第46話 救国の女神はアルティの提案に目を輝かせる。
メーライトは、クアマダに連れて来られたタミラーシをナイヤルトコに連れて行ってほしいと頼むと、アルの身体を離れて自身の身体に戻り、地獄を見た。
呼吸の仕方すら忘れたメーライトが、身動きひとつ出来ずに苦しみ気絶をすると、怪我の功名というか、アイに入っていた間に出来た人格のようなものが代わりに目覚め、キチンと呼吸や食事を摂り、またメーライトが目覚めると、地獄の苦しみで気絶をする。
だがそう何日も耐えられるものではない。
死の淵に立ったメーライトに、アルティが詐欺師の本懐ではないが「メーライト!息の仕方を思い出すんだよ!死んじゃダメだよ!メーライトが死ぬとアノーレも消えて!あのお嬢様が助からないよ!」と言ってバナンカデスの名前を出すと、メーライトは持ち直して少しずつだが呼吸ができるようになる。
「メーライト!声は聞こえるんだよね!?なら目の開け方を思い出して!見てあげて!お嬢様が生きてる姿を見てあげて!」
この声でメーライトの目が開いたのは帰還から10日後の事だった。
「メーライト、瞬きは出来る?」
「嫌な時は3回。嬉しい時は2回連続で瞬き。すごく嬉しい時は何度もして」
この指示で意思疎通ができるようになると、生産職が作った車椅子でバナンカデスのベッドまでメーライトを連れて行く。
バナンカデスはザイコンの一撃で、首の骨と背骨が折れていて、その後遺症で左半身が麻痺していた。
だが運が良かったのは、下手に動かさずにアノーレの治療、治癒魔法を最初にしたお陰で、バナンカデスは訓練さえ積めば日常生活が送れると言われた事だった。
ベッドの上でメーライトを迎えたバナンカデスは、「そんなになって」と辿々しい言葉で言って涙を流すとメーライトは何度も3回瞬きをしている。
アノーレから、声が聞こえてコミュニケーションがとれる事を聞いたバナンカデスは、「2人で訓練をして、切磋琢磨すればあっという間ですよ」と言った。
「お友達のメーライトさんが頑張るのに、ワタクシが挫けるわけにはいきませんわ」
「メーライトさんは。呼吸が弱いのですね?ワタクシもうまく話せません。ワタクシの訓練にお付き合いください」
そう言ったバナンカデスはメーライトに「吸って、吐いて」と言い、メーライトは真剣に呼吸をする。
バナンカデスは、生産職の使徒達が装具を作ってくれると歩行練習を始めて、それを真剣に見守るメーライトは、バナンカデスと共に頑張る事で、座り方まで思い出せていた。
ここで、少し拗れるのはクサンゴーダだったりする。
戦後の処理など山積みで、悪魔に振り回されてボロボロになったナイヤルトコに関して、賠償請求も何が正解なのかわからない。
そんな頃、アルティは元詐欺師として、メーライトから離れて活動が可能な使徒として、砦を見たりナイヤルトコを見たりする。
丁度、保護されたタミラーシが、老騎士やハサンドムに守られながらナイヤルトコに着いたところで、メーライトの馬車隊が砦で保護をした元半魔半人達をアルデバイトからナイヤルトコに移送していた。
とりあえずだが、ナイヤルトコのダメージは深刻で、戦後処理どころではない。
皇帝のビエンテは、自身が悪魔に騙されていた事に気付き、ナイヤルトコをどうするべきか悩み、本来ならゲアマダやタミラーシに後を任せて責任をとって死にたいのだが、ゲアマダは悪魔に乗っ取られていたし、子もいない。
そしてタミラーシはメーライトの力で健康になったが、元が元なのでいつ何があるかわからない。
アルティは「あんたらさ、メーライトには言っておくから、もう少しナイヤルトコにいなよ」と、老騎士とハサンドムに言うと、タミラーシに「根回しとか落とし所とか、やってあげるからさ。メーライトと住みなよ。見た感じ、あのクサンゴーダより好みだから、窓辺に並べたい」と言ったアルティは、帰りにザイコンの所も見てみて、一つの落とし所を決めると、アルデバイトに戻って「メーライト!皆を助けてよ!アルのお願いを聞いて!」と言った。
アルティのお願いを聞いたメーライトは、目を輝かせて何度も瞬きをして喜び、バナンカデスやタミラーシの了承を取った。
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