第一章 正式サービス開始編

第7話 新たなるはじまり

 アーティファクト・オンラインのクローズドベータテストが終了してから三か月が経ったある日、僕は……とうとう僕はある快挙を成し遂げた。


 それは僕がアーティファクト・オンラインを始めるきっかけとなった音ゲー。あのアーティファクト・リズムを全クリ、完全制覇した事だ。


 眼前には最後のステージを示す100という数字に一度もミスせず、ノーツを斬るタイミングも完璧だった事を証明するパーフェクトの文字。


 フルコンボだけなら何度か成功した事がある。これでクリアでいいかと何度も思ったが、毎回クリア後にある一文が表示される。


 僕はその一文を見るたびにイラっとして毎回リトライを選んでいた。


 その僕がイラっとした一文を紹介しよう。


〈全ステージクリアおめでとうございます。完全制覇ではないですが、この結果で満足ならそのままゲームを終了して下さい。こんなのでいいのなら……〉


 ああぁぁぁぁああ思い出しただけでまた腹立ってきた。


 ふぅ……落ち着け……落ち着け……と何度も自分に言い聞かせ怒りを抑え込む。


 まぁあの煽りメッセージのおかげで完全制覇をする事が出来たんだし、ひとまずは良しとしておくか、イラっとはするけどそれよりも緊張の糸が切れたのか、急に眠たくなってきた。


 今日はここまでにして寝よう。


 眠気と疲労でぼーっとしていたのか僕はアーティファクト・リズムを終了せず、そのままVRデバイスを取り外し枕元に置いた。


 そして枕に頭を預けるとまぶたを閉じる。


 音ゲーなのに曲を選ぶ事は出来ないし、決められた順番でクリアしていかないといけないし、なかなか人を選ぶゲームだった。


 ただクローズドベータテストで実装されている武器を全て使用できるとは思いもしなかった。


 そのおかげで自分に合ったスタイルでプレイする事が出来たので、音ゲーとしてはいまいちだったが、中毒性のある何とも不思議なゲームだった。


 今回僕はショートソードとダガーによる二刀流でクリアしたけど、次は山河が使っていたロングソードとかいう両手剣でクリアを目指してみるのもいいかもしれない。


 そういや今って何時だろ、まぁどっちでもいいか。夏休みだし、ふあぁぁぁ……もう寝よ、おやすみなさい。 


 僕は全クリしたという達成感に包まれ眠りに落ちた。


〈アーティファクト・リズム完全制覇…………実績解除……全てを見通し支配する者……実績解除に伴いアーティファクト・リズムのアンインストールを開始します…………アンインストール完了しました〉


 その後一切操作が行われなかったVRデバイスは、1時間経過した事により自動で電源が落ちる。


 夏休みだというのに僕はまたあのけたたましい着信音で目を覚ます。


 ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン。


 うるさ……何の音だ、あぁ……スマホが鳴ってるのか、どうせ山河だろ……無視だ無視。


 目を開けスマホを手に取り画面を確認する事もせず、そのまま二度寝を始める。


 心地よくまた眠れそうだなと思っていた矢先、またあの着信音が鳴る。


 ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン、ピロロロン。


 分かった、分かりました……起きますよ、このしつこい感じはやっぱり山河で間違いなさそうだ。


 僕は寝起きで頭も回っていない状態のままVRデバイスの下敷きになっているスマホを手探りで探し、通話ボタンに触れた。


「はい……もしもし」


「おっはよぉぉぉぉ!拓斗!!」


 耳元から離して置いて正解だった。前に油断して鼓膜が無くなりそうになった事があった。そういや前もこんな感じで僕の眠りを妨げた事があったような。


「あー、おはよう……山河。ふぁぁぁ…………それで僕の睡眠を妨害した理由を聞こうか?」  


「睡眠を妨害って……つうか、拓斗……お前。今何時か分かってるか?もう昼の1時だぞ、普通ならとっくにもう起きている時間だぞ」


「あー、今1時なのか……それは確かに普通なら起きている時間だな。だが、夏休みの僕にそんなルールは適用されないんだ。んじゃ、おやすみ」


「おぃおぃおぃおぃ!待て待て!!これあれだろ?またお前電話を切ろうとしてるだろ?切る前にちょっとだけ俺の話を聞けって、拓斗もこれ聞いたら絶対に飛び起きるから!!」


 朝早く……ではないが、山河が何か話したくてうずうずしているのが電話越しからでもあいつの上擦った声でそれが伝わってくる。


 それにその話を聞いたら僕が飛び起きるか。今この瞬間ですら気を抜いたら即寝落ちする自信があるこの僕に、そこまで断言するって事は余程、山河のやつはその話の内容に自信があるようだ。


 仕方ない聞くだけ聞いてやるとするか。


「分かったよ……手短に頼む」


「手短にか……んじゃ言うぞ。今日からアーティファクト・オンラインの正式サービスが始まる」


「アーティファクト・オンラインって、あのアーティファクト・オンライン?三人でやったクローズドベータテストの??」


「あぁそのアーティファクト・オンラインだ。しかも、あと1時間後……今日の昼2時から開始だ!!」


 そのあとも山河の情報が信じられずに何度か再度確認してみたが、その度に山河は同じ言葉を繰り返してきた。


 今日の昼2時からあの世界にまた行く事が出来る。しかも今度はクローズドベータテストのように三日間という期限もなく、好きな時間に好きなだけプレイする事が出来る。


 その考えが頭を過った時にはもうすでに僕は、完全に目が覚め睡魔の呪縛から解放されていた。


「そういう事だから、俺も六華も2時になったらすぐにログインするから拓斗も忘れずに入って来いよな!!」 


「りょ~かい」


 僕は2時にログインする事を山河に伝えたあと通話を切る。


 その後、軽く昼食を取り身支度を済ませ部屋に戻った僕は、ふと部屋を出る時に机に置いたスマホに目をやる。画面には山河からメッセージが届いている事を示すポップアップが表示されていた。


 僕は早速あいつが送ってきた内容を確認するためメッセージを開く。


〈あ~、それと言い忘れていたけど前にクローズドベータの時に使っていたやつで大丈夫だからな!〉


 山河には〈了解〉とだけ文章を打ち送信する。


 というか、正式サービスという事はつまり製品版って事じゃないのか。僕このゲーム購入してないけど大丈夫なのか……。


 まぁ山河が大丈夫だと言ってるし多分大丈夫だろう。とりあえずログイン出来るか試してから考えてみよう。


 それにしても喜び勇んでアーティファクト・オンラインの準備を済ませてしまったため、正式サービス開始の14時までまだ20分ほど時間がある。


 さて……この時間をどうやって潰そうか。そこで僕は秒で時間が過ぎてしまう方法を思いつく、それはここ三か月ずっとプレイし続けていたアーティファクト・リズムをプレイする事だ。


 20分って事は大体5曲ぐらいはプレイ出来そうだ。パーフェクトという有終の美を飾った、あの最終ステージをもう一度プレイしよう。


 早速僕はアーティファクト・リズムをプレイするため、ベッドに寝転がりVRデバイスを頭に装着する。


 しかし、いくら探してもアーティファクト・リズムのアイコンが見つからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る