付与する。
この中で今一番厄介なのはパラライズアローによる麻痺だ。他のふたつはダメージは受けるが行動する事は出来る。しかし麻痺だけはその行動自体を制限されてしまう、そうなってしまってはもう僕の負け、完全にお手上げだ。
ふたりの猛襲に耐えるために僕はアサルトラッシュ、ダンシングイリュージョン、エアリアルステップを同時発動する。
パリィが出来るようになったとはいえ、さすがに視界に入っていないものまで対応する事が出来ない。僕は楓御前の矢をさばきながら、後方にいる凪太郎が視界に入るように移動する。
僕に攻撃する事で頭がいっぱいの凪太郎は、僕の挙動に一切気づいていないようだ。ただ楓御前は僕の真意に勘づいているようで、僕の移動を阻止しようとさらに攻撃が苛烈になる。
それでも何とか楓御前の攻撃を耐え抜き、ふたりを視界にいれる事に成功した。
シュン!シュン!シュン!シュン!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!
ギィーンッ!!キィーンッ!キイィーンッ!!キィーンッ!ギィーンッ!!
ふむ……カエデを先に倒そうと思ったのだが、このままでは近づく事さえ難しい。ならば、逆転の発想で行くとしよう。
僕は先に倒すべきターゲットを楓御前から凪太郎に変更した。凪太郎が発動した背水の陣というスキルは、攻撃力と攻撃速度向上それ以外にもうひとつある能力が存在する。それは代償として自分が受けるダメージが3倍になるというものだ。
いまなら半分どころか三分の一、攻撃を凪太郎に当てるだけで倒す事が可能。
ただ凪太郎を倒そうとすると、そっちに集中してしまうため楓御前の矢を完全にさばく事は出来ないだろう。致命傷になるような矢だけ弾く事にして、残りは刺さってもいいやという
ふたりには悪いが僕にだって負けられない理由がある。
僕は「レイジングスラッシュ!!」と叫び、矢が刺さる事などお構いなしに凪太郎を倒すためショートソードとダガーによる乱舞を繰り出す。
急激な方向転換に動揺する凪太郎に鋭い一撃が襲いかかる。
「うわわわわ!ちょ、ちょっと!!いきなりは卑怯だぞ、兄ちゃん!!」
「ナギが本気を出せって言ったんだろ?だから……いま僕が出せる全力を君達にぶつける!!!!」
キィーンッ!ザシュ!!キィーンッ!シュン!キンッ!グサッ!!
凪太郎と楓御前は本気になったタクトに畏怖を覚えた。
楓御前が放った矢はもうすでに何本もタクトの身体に突き刺さっている。タクトは気にする様子もなく凪太郎に攻撃し続けた。
その信じられない状況に楓御前は矢を放ちながらも「うそ……どうして止まらないの。タクトくん、どうして……」と戸惑い呟くのだった。
そしてその瞬間は急に訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます