(二)-7

「ご、ごめんなさい、軽い冗談よ……」

 鴫野がそう言うと、拓弥は元の位置に戻った。そしてズボンに両手を入れて、カメラをにらみつけるように視線を送った。

「まさか図星とは思わなかったから……」

 鴫野はそう言い、撮影を再開した。

「なんだ、そうなのか。そういうことは早く言えよ」

 部屋に低くて野太い声が響いた。

 鴫野は振り向くと「あんた誰よ?」と負けじと高いトーンの声を上げた。

 拓弥がカメラから視線を外して入口のガラス戸のところに立っている若い男がいるのを見た。生地の縫い目の金属の鋲がつけられている黒い革ジャン、半分を紫色に染めている髪、そして頬骨が出て無骨な印象を与える日焼け顔の男だった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る