第45話 救国の女神が新造された街に住むまで。

鬱蒼と生い茂る森を抜けると新造された街が広がる。

住居はどれも住み心地の良いもので、田畑や牧場も充実している。


街の名前は[シムホノン]。

世界平和に貢献したアルデバイトの司書官の名前から取られている。


街の奥、高台に作られた大きな平屋は、窓からたくさんの日差しが入り込んでいて、家の中でも暖かく眩しい。


窓辺には二つの人影。

一つは救国の女神メーライト。

そしてもう一つはナイヤルトコの皇子タミラーシ。


2人は窓辺で向かい合うように座り、穏やかに微笑み合う。


そこにけたたましく扉を開けて「ただいまー!」と帰ってくるのはアルティで、「メーライト!巡回終わりだよ!なんの問題もないよ!」と話すと、メーライトは瞬きを二度する。


「なんですか煩い」と部屋に来るのはアーセワとアーテル。

手には食事が用意されている。


テーブルにそれらを並べると、使徒達が次々に帰ってきてメーライトにただいまを言う。


メーライトは辿々しく微笑んで瞬きを二度すると、「さ、席に行こうぜ」と言ってアルーナが抱きかかえる。

その姿にアルティがヤキモチを妬き、アノーレが「アンタ、昨日の夜に抱っこしたし、アイの時にお風呂にも入ったでしょ?」と言う。


「アーセワ、先に私がお世話をするからアンタは食べちゃいなよ」

「そうします。神様、少しだけお待ちくださいね」


アーセワの言葉にメーライトは瞬きを二度してから申し訳なさそうな顔をする。

それを見たアーシルが「また全部アイに任せれば楽だとか思ったでしょ?私達は気にしてないよ」と言うと、アーセスが「本当だからね。神様はゆっくりと体を治すんだよ」と続き、タミラーシも「そうですよ。メーライト嬢」と注意する。


アーテルは前後不覚ながら、心が死んでいた時よりまだマシなアイに食事を食べさせて、「上手だよアイ」と褒めたりする。


食後、テーブルにはまだ1人分の食事が残されていて、メーライトが顔を暗くすると、アノーレが「大丈夫。さっき見てきたからもう来るよ」と言うと、メーライトはホッとした顔をする。


「じゃあアーセワ、アタシとアジマーは義手達と狩りに行ってくる」

「私はアーセスと義足達と畑に行くね」


アルーナ達が外に出ると「また早くなったな。立派だぜ」、「神様が待ってるから頑張りな」、「あと少しだよ!」、「…装具がズレてるね。後で生産職達に見させる。おかしかったらいいなよ。我慢なんてしたって全員にいい事ないよ」と聞こえてきて、5分後に「遅くなりましたわ」と辿々しい声と動きでバナンカデスが小屋に入ってくると、メーライトは顔を輝かせて嬉しそうに何度も瞬きをする。


アーセワとアノーレが、「神様はまたテーブルですね」と言い、アノーレが「まったく、嬉しそうにして」と言いながら、タミラーシに「じゃあ、今度はアンタの時間だね。アナーシャと巡回しておいでよ」と言う。


タミラーシは「ええ」と言って立ち、「メーライト嬢、それでは、私は歩行訓練に参ります」と挨拶をして、バナンカデスには「こんにちは。君がきてくれるとメーライト嬢が嬉しそうだ。辛くても頑張ってくれ」と声をかける。

バナンカデスは辿々しい動作と口調で、「帝国の皇子にアルデバイトのバナンカデスがご挨拶を申し上げます」としっかりと挨拶をすると、ゆっくりとテーブルに着席をしてアーセワに「本日もありがとうございます。いただきます」と言って食事をする。


辿々しくて、パン一つ上手に口に運べずにいるが、苛立つこともなく、何度もトライするバナンカデスを心配そうに見守るメーライト。


メーライトの視線に気付いたバナンカデスが穏やかに微笑むと、「友達のメーライトさんが頑張っているのです。私も負けていられません。早く2人でダンスの練習をしましょう」と言い、また食事に向かう。


1時間して残さずに食べ終わったバナンカデスは、アーセワに感謝を告げると生産職がリハビリ用に用意した積み木を積んでいく。


そしてそれの後で疲労回復の目的と共に、バナンカデスの治療をして、また時間をかけて帰宅をすると、今度はシムホノンの住人達と夕食を共にして、皆で風呂に入り1日を終える。



ザイコンがその身をダンジョンに変えて、クアマダを封じ込めた日、魔物達はクアマダの支配から逃れてアルデバイトから退散した。

限界が近かったメーライトは、ナイヤルトコではなくアルデバイトにタミラーシを連れ帰る。


アルデバイトで恭しく迎える連中をアルティが無理矢理退かせて、メーライトに早く身体に戻れと指示を出す。


「メーライト!人じゃいられなくなるから!早く戻って!」


アルティのその言葉に周りがどよめく中、メーライトは「アルティは本当に凄いね。でも先に皆に伝えないと」と言う。

メーライトはクサンゴーダとゲアブアラを見て「陛下、王子殿下、メーライトは戻りました。私の家族の言う通り、もう間も無く私は人に戻れなくなります。その前にお伝えしたい事だけを話させてください」と言った。


ナイヤルトコに「融合の手袋」が授けられてしまい、皇弟のゲアマダが悪魔クアマダに身体を奪われてしまった事、沢山の死を使って魔界の扉を開く儀式の為に戦争が起きた事、そして魔界の扉は開いてしまったが、助からない命だったザイコンがダンジョンコアを使って、魔界の入り口ごとクアマダを封じるダンジョンになってくれた事、そして魔界から魔物が現れない為にも、減った命を補う必要があって、産めや増やせやで、世界を命で埋め尽くしてほしいと伝える。

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