死んだ血肉の使い方

かわくや

没かどうかも分からない編 goodbay

「ギィィィィィィィ!!!!」


 真っ青な空の中、そんな悲鳴のような声を上げてドラゴンが落ちてくる。


 なんとか姿勢を整えようと翼を広げている様子だが、先ほどジャベリンでぶち抜いた大穴から風が抜けてゆらゆらとふらつき、まるで枝から落ちた木の葉の様な挙動になっていた。

 確かに何もしないよりかはマシではあったんだろうが……


 ドォン


 結局、そんな音と共に土煙を巻き上げ、ドラゴンは落ちてきた。

 その土煙を手で払いながら近づくと、そこにはひどい有り様になったドラゴンが居た。

 あれだけ美しかった桃赤色の鱗は砂と血に塗れ、絹の様だった皮膜は無惨に破れている。


「クルルルル……」


 どうやらまだ息は有るらしいが、既に抵抗する気は無いようで、無遠慮に近づく僕に大して、目を伏せる。どうやら既に命を諦めているようだった。

 そう潔くされるとやりにくいんだが……これも必要なことなんだ。どうか好きなだけ呪ってくれると良い。


 とまぁ、完全に、狩る側目線でそんなことを考えていたのは良いんだが……


 どーやって殺そうか、これ。


 問題はそこだった。

 戦闘中にも散々苦しめられたのだが、コイツのうろこは魔力を吸うのだ。だから皮膜を狙うことで何とか堕としたのだが、皮膜をいくら傷つけようが、死に至ることは無い。

 この出血なら放置していれば死ぬのかも知れないが、なんというか、今更な話ではあるのだが、可哀そうな気がしてきたのだ。

 だからさっさと楽にしてやりたいという気持ちもあるんだが……どうしたもんか。

 ……いや、ここは逆に必要なもので考えるとしよう。


 この場で必要なの物は二つ。魔力に頼らない純粋な筋力と、いわゆる魔法金属と呼ばれる様なソレより硬いうろこを砕き、尚且つその下の肉を裂くことのできるとびきり優れた得物だ。


 前者の方は、僕の体質上いくらでも増やすことはできるのだが……後者の方はそうも行かない。なんせ僕は魔術師だ。近接用の得物などもちあわせてない上、そんな得物は全ての人間が喉から手が出るほど欲しがる名剣の類だろう。

 最悪ウサギを体に入れてから、刺し殺してもいいのだが……やっぱりそれだと苦しいんだよなぁ。

 うーん、血が真っ赤なうちに、何とか頭と体を一気にバイバイさせてやる方法はないものか……ん?


 そう考えた時、一瞬脳裏に何かよぎった気がした。


 真っ赤……バイバイ……グッバイ…goodbay……


「あぁ‼‼‼」


 思わずそう声を上げる。

 有った。得物すら必要とせず、どんな敵でも断ち切る一つの方法。

 それは……

 

 「武器が無いなら、自分が武器になればいいじゃない。」

 

 ……つまりはそう言うことだ。

 僕の腕を武器にして、このドラゴンの首を断ち切る。言葉にすればこんな簡単なことなのに、どうして今まで思いつかなかったのだろう。


 そう目からうろこが落ちたような気分を味わいながら、僕は体を変形させる。

 形は既に決まっていた。

 理想とは少し遠のくが、右肩の筋肉を多く作り、その先の腕には……鎌。

 これだけできっと分かる人には分かるだろう。今回僕が何からこれを思いついたか。

 世にも奇怪な怪物たちを管理し、世界一クリーンなエネルギーを作り続けるゲーム。そう、例のアレである。

 その怪物たちは、どいつも特筆すべき特徴を持っており、そのどれもが十分な警戒を必要とするのだが、その中でも居るのだ。他の怪物たちが、様々な能力でこちらを翻弄する中、ただ暴の一文字だけでこちらを圧倒してくるような奴が。


 今日はその姿を借りようと思う。幸い、変形という能力一点だけで見るのなら、できることだって非常に似通っている。アイツが出来たことなら僕にも……出来るかな。あの破壊力が出るかどうかだけは正直一切の確証は持てないのだが。


 そう不安になりながらも、僕は最後まで魔力を鎌に注ぎ続けた。

 

 

 より硬く。

         ――もっと皮を集めるため

 より広い視界を

         ――もっと学んで真似るため

 もっと自由に

         ――■■になりたいから


 

 そんなことを続け、ふと鎌を見ると……


「うわぁ……」


 そこには脈動し、目を動かし、歯を鳴らす。

 まるで一つの意思が宿った様な鎌がそこにはあった。

 

 別に目も歯もつけた覚えはないんだが……ウサギが悪さをしたのか?確かにオリジナルの方もこんな見た目だった気がするので、これがなろうとした姿に近づこうとしてくれた結果だというのなら、うれしい限りなのだが。


 そんなことを考えながらも僕は立ち上がり、改めて目の前の存在を見た。

 象の足ほどの太さを持った首に、僕から吸った魔力で輝く桃赤色のうろこ。

 この鎌を軽く超える大きさではあるが、問題ない。これはそう言う武器だ。

 ……とはいえ、正直言ってあまり自信はない。もし仮にダメだった場合、傷からウサギを侵入させ、無理やり引き裂く計画を立てているくらいに自信はない。

 だが、僕がやらねば。僕が憧れ、絶望させられたあの技が世界を超えても通用すると証明するため。

 カーリー、ゲブラー。我にご加護を……


「っぷぅ~」


 そう祈ってから、僕は息を吐いて落ち着いた。

 そうして二度鎌を軽く振り降ろし、イメージを作る。

 そして三度。


「……」


 振り上げた瞬間に巨大化した鎌を振り降ろす。



 ミミクリー大切断・縦



 ブッシュ――――‼‼


 瞬間、吹き上がる紅い血。果たして僕の腕は……


 ドラゴンの首を切り落とし、その下の地面へ深々と突き刺さっていた。


「ッタァーーーーー!!!!」


 その光景に金切り声を出して絶叫する。

 嗚呼……嗚呼!!

 素晴らしきかな我が青春!!

 僕の生涯(19年)かけて育ててきた愛が、異なる世界でついにその実を結んだのだ。こんなにうれしいことは無い!!


 ジョシュア、ジョシュア、それから、ジョシュア。

 僕がシールド貼り忘れてミンチになったお前たちの仇は……いや、別に仇はとってないな。

 お前らの死が必然的な物だったことが強調されてしまっただけだわ、すまん。

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