第21話 予選はバトルロイヤル方式
大会当日。
僕達三人はいま実装されたコロシアムの前にいる。そもそも北西エリア自体が、コロシアムが実装する今日まで入る事さえ出来なかった場所。そういった事情もあり大会参加者以外のプレイヤーも北西エリアみたさに足を運んでいるため、この周辺はプレイヤーでごった返していた。
北西エリアのNPCの雰囲気は、ギルドがある北東エリアのビジネスマン風NPCよりも、どちらかというと南東エリアの酒場にいる用心棒風NPCに近い感じがした。それにコロシアムという事で催し物を楽しむためか、南東エリアほどではないにしろコロシアムを囲うように点々と酒場があった。
コロシアムの外観は、ローマのコロッセオを彷彿させるような円形状の大きな建造物だった。
僕達はエインヘリャル最強決定戦に参加するためコロシアムの入口に向かう。しかし……入口前には参加受付をしているNPCらしき姿がない。そこで僕はある不安が頭を過る、それは大会受付がもう終了しているのではないかという事だ。
僕は隣を歩くサンに「これ……参加出来ないって事はないよな?」と不安げに質問した。
「大丈夫だって、そんなに心配するな。公式も覗いてみたが特に事前に参加申請しないとダメとか書いてなかったし、当日ここに集まるだけでいけるはずだ」
「まぁ僕達よりも詳しいサンがそう言うんだったら、間違いないんだろうけどさ」
「タクトがそんな事言うから、拙僧もちょっと心配になってきたわ。本当に大丈夫なんでしょうね……サン?」
「修羅刹まで……大丈夫だって!俺様を信じろって!!」
サンは自信満々に僕達にそう告げた。
僕達と同じように大会に参加するプレイヤー達が、どんどんコロシアムに吸い込まれるように入っていくのが見えた。僕も彼らに続きコロシアムに入った。
ポータルに入った時と同じような感覚に陥る。
僕はすぐに周囲を見渡し状況確認した。結論から言えば僕はいまコロシアムの中心にいるようだ。何千人……何万人は座る事が出来そうな観客席に、どうやって作ったんだというほど見事に柱ひとつひとつに刻まれた彫刻の数々。さらにアリーナ会場にでもありそうな巨大なディスプレイが、観客席から見えるようにコロシアムの上部に設置されていた。そして切り目ひとつとして存在しない大きな一枚の石で作られた戦うための舞台が、僕達プレイヤーの足元に用意されていた。
僕達プレイヤーと言ったのには意味がある。いまここには僕を含めた総勢200名のプレイヤーが舞台上に立っている。どうやらここにいるプレイヤー同士で戦い合うらしい。俗に言うバトルロイヤルというやつだ。なぜそれが分かったかというと、ディスプレイに【予選13組1/200】と表示されているのが見えたからだ。
全部でいくつ予選会場が用意されているのか分からないが、サンと修羅刹はここにはいないようだ。予選で雪月山花同士でつぶし合うことがなくてほっとしたと同時に、この予選は必ず通過しなければならないというプレッシャーが重く僕にのしかかる。
ディスプレイにはそれ以外にも予選開始までの時刻が表示されていた。本大会は朝の11時から開催としかサンから知らされていなかったので、こんな予選がある事すら知らなかった。まぁこれは当の本人どころか、大会参加者全員が知らない可能性もあるが……。
予選開始時刻まであと5分を切った時だった。サンからメッセージが届く、それからさらに1分後今度は修羅刹からもメッセージが届いた。
〈全員バラバラに組み分けされたな。決勝で会おうぜ!負けるなよ、タクト!!〉
〈拙僧は必ず決勝までいくから!!タクトも負けるんじゃないわよ!!〉
両方とも決勝で会おうとメッセージを送ってくれるのはいいんだけど、サンは修羅刹を修羅刹はサンの事を忘れていませんか……。
〈りょうかいだ。僕達三人で上位を独占しよう〉
この二週間で僕達三人は出来る限りの事はしたはずだ。僕はレベル36、サンはレベル31、修羅刹はレベル34になった。それに合わせて武器も強化した事だし、油断しなければ大丈夫。でもこれは今回参加しているプレイヤー全員にも言えることか……。
予選開始時刻まで残り3分。
刻々と予選開始時刻が迫るなか、突然コロシアム全体に女性の声が響き渡る。
「
アナウンスが終わった瞬間、こぞって僕を含めたプレイヤー達は各々の装備、スキルを再確認していた。
そしてディスプレイには、予選開始を知らせる0秒という表示と共に荒々しいほら貝の音色がコロシアム全体を包み込んだ。
ブオオオォォォォ~~~~~~ンッ!!
こうして……200人によるバトルロイヤルがはじまった。
ルールはいたって簡単で最後まで生き残った者が勝者、つまり自分以外は全て敵。
僕は自ら攻撃を仕掛ける事はせず、襲いかかって来る相手に対してのみ反撃して倒す事に専念した。周囲からは予選敗退していくプレイヤーの嘆きや自分を倒したプレイヤーを称賛する声などが、途切れる事なく延々と聞こえてくる。その中に斬撃音や金属音、打撃音、
パリィに専念するだけでいいので、正直僕としてはかなり楽にさばけている。僕から攻めなくていいのは実に戦いやすい。スキルの乱発も防げるし、やっぱ僕はこの戦い方が一番相性がいい気がする。
悠長に武器をくるくる回しながら考えていると、それを見たプレイヤーは僕が隙を見せたと思ったようで、ポールアックスを両手で握り締め振りかぶって襲いかかって来た。振りかぶりすぎて自分の背中にポールアックスの尖った峰が刺さっているのでは……。
タイタタンというそのプレイヤーは、ハルニッシュというプレートアーマーの親戚のようなフルメイルに、バケツをそのままひっくり返したようなグレートヘルムをかぶった大男だった。あの体格から繰り出される一撃をくらったら、大半のプレイヤーは一発でダウンだろう……。
「な~に!余裕こいてぇんだぁ~!てんめぇ~~~~!これで倒れちまいな!ヘヴィーバッシュ!!」
タイタタンは僕の脳天をつぶす勢いでポールアックスを振り下ろしてきたが、キィィーーーーンッ!!という音が響くと同時にタイタタンの巨体が大きく仰け反った。
「俺のヘヴィーバッシュをパリィした……だと!?」
パリィによって態勢が崩れたタイタタンめがけて僕は、ソニックブレイドと今回の大会に備えて新しく覚えたシャドーエッジを放つ。
無防備な状態でスキルの連撃を受けたタイタタンはそのまま後方に倒れ込んだ。
「は……はは…………てめぇつえぇな!てめぇはこの俺に勝ったんだから!!絶対に負けんじゃねぇぇぞおぉぉぉ!!!!」
タイタタンはそう言い残すと、光の粒子となり消滅した。
「あぁ……もとよりそのつもりだ」
僕はタイタタンが消滅した場所に目を向け、ひとり呟くのだった。
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