39 白い結婚



 名誉あるフォンテーヌ公爵家の前公爵夫人であり、そしてラファエル公爵の実の母であるカーラ・フォンテーヌは。


 信じたくない息子夫婦の真実にその頭を抱えて。


 育て方間違ったかな?


 と、目の前が真っ白になりかけた。


 だがそこは現役時代、社交界で当時の王太子妃で現王妃と共に社交界を牛耳っていた貴婦人。


 直ぐにその心を持ち直した。


「白い結婚をするなんて……何を考えているの!」


 そしてカーラは息子ラファエルを責め立てる。


「それは……!」


 責め立てられたラファエル公爵はとてもばつが悪そうに視線を彷徨わせて、言い淀む。


 どう説明してもこれは全て自分が悪い。


 それに……。


「あの……お義母様? 白い結婚って何ですか?」


「え……もしかして、アイリスちゃん知らないの?! 初夜を済ませないと結婚自体が成立しないの、結婚をね破棄出来てしまうのよ……」


 ラファエル公爵はアイリスにそれを知られたくなかった、知られる前にどうにか恋仲になって済ませばいいと思っていたから。


「……結婚の破棄? 成立してないって、どういう」


 え、結婚式したよ?!


 ウェディングドレス着て誓ったよ?!


 ぐーたらする事を……!


「普通貴族は離婚なんて絶対に出来ないのだけど、初夜を済ませない白い結婚だと、その結婚自体が不成立として申し立てて破棄出来るわ」


 と、前公爵夫人カーラはアイリスに告げた。


 そして姑に告げられたアイリスは衝撃の事実に、顔色がどんどん青ざめていく。


 ……まて、それは困る! 非常に困る!


 私の悠々自適な引きこもり生活は、このフォンテーヌ公爵家の有り余る財力が必要不可欠であり、今生の両親である男爵達が気軽に遊びにやってこられない家格も大事!


「嘘、そんなの……知らない、困ります……!」


 それに白い結婚だと今生の両親達に知られたら不味い、あの人達の事だ……別れさせられて。


 絶対にまたどっかに売られる……!


 次は変態爺の妾とか、娼館な気がする……!


 それに……。


 せっかく最近はラファエル公爵と仲良くなれたのに、さよならなんてしたくない。


 そして青ざめて焦るアイリスにラファエル公爵は。


「アイリス、私は貴方とは別れるつもりは微塵もない、だから結婚の破棄なんて絶対にしない、それに……今からでも初夜を行えば何の問題ない」


 ラファエル公爵は、今からでも初夜を行えば大丈夫だと笑顔でアイリスに言うが。


「え……えと……」


 その言葉にアイリスは気まずそうな顔をして、そっとラファエル公爵から目をそらした。


 


 軋む馬車にドナドナと乗せられたアイリスは、王城で今夜開かれる夜会にラファエル公爵と向かう。

 

 前公爵夫妻は後方の別の馬車に乗って王城に向かうから、その馬車にはラファエル公爵と二人きりで。


 アイリスはとっても気まずい。


 ラファエル公爵の事を何も知らなかったあの頃ならば、初夜も仕方ないなと作業のように淡々と行えた気がする。


 だが今はすごく恥ずかしい。


 ラファエル公爵とそういった事を自分がすると考えただけで熱くなって赤面しそうになるし異性として意識してしまい、なんだか胸が高鳴ってくる。


 だからアイリスはラファエル公爵と、まともに顔を会わせられなくなった。


 今から二人は夜会だというのに。




 そして顔をあわせて貰えなくなった、ラファエル公爵はアイリスのその様子に。


 ……自分と別れるのは、嫌がってくれた。


 でもやっぱり自分と閨を共にするのは嫌……か。


 喜びと悲しみがラファエル公爵の中で入り交じる、過去の自分が全て悪いとはいえ、愛する妻に拒絶されている事が結構辛い。


 もうこればかりは焦ってもどうしようもないとわかってはいるが、アイリスを手離してやるつもりはラファエル公爵にはない。


 いっそ無理にでも押し倒し初夜を行えば、もうアイリスは自分から逃げられないとわかってはいる。


 だがそれをしてしまえば、もうあの可愛らしい笑顔を自分に向けてくれないし傷つけてしまうから。


「アイリス少し話を聞いてくれないか?」


「……公爵様?」


「そんな怯えなくても君に無理強いしたりはしない、約束しただろう? 私はいつまででも待つから」


「え、あ……でも……!」


「何があっても私はアイリスを手離すつもりはない、噂なんて私達が仲の良いところを見せれば直ぐに消える、だからそんな辛そうな顔しなくていい」


「っ……ありがとうございます、公爵様」


「だから……ほら、おいで?」


 ラファエル公爵は自分の膝をポンポンと叩いて、アイリスにおいでおいでする。


「う……お膝……! す、少しだけですよ?」


 と、渋々とラファエル公爵の膝の上にアイリスは座りその鍛え上げられた腕に抱きすくめられてしまい。


 恥ずかしさなのかなんなのかわからないが、胸が激しく高鳴り、息も絶え絶えで。


「あと名前、呼んでくれないか? その方が私と君が仲良しだと社交界に知らしめる事が出来るからね?」


 な……名前呼び!


 高位貴族を名前呼び!


 でも確かに名前で呼ぶ方が仲良しっぽい!


 だからアイリスは気合いをいれて。


「……らっ……ラファエル様……!」


「ははっ……そんな気合い入れて名前を呼ばれたのは初めてだ! やはりアイリスは可愛いな?」


 とアイリスに可愛いと言って、黄金の瞳を細め微笑むラファエル公爵は眩しいほどにイケメンで。


 アイリスは顔を赤らめてぷるぷると震えた。

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