第10話 存在意義
そういえば……見かけたのは男子ばっかりだったかも……。
ふわふわでもっふもふの可愛い女の子獣人がいたらいいなあ、先生と生徒の禁断の恋とかあったらどうしよう! ……なんて夢を密かに抱いていたから結構ショックだ。
ちなみにオレも京平も彼女がいたことがあるが、結局二人で勝負したり遊んだりしている方が楽しくて別れてしまった。
それからは特に「彼女が欲しい」と思わなくなっていたが、異世界に来て心機一転、新しい出会いが会ったら……なんて希望は今消えました。
「昔は女生徒もいたようですが、『女性は呪われる』という事象が続いたそうなんです」
「え、呪われる!?」
シオン先生の言葉に思わず目を剥く。
「ええ。女性はもれなく長い白髪の亡霊を見たり、憎まれている夢を見続けるようになって精神を病んでいったため、女子生徒、女性の教師は受け付けなくなったようですよ」
急に怖い話が出てきた!
こんな廃校みたいな外観のところにおばけが出たら泣いちゃうのだが!
「っていうか、この人誰? どうして人間を連れて来たんだ?」
「あ」
ジト目で聞かれ、名乗っていなかったことを思い出した。
「オレ、千隼っていいます。この学校で『保健室の先生』をさせて貰うことになりました! よろしくお願いします!」
「ホケンシツ? 何だそれ」
「生徒たちに治療や休息を与えられる場所です。つまり、彼は私たちの新しい仲間です」
「仲間ぁ?」
シュロ先生はオレを見てさらに訝しんでいる。
「こいつ胡散臭いな」と思っているのが伝わってきてつらい……。
オレ、どこにでもいる普通の男子高校生です。
この世界では身元不明だけどさ。
「実はリッカの頭痛については解決できそうなんです」
「え!?」
「チハヤは僕の頭痛を治せるんだ」
「…………っ!?」
シオン先生とリッカの言葉を聞いて、シュロ先生がバッと椅子から立ち上がった。
その勢いで手元の書類が何枚か落ちたが、気にする余裕がないようだ。
「どうやって!?」
「彼が持っているスキル『小回復』は獣人にも効くようなんです。実際にリッカの頭痛と怪我を治して貰いました」
「嘘だろ……」
シュロ先生のオレを見る目は驚愕と困惑に染まっている。
「信じないなら――」
「おい、また爪で引っ掻こうとしているんじゃないだろうな?」
自傷行為ショーはさせないぞ。
手首を掴んで止めると、なぜかオレの手にリッカが手を重ねてきた。はい?
「……何してる? 手を重ねるゲームでもするつもりか?」
「ゲーム? なんで今ゲームをするんだよ。そんなわけないだろ」
「いや、現在進行形で仕掛けてきているのはお前だから!」
そう言って手を叩いたら、回避されて自分の手を叩いてしまった。
オレの負けかよ!
「ふっ……自分の手を叩いて何してるの」
「お前が避けるからだろ!」
「……リッカも相当懐いてるね。珍しい」
「? えっと……?」
シュロ先生の顔がどんどん曇っていくのですが……。
「先ほどスノウの怪我も治してくれました。彼の力は私が保証します」
「……そう、治ったんだ。それはよかったね」
シュロ先生はポツリとつぶやいて俯いた。
く、空気が重い……治しちゃだめだった!?
「…………」
さらに気まずい沈黙が続く――。
シュロ先生の様子がなんだかおかしいし、どうしたものか……。
こういうときこそ空気を読まずリッカが話してくれ! とリッカに視線で訴えたのだが、ジーッとみつめかえしてきただけだった。
やたらキリッとした顔になっているが、何を考えているのか分からない!
あ~もう~! オレが何とかこの空気を変えるしかない!
「や、薬師ってすごいですね! 同じ治療担当としてよろしくお願いします!」
「……どうも」
明るい調子で話しかけたのだが、落ちた書類を拾いながら適当に返事をされた。
対応が塩〜!
空気も重たいままで話が続きそうにない。
オレ、こういう沈黙苦手なんだよ~!
「あ、食事の用意もしてるんですよね? オレ、料理もそれなりにできるから手伝います!」
「…………」
おっふ……さらに目つきが鋭くなった。
でしゃばるな、と思われた? 一層嫌われたかも……。
だがしかし! オレは京平と親友になった男だ。あきらめない!
「その白衣かっこいいね! オレも着たいな~!」
オレが日本で通っていた保健室の先生は白衣を着ていなかったけど、マンガとかでは白衣姿のイメージがあるからオレも着たいな、なんて……!
「…………は?」
「!」
シュロ先生の不機嫌オーラがマックスになった。
地雷を踏んでしまったかもしれない!
「ふざけんな……。勝手にすればいいけど、無駄に関わるつもりはないから! 仕事の邪魔だからみんな出て行って!」
「え、あの、ちょっと!?」
怒るシュロ先生に、三人まとめて背中を押して追い出されてしまう。
バタンッ! と激しい音を立て、オレたちを拒絶するかのように扉は固く閉ざされた。
「……オレ、失敗しちゃったかも。ハハ」
「おかしいですね。いい子なんですけどね……」
シュロ先生は頑張りすぎなので疲れているのかもしれません、とシオン先生がフォローしてくれたのだが……。
「チハヤが治してくれたら、シュロ先生の薬はいらなくなるから焦ったんじゃない?」
「!?」
涼しい顔でリッカが零した無神経な言葉に目を見張る。
「おまっ! 何てこと言うんだ! そんなわけないだろ! ぶっ飛ばすぞ!」
「そうですよ……。今までシュロ先生にどれだけ救われてきたことか。これからも我々には彼が必要です」
「そんなの分かってるけど?」
怒るオレたちにリッカはきょとんとしているが、本当に分かっているのか?
「そう思っちゃったんじゃないか、ってだけ。シュロ先生、僕の頭痛を治せないことを気にしていたから、チハヤが治してくれたことはよかったけど、自分は何もできなくて悔しかったのかも」
そういえば、聖女のことを話していたときも「ぼくが治せたらいいんだけど……」と言っていたっけ……。
「なるほど……。責任感の強いシュロ先生なら、そういう想いはありそうですね」
シュロ先生の怒りが爆発したのも、オレが「白衣を着たい」と言ったときだった。
あの白衣にはシュロ先生の信念とか、大事な気持ちが入っていたのかもしれない。
それをポッと出てきた奴が「同じものを頂戴」と簡単に言ってきたら怒るよな……。
「オレが馴れ馴れしいっていうか、無神経だったんだよ。仲良くしたいんで、これからがんばって信頼を築いていきます」
「そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます」
今すぐ戻っても怒られるだろうから、時間を空けて改めて挨拶しよう。
薬に調理や授業と、学校に多大に貢献しているシュロ先生は絶対いい人だ!
教えて貰いたいことがたくさんある。
仲間として受け入れて貰えるまで根気強く話しかけるぞ。
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