7 結婚3年目
ラファエル公爵に退席を許可された私は、用意された部屋に執事リカルドに案内されて向うと。
そこは明らかに公爵夫人用の豪華なお部屋だった。
3年前の結婚式で用意されていたお部屋はお客様用のお部屋だったのにどうして?
と、疑問が湧いたが。
これでも今は一応公爵夫人だし、そういうものなのだろうと無理矢理納得しておいた。
そして食事は部屋に運ばれてきた。
ラファエル公爵の平民の恋人はこちらの母屋ではなく離れに住んでいるはずだが、やはりお飾りでも一応妻である私とは絶対に会わせたくないのだろう。
ラファエル公爵は私を部屋からは出したくない模様だ。
王都に戻って来られたとしても、領地の公爵邸のほうが自由に歩き回れてそちらのほうが過ごしやすい。
ここはとても息が詰まる。
でもここに滞在するのは数日程度の我慢だと自分に言い聞かせて、一人部屋で食事を頂くが食欲がない。
それは明らかにストレスというやつだ。
好きなだけ引きこもって好きなことだけして、のんびりダラダラして外界と遮断されていた私にはストレス耐性というものがあまりない。
男爵令嬢時代は最低限だが外界との交流があって今よりも人間らしい生活をしていたが、お飾りの妻になってからはそれすらもない。
この三年間話すのは執事リカルドと専属メイドのジェシカくらいだったから、ラファエル公爵と話すのは緊張を強いられた。
そりゃ食欲もなくすわなと、フォークをおいた。
「でも、どうして……呼び出されたんだろ……?」
一人ぶつぶつと呟いて危険人物だと思うかもしれないが、私は独り言がとても多い人間である。
一人部屋に引きこもって何日間も何も喋らないでいると、ふとした瞬間に声や言葉が出なくなるので喋るようにしている!
……まあ、それはただの言い訳だけど。
思い当たるような節もなくアイリスは自分が王都に呼び出された理由もわからぬままに、自分が立ち入る事はないと思っていた公爵夫人の部屋で眠り。
そして夫であるラファエル公爵の思惑を何も知らないアイリスは、不安を抱えながら公爵夫人の部屋で朝を迎えた。
「おはようございます、奥様。旦那様が朝食はご一緒にどうかと仰られておりますが、いかがなさいますか?」
朝の身支度を終えた公爵夫人の部屋に執事リカルドがやってきてそんな驚くような事をアイリスに告げた。
ラファエル公爵が私と食事したいだなんて、それはどんな風の吹き回しかとアイリスは目を大きく見開いて驚いた。
とても短い婚約中も、結婚してからも一度も一緒に食事どころかお茶すら一緒にしたことがない。
なのになんで!?
と、アイリスは一瞬だが執事リカルドへの返答に困るがどうにか持ち直して。
「……では、公爵様と朝食をご一緒させて頂きます」
そしていつも通りアイリスは可愛らしく微笑む。
大丈夫、笑えばだいたいなんでも誤魔化せる、それはアイリスの経験というよりは転生前の経験だ。
まさか私があの仏頂面の冷徹公爵がお飾りの妻でしかない私と食事したいと言うなんて、それにそれを伺ってくるなんて。
アイリスは、ラファエル公爵が命令を下してくるならこんなに驚く事はなかっただろう。
だか私の意思を聞いてくるなんて天変地異の前触れかと大層アイリスは驚いた。
「では、奥様こちらへどうぞ」
「……ええ」
アイリスは執事リカルドに案内されて、一応夫であるラファエル公爵が待つ食堂へ向かう。
めちゃくちゃ行きたくないと内心は思いつつも、笑顔は決して崩さずに至って冷静を装いながら。
「やあ、おはよう、アイリス待っていたよ」
「……おはようございます、公爵様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
急に誘っておいて……!
『待っていた』とか、普通言う?!
そこは、普通さ?
『突然誘ってしまいすまなかった』じゃ、ないのかな!?
そう脳内でラファエル公爵に文句をアイリスは言うが、可愛らしい笑顔は決して崩さない。
そして仮初めの夫婦は結婚3年間目にして初めて同じ食卓について、食事を始めたがアイリスの食欲は驚くほどない。
「どうした? 食が進まないようだが……」
「あ、えと、申し訳ございません」
「……責めているわけではない、体調でも優れないのか? 昨日の夕食も残したとリカルドに聞いたが……」
アイリスはまたしても驚かされた。
ここ数日驚かされることばかりだ。
まさかラファエル公爵が私の事を気にかけるなんて。
やっぱり天変地異……?
季節外れの雪でも降るのかな?
ラファエル公爵の奇行にアイリスは目を丸くした。
「え……? えと……はい。少し、疲れているのかもしれません、普段あまり外出することがありませんので」
「そうか、君は少しずつ外出することに慣れたほうがいいな。これからは外出することが多くなるだろうからな」
……んんん?
「外出が多く……ですか?」
「君には……こちらに戻ってきて貰おうと思っている」
「え……、戻って……? 王都に……、ですか? どうして」
王都に私が戻る……?
「ああ、そして君とは……これから……」
これから何なんでしょう……?
そんな言いにくい事なのだろうか……?
「あの……? 公爵様……どうし……」
「……君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと思っている」
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