17 地獄の一丁目?



「アイリス一体ここで何をしている?」


「っうげ……お父様……」


「アイリス、お前は公爵様の領地にいるはずだろう? 王城で一体何をしているんだ、答えなさい」


「……ラファエル公爵様に呼ばれまして王都に先日戻って参りました。そして社交活動をするようにとのご命令で本日王太子妃様のお茶会にお呼ばれして参ったしだいです、……あと今から庭園に向かう所です」


「公爵様がアイリスお前に社交を!?」


 我が今生の父ヴァロア男爵は青い瞳を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべる。


 そんな驚かんでもいいじゃないか。


「はい、そうです。私を疑うならラファエル公爵様にご確認を、同じ答えが帰ってくるだけですが」


「お前みたいな出来損ないの穀潰しに社交など出来る訳がなかろうに……なんと酔狂な。公爵様はフォンテーヌの家名に泥を塗るおつもりか……?」 


 今生の父の私の評価が相変わらず驚くほど低い!


 まぁ実際そうなんだけど?


 私に社交なんて出来ないのだから。


「お父様、おっしゃりたい事がそれだけならば私はお茶会の時間がありますので、これにて」


「アイリス」


「なんでございましょう?」


「庭園はそちらではない、反対だ」


「あ……はーい」


「……それとアイリス……これはチャンスだ、お前顔だけはそれなりなんだ。誘惑でもして公爵様に寵愛を貰え。そうすれば我が男爵家は公爵家と縁がしっかり結べるし追加の資金援助も期待できる。いくらお前の身体が弱くても子の1人くらいその命と引き換えにでもしたら産めるだろう?」


「……はい」


 うん、久し振り、この胸の痛み。


 父親の罵りと嘲る笑い。


 まあ親なんてどこもそんなもんだ、期待をするだけ無駄なので、嫌なことからは逃げるが勝ち。

 

 



 そしてやって来ましたお茶会の会場!


 美しいドレスに身を包む貴婦人やご令嬢達が、それはそれは楽しそうにお茶やお菓子に舌鼓しつつ、うわべだけを綺麗に取り繕って、マウント取り合う地獄の一丁目!


 私みたいな引きこもりニートが来てもいい場所では絶対に無いが、来てしまったもんは仕方無い。


 空いている隅っこの席を探し大人しくしてようと探すが隅っこ空いてないー!


 そしてこの煌びやかな会場で、一際美しい貴婦人が呆然と立ち尽くす私に優しく微笑みながら、ゆったりと近寄ってきて。


「フォンテーヌ公爵夫人! 来てくれたのね!」


「っ……王国の月の女神にご挨拶を……アイリーン王太子妃殿下、本日はお招きありがとうございます」


「ふふっ、フォンテーヌ公爵夫人そんなに畏まらないでくださいな? 来てくれてすごく嬉しいわ! 貴女達の結婚式以来かしら!」


 淑女の中の淑女、王妃殿下とその美しさと賢さで並び立つ我が王国の美しき白薔薇姫。


 王妃殿下が大輪の赤薔薇ならば、アイリーン王太子妃殿下は純白の白薔薇と例えられるほどに淑女達から羨望と尊敬の眼差しを向けられる特別なお方。


 本来ならば男爵令嬢の私が直答をしてもいい方ではないが、今は公爵夫人なのでそれが許されてしまう!


「その節は私共の結婚式にご参列くださりまして誠にありがとうございます、アイリーン王太子妃殿下のお誘いとあらば、何を置いても駆け付けさせて頂く所存でございます……」


 これで返しは大丈夫かな?


 私なんか変な事言ってない?

 

「そんな緊張なさらないで? 立ち話も何だしあちらでゆっくりお話しましょう? さあフォンテーヌ公爵夫人の席はこちらよ! はい、どうぞ!」


「っえ?」


 そこはどうみてもこのお茶会の中心地で。


 アイリーン王太子妃殿下が私の手をひいて向かったそのテーブルには私でも名前を知っている高位貴族の貴婦人達が既に座ってお喋りしていて……!


 むりむりむりー!


 陰キャの引きこもりニートに、あんなカーストの一番上の席なんて……絶対に無理!


 余計な事を言って自爆する未來しか見えない!


 だがそこは悲しいかな縦社会。


 トップにそうしろと言われたら逆らえない。


「ではフォンテーヌ公爵夫人、ご挨拶を!」


 そしてアイリーン王太子妃殿下に挨拶を促され、初めてのお茶会が始まった。


「はい……私はアイリス・フォンテーヌと申します、そして夫は近衛隊長の任を国王陛下より賜っております、どうぞ皆様よろしくお願いいたします」


 よし、噛まずに言えた!


 私、えらいぞ!


「あら、三年ぶりね! 私も結婚式には参加致しましたのよ、きっと覚えていらっしゃらないでしょうが」


 ちょいと癖のある金髪にたれ目のご婦人は確か。


「っ覚えていますガティネ侯爵夫人、優しいお祝いの言葉を頂きました!」


 覚えてる覚えてる。


 自作のポエム集贈ってきた人だ。


「あら! 覚えていてくださったの!? ねぇアイリーン聞いて聞いて、フォンテーヌ公爵夫人が私の事覚えててくれたって!」


「あら、よかったですね!」 


「じゃあ私の事も覚えてる!? 結婚式に参列致しましたのよ?」


 すらりとした体躯にサラサラの赤毛。


「はい、ロベール伯爵夫人、お祝いの花束ありがとうございました、すごく綺麗で嬉しかったです」


 巨大な花束貰ったなぁ。


 すぐ枯らしちゃったけど。


「まあ! 聞きまして! ふふっ嬉しいわ! 貴女直ぐに領地に行ってしまわれてお話も録に出来ず寂しかったのよ? これからはたくさんお話しましょう!」


 あれれ? 普通に歓迎されてる?


 いやまさか……ここは地獄の一丁目!


 その言葉の裏になにかあるはず!


 と、私は勘繰っていたが。


 終始和やかな歓迎の雰囲気でお茶会は進んで。


 和やかなまま何事もなく終わった。


 ……あれ? マウント合戦は?!

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