異世界マサさん、子どもと戯れる!

虹村玲

第1話

 転生もの小説に大きな嘘がいくつもある。

 どうして生まれたばかりの赤子が『赤子の仕事をしよう』と考えて産声を出すのだろうか?

 私も同じようにしようと思っていたが、

「うっぎゃ〜うぎゃ〜』

 結果はこの通りだった。やはり生存本能に抗うことはできない。

 これから生きるために空気を肺に入れて、身体を活性化させる。それが産声の役割だからだ。

 そんな現世知識のおさらいをしていると

『×××、××マサ』

と声をかけられた。男性の声だろうか? 目も耳も発達していないためよく分からない。

 しばらくすると女性の声も聞こえてくる。

『×××××、×××』

 身体が浮くような感覚と共に女性の声が大きくなっている。おそらく私も取り上げてくれた父親が、母親に近づいているのだろう。

 周りが包まれ、ふと『安心』の二文字が心に浮かび上がってくる。

 これが赤子の感じる感覚なのか。

 父親よりも母親を好む子どもの気持ちが理解できる。お腹の中で聞いていた心臓のリズムが私を安らかな眠りに誘ってくれる。

 そうして私は異世界に生まれて初めての眠りについた。

 

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