23 根回し



「あら……フォンテーヌ公爵ではないですか、今宵も寂しくお一人でご出席かしら? 私は貴方のつまらない仏頂面なんかよりも、アイリスの可愛いお顔にお会いしたかったのですけれど?」


 王城で開かれた煌びやかな夜会に、一人で出席したラファエル公爵に何の遠慮もなく出会い頭に文句を言うのは、アイリーン王太子妃だ。


 アイリーン王太子妃は大きな扇で口元を隠し、真っ赤なドレスと豪華な宝飾品に身に包み存在感が桁外れにすごい。


 そしてその容姿はドレスに負けず劣らず豪華で、それでいてとても華やかで社交界の華らしく、一人で夜会に美しく華麗な華をもたらしていた。

 

「私も出来る事ならアイリスと夜会に出席してダンスのひとつでも楽しく踊りたかったのですが……彼女はあまり社交は得意ではなくてね」


「ふっ……そんな事を貴方なんかに仰られなくてもお茶会で、たどたどしくて可愛いらしいアイリスを見てわかりましたわ、ですから私の側で大事に大事に囲ってあげようかと……!」


「王太子妃? アイリスがとても気に入ったのはわかりますが彼女は私の大切な妻です、変な事を考えないで貰えますか」


 嫌そうな顔をしてアイリーン皇太子妃を横目で見るラファエル公爵も一目を引くので二人が並ぶととても華やか。


 だがこの二人あまり仲が良くないらしく、お互いを見る瞳は剣呑としていて穏やかではない。


「……私はただ愛でていたいだけですのよ? あんなに擦れてない素直な反応をして……ふふっ……! なんて可愛いらしいのかしらアイリス! ああ……尊い!」


「ほんと止めて下さい、王太子妃? 貴女のソレなんかすごく……怖いし気持ち悪いから」


「あら、フォンテーヌ公爵なんかにそんな事を言われたくですわ、ずっとアイリスをほったらかしにしてあんな女と夜会に出席していらした癖に!」


「自分でもその事についてはとても後悔しています、ですのでこれからはその償いも含めて彼女を大切にしていきたいと思ってますよ。そういえば王太子妃……例の件どうなりました?」


「あら? 一応はフォンテーヌ公爵、貴方でも反省してるのですわね? ……ですが私を使うなんて貴方ってほんと何様なのかしら? それにあの程度何の支障もなく処理いたしましたわよ? 舐めないで頂戴ね? だからアイリスに早く会わせなさいな! 社交界の大輪の薔薇であらせられるエリザベート王妃殿下もあの子に会いたがっておりましたのよ?」


「……貴女ですら厄介なのに、あの王妃殿下にアイリスを会わせるわけが無いでしょう? 余計な事を言って王妃を味方につけて圧力かけようとするのいい加減止めて下さい、王太子妃それ貴女の悪い所ですよ」


「なにを今さら、私達王家が圧力かけても何も気にしない癖に! フォンテーヌ公爵って貴族の自覚ありまして? たまには私達にに媚びへつらっていただけませんこと?」


「王太子妃貴女じゃないんだから、媚びて機嫌をとるのは面倒なので丁重にお断り致します、それに貴女に媚びたところで何も良いことないでしょ? ほら用がないならさっさと王太子の所に戻って下さい、あそこで貴女を探してますよ? 見えてるでしょう?」


「……チッ、致し方ありません戻りましょう! ですが! 私はアイリスの事諦めておりませんからね!」


「……いやそこは大人しく諦めて下さい、それと王太子妃らしくしてください、面倒なんで」


 やっぱりアイリーン王太子妃にアイリスを会わせるべきではなかったと、ラファエル公爵は思った。


 アイリーン王太子妃は悪い人間ではなく、どちらかといえば貴族にしては善良で清廉潔白、それに情に厚く優しい人だ。


 だからラファエル公爵はアイリスの後ろ楯についてくれればいいと思って、アイリーン王妃太子妃主催のお茶会の招待を受けたのだが。


 だが、アイリーン王太子妃は少し変わっていて、あまりお気に入りを作る人ではないが、一度でも相手を気に入ってしまえば溺愛というか猫っ可愛がりして手元にずっと置きたがる。


 そしてアイリスならきっとアイリーン王太子妃のお気に入りになると思っていたがまさか一度の茶会でここまで気に入られるなんてラファエル公爵は思ってもみなかったから……面倒な事になったと思うが。


 ここまでアイリーン王妃太子妃に気に入って貰えれば、ヴァロア男爵はこれ以上娘のアイリスを傷付ける用な事は言ってこないだろうと、少しだけラファエル公爵は安心したのだった。

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