(一)-4

 拓弥が持っていたタバコの箱をズボンのポケットから取り出して一本をくわえようとしたところで、翔太がやってきた。

 大学に入ってからも身長が伸びたとは言っていたが、一七〇センチに届かない程度の背丈にナチュラルなぼさぼさヘアー、水色で白いストライプの入ったオックスフォードシャツにベージュの綿パンという春の若者らしい格好の若者が拓弥のそばに立っていた。翔太だ。

 その姿には見慣れていたが、翔太はいつもと違って、様子がおかしかった。いつもなら、元気に「拓弥君おはよう!」などと声を掛けてくるのに。この日は違っていた。目線を拓弥とは合わせようとせず、うつむき加減であった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る