15 好きだろう?
黄金の瞳を細めてラファエル公爵は、寝台に座るアイリスに触れるだけのキスをする。
結婚式ですらフリで済ましたキスを何故突然されてしまったのかわからないアイリスはなされるがまま。
頬に添えられる手は少し節くれだっていて、自分の手との大きな違いを感じさせた。
重なり合うだけのキスは優しくて酷く甘くて、なぜか涙がアイリスのチョコレート色の瞳をからポロポロと溢れて落ちた。
触れるだけのキスだったものが深いキスになり始めた頃、アイリスは正気を取り戻しラファエル公爵の唇から逃げよう踠く。
「っんん!? いやっ!」
ラファエル公爵の薄い唇から、顔をそむけてアイリスはどうにか逃れるが、手を掴まれて遠くには逃がして貰えない。
「……アイリス」
「い……いやです! 離して下さい……! どうしてこんなことなさるのですか? 私の事、愛さないって言ってたのに!」
え、本当になんで!?
いやいや、どうした?
あの無関心公爵に一体何があった!?
「……愛するつもりはなかった、君の事は子どもだと思っていたし女性として全く見ていなかった」
……まあ、うん、そりゃそうでしょうね?
公爵と結婚した時、私デビュタント終えたばかりのお子様でしたし、それには薄々勘づいてました。
だって私を見る目がそれを物語ってたし。
「あ……まあ、はい」
「……だが、どうしても君の笑顔が忘れられなくて、いつの間にか君に私は恋をしていた」
私に、こ……恋ぃ?!
突然なに言ってんのこの人……?
驚きすぎて涙がすっこんだわ。
「は? え、えっ……と?」
公爵は跡継ぎを産ませたいだけじゃ?
だから愛し合うとか、ほざいてたんじゃ?
え、恋って……なんだ?
っていうか、私のファーストキス!
夫婦だからって勝手にすんな!
「……私が君にしたことを考えれば……君に愛して貰えるとは……思ってない。ただ手元に置きたくなった、それで誰にも奪われたくなくて……、浅はかな男の我が儘だ、だから……公爵夫人として好き勝手社交して遊んでくれて構わない、側にいてくれないか?」
んんん?
ちょっと公爵がなに言ってるのかわからないぞ?
「え、遊ぶ……?」
「……女性は社交活動が好きだろう? 公爵夫人の立場なら王族にしか頭を垂れずに済むし社交界でも存分に楽しめるだろう、何か不都合があれば全て私が対応しよう、ドレスも宝飾品も、君が気に入るものを用意しよう、だから……その……」
「あの……公爵様……?」
「なんだ、どうした? 他に何か必要か?」
「公爵様、貴方……馬鹿じゃないです?」
「……ん?」
ラファエル公爵は、私の言葉が信じられないらしく、キョトンと目を丸くした。
「色々貴方は間違えてますよ?! 私は社交が全然好きじゃありませんし、好きとか宣う前に、なにか私に言うことあるんじゃないんですか!?」
「君に、言うこと……?」
「私にごめんなさい、して下さい! 三年間です、貴方が私から奪った時間は」
「……っごめん、酷いことをしたと思っている、私の我が儘で……アイリス、君に辛い思いをさせたと、本当に反省している……だから……その……」
「……まあ、言われた所で許しませんけど?」
謝罪したからといって許すとは言ってない。
「……え」
「それに、貴方……愛しい恋人いた癖に、急に私に恋をした? 結婚式から三年間、一度も会ってないのに? そんなの絶対にありえないです!」
お飾りの妻を囲うほど好きだった癖に何気軽に別れてんのこの人!
そのせいで私の悠々自適な素晴らしき引きこもりライフが崩れ去って散っていく!
それに……いつどうやって私に惚れた?
姿絵か!?
結婚式の思い出か?
いっそ妄想か!
……どれをとってもすごく気持ちが悪い!
「え、あー……うん、それは……だな……」
ふいっと、ラファエル公爵はアイリスから目をそむけ、とっても気まずそうに目を泳がせた。
流石のラファエル公爵でもアイリスに本当の事が言えないのだろう。
三年近く君の事を物陰に隠れてずっと見ていた。
……なんて。
気持ち悪い事は口が裂けてもアイリスに言えない、言ったら嫌われるだろう事はわかってるから。
わかっているならそんな気持ち悪い事をしなければいいのに、ラファエル公爵は馬鹿な男である。
「……もう、出てって下さい、公爵様なんて、大ッ嫌い! 私も……貴方を愛するつもりなんて全くありません! 貴方なんて……お飾りの夫です!」
「え? ……っあ、ごめん」
最初のあの勢いはどこへやら?
アイリスにがっつりと罵られて項だれてしょんぼりとして、公爵夫人の部屋をラファエル公爵は大人しく出ていった。
そのラファエル公爵の姿に。
アイリスはちょっと言い過ぎたかな……?
と、思ったが。
思いの外、気分がとても晴れやかで。
……清々しかった。
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