第13話 念願のギルドハウス

 僕は戸惑いながらコタロウからの提案について答える。


「僕達からしたら願ったりかなったりではあるけど、コタロウさんは本当にそれでいいの?こう言っちゃなんだけど、見ず知らずの人にお金を貸すのはどうかと思うんだ。例えそれがゲームだとしても……」


「でしょうね。某もそう思いますよ。ただ某は自分で言うのもなんですが、他人を見る目はある方だと自負しています。ですので、タクト殿、修羅刹殿、サンシャインリバー殿さえよろしければ、立て替えておきますが?」


 コタロウは笑顔を崩す事なく、僕達の事を信じられると自信満々にそう口に出していた。


 僕達は反転しすぐさま三人でこの提案を受け入れるかどうか話し合った。その結果、コタロウから借り受ける事にした。


 僕達は感謝しつつ、コタロウから1,000リィン受け取った。コタロウはというと僕達に1,000リィンを手渡したあと、すぐに外に出て行った。どうやらコタロウはギルドメンバーから招集をかけられたようで急いで走って行った。ただ彼のとこのギルドマスターは、今さっき走って出て行ったコタロウ本人らしい。彼も僕と同じでギルドマスターに就任させられたパターンなのかもしれない。


 僕は少女に手数料の1,000リィンを支払う。


 少女は「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」と言うと、ギルドハウスに関する冊子を手渡してくれた。


 僕達はお辞儀をする少女に背を向けギルドの後にした。外に出た僕達は冊子に書かれている情報をもとに、ギルドハウスを目指す事にした。


 ギルドハウスはギルドがある北東エリアの中心部から、さらに北東に進んだ場所にあった。そこはもうこれ以上北にも東にも進めないという街を守護する外壁から1、2m程度しか余裕がない本当に端っこの一画だった。


 ギルドハウスの外観は、ホラーゲームとかで出てくるような木造建築の屋根裏がある三階建ての洋館で、さっきまでいたギルドとはまた違った雰囲気ではあるが、全体の印象はどちらも同じように古い、ボロいという言葉が一番最初に思いつく建物。


 洋館の周りには高さ2mぐらいのフェンスがあり、正面のゲートからしか入る事が出来ないようになっていた。


 修羅刹はこのホラーテイスト満載のギルドハウスを見上げながらサンに尋ねる。


「本当に……ここであってるのよね?間違いじゃないのよね??」


「あぁ、間違いない。この冊子に載っている情報ではここだ」


 修羅刹はサンが持っている冊子を覗き込む。そしてギルドハウスを見上げてはまた冊子を確認していた。


「何度確認しても結果は変わんねぇよ。修羅刹って本当にこういうの苦手だよな……つうかさっきのギルドは大丈夫で、これがダメなのが俺様には分からねぇよ。どっちも大して変わらないだろ」


「全然ちっがうわよ!!あっちは人が住んでいる雰囲気はあるけど、こっちは廃墟感がすごいじゃない!いかにも出るわよって感じじゃない!!はぁ……入りたくないわ」


「いや、熱弁されたところで、あー確かにとはならねぇよ。それに一応薄っすらとだが明かりもついてるじゃん」


 サンはそう答えると、洋館の窓から弱々しく零れる明かりを指差した。


「あれのせいで余計に怖さが倍増するんだってぇぇぇ!!あなたにはそれが分からないのぉぉぉ!!バカなの!!ねぇ、バカなの!!!!」


 その明かりを指差すサンを修羅刹は食い気味に罵倒していた。


 修羅刹こと蘇芳院六華の実家は代々お寺を生業なりわいにしている。蘇芳院六華は父親の蘇芳院滄溟すおういんそうめいとのふたり暮らしのため、無駄に広い居住空間で幼少期から今に至るまで、その環境で生活をしてきた。そうした環境に長い間接してきた結果、蘇芳院六華は目に見えない恐怖、目に見える恐怖……つまりホラー全般に対しての想像力が育まれてしまった。


