いただき女子のリリィちゃん。

暗黒星雲

第1話 リリィの目覚め

「リリィ。出かけるわよ。支度しなさい」


 まだ眠いのに。

 誰だ。

 この私を起こそうとするやつは。


「もう夕方ですよ。今日はお食事に誘われているって言ったでしょ」


 ああ、マダムだ。お食事……確かにそんな事を言われていた気がする。


「今夜のお客は上物だから。逃したらきっと後悔するわよ」


 上物……そうか。そうだったか。


「さっさと起きる!」


 バーン!


 蹴破るような勢いでドアを開いたマダムは、そのまま私のベッドへと近寄ってから掛け布団を剥ぎ取った。私は反射的に体を縮める。私の桃源郷はここで終わった。


「もう夕方の五時ですよ。いつまで寝ているのかしら?」

「まだ眠い……」

「リリィ。あなた、三十時間も寝てるんだけど。いい加減に起きて仕事しますよ。栄養補給もしなきゃ」

「それはそうだけど」

「さっさと起きなさい」


 容赦なく引き起こされ、バスルームへと連行された。そして、頭のてっぺんからつま先まで念入りに洗われた。


「うん。いい香り。さ、支度しますよ」


 私は可愛らしい余所行きの下着とセーラー服を着せられた。まるで着せ替え人形のようだが、こういうのがマダムの趣味なので仕方がない。居候の私は彼女のおもちゃ同然に扱われている。


「ほら、今日も可愛いわよ」


 姿見の前でくるりと一回りさせられる。

 今日の私は金髪で碧眼。背が低く胸元も寂しいが、ドイツ系の美少女って感じに仕上がっている。しかし、日本の女子中学生みたいなセーラー服には大いなる違和感しかない。


「うん。最高ね」


 何が最高なんだか……。

 今日の上物はロリコンで変態なのか?


「じゃあ私も支度するからちょっと待っててね」


 マダムはベージュ系の地味な下着から、黒と赤のレースの派手な下着へと着替える。そして、黒系のガーターストッキング。その上から喪服かというような黒系のドレスをまとった。そして黒系のジャケットを羽織り、黒系のショルダーバッグを掴んだ。そこに豊かな胸元が悩ましいスラブ系の美魔女が完成する。


「何か食べなくても?」

「大丈夫。出先でしっかりいただきますから」

「わかったわ。じゃあ出かけましょう。外に車を待たせてあるから」


 私は茶色の学生カバンを背負わされ、マダムに手を引かれて地下の駐車場へと向かう。そこには黒塗りの高級車がハザードランプを点灯させて待機していた。

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