 ふすまや床がギシギシと軋む音、葉っぱが風に揺られカサカサとなる音、天井を何かがゴソゴソとうごめく音、障子に映る影など……。


 何が言いたいかというと、蘇芳院六華はホラーが大の苦手だという事だ。ただ一部例外があったりもする、それは物理攻撃が効く相手。ゴーストのような物理攻撃が通らない相手には心底ビビり倒すが、ゾンビなどの物理攻撃が通る相手ならば全然怖がらない。


 僕は定番のホラー要素としての洋館が、どういうものかを修羅刹に説明する事にした。まぁこれも場合によりけりではあるが、とりあえずいまは大人しくさせるのが重要。


「修羅刹、大丈夫だってそれにさ、もしもの話。そういうのが出てきたとしても洋館に出てくるやつってゾンビとかで倒せるやつばっかだと思うよ」


 僕の話を聞いた修羅刹は一気に機嫌が良くなり「それなら余裕ね。何してるの。ほら、さっさと入るわよ!」と何もなかったようにギルドハウスに入っていった。


 後ろから見ていた僕とサンは、修羅刹がギルドハウスの扉を開けて中に入った瞬間に消えるのを目にした。


「なぁサン、これってダンジョンに行く輪っか……ポータルだっけ?あれと同じ仕様っぽい??」


「だな。この洋館はそれぞれのギルドハウスに直接繋がっているみたいだな。それじゃ俺様達も行くとするか」


 そして僕とサンは顔を見合わせ、ため息をつくと修羅刹の後に追いギルドハウスに入るのだった。


 世界が暗転する。次の瞬間、僕は雪月山花専用のギルドハウスの内部にいた。


 ギルドハウスの間取りは10坪の正方形でワンルーム。内装は洋館に通じている扉がひとつに四面ある壁の内、一面窓の箇所があるぐらいで家具らしきものが何ひとつ存在しなかった。


 木目調のフローリングに白い壁というシンプルなデザインが余計にそれを際立たせていた。


 ここに来るまでに各エリアで販売されている商品を見ていたが、家具を取り扱っている店舗はひとつもなかった。今後のアップデートで追加されるのだろうか、もしそうならそのためにもある程度お金を貯めておかないといけない。さすがにこの無の空間は少し寂しい気がする、あとでふたりに相談してみる事にしよう。


 僕よりも先にギルドハウスに来ていた修羅刹は窓から外を眺めていた。サンはプレートアーマーを装備している事など気にせず、ガシャンと音を立て大の字で寝っ転がっていた。


 窓の外は想像を絶する光景だった。それは僕達プレイヤーがログインする時に眺めているあの光景。僕達がいまいるこのギルドハウスはアーティラスの真上、天空に浮いていた。高所恐怖症の人はこれを見ただけで足が震えてしまうだろう。それでもタイトル画面の身体ひとつで見下ろしている時に比べたら、地面を踏みしめている分いささかましではあるが……。


 ただ窓から周囲を見渡してもこれ以外に浮遊しているものが見つからない。どうやら他のギルドハウスは表示されないようになっているようだ。


 さて……ギルドハウスにも入れた事だし、あれをみんなで開梱してみるとしよう。僕は部屋の中心に移動するとふたりに声をかけた。


「修羅刹、それにサン。んじゃ、ふたりともアバターセットを早速開けてみないか」


「おお!そうだった、そうだった。何が入ってるんだろうな、これ」


「わたしは和服だと嬉しいんだけど、これランダムなのかな」


「どうなんだろう、それじゃふたりともインベントリーからアバターセットを取り出してくれ」


「「りょ~かい」」 


 僕達はクローズドベータテスト特典アバターセットを取り出した。アバターセットはアイコンどおりのミカン箱ぐらいの大きさの段ボールだった。そしてそれぞれの段ボールには油性ペンで僕達のキャラ名が書かれていた。

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