第37話 救国の女神は人々を救おうと思う。
困惑するメーライトの表情を見てブンコーは「シムホノン様が教えてくれたの」と言う。
「お父さんが魔物になってしまって、僕達みたいな子供を殺す前に、お父さんの間に助けてくれるのがメーライト様だって、ザイコンさんが言ってたよ。お父さんはお父さんで死ねて、アルデバイトにお墓も作ってもらえて、メーライト様って名前の女神様が、お墓にお花をくれたって聞いたの。だからありがとう女神様!お父さんに会えないのは寂しいけど、でもお父さんが魔物になって、兵隊でもない人を殺してしまうのは嫌だったからありがとう」
言わされている感じもなく、本当に感謝の気持ちを向けてくるブンコーを見て、メーライトは泣いてしまい「ごめんなさい。それしかできなくてごめんなさい」と謝った時、教会の扉が開かれて女子供、老人達、病や怪我、傷病兵だった者たちが入ってきて、メーライトに感謝を告げて「私達をお救いください」と言った。
困惑するメーライトに「シムホノンの手紙です。メーライト嬢宛です。読んでください」と言って手紙を渡したタミラーシは、子供達の介助で着席をする。
メーライトは着席も忘れて、丁寧に蝋印をされた封筒から手紙を取り出すと、中の手紙はシムホノンの字だった。
[お久しぶりです。メーライト様、今こそ伝えられなかった事を伝えさせていただきます]
そんな始まりのシムホノンの手紙には、アルティが喚ばれてからダンジョンコアを持ち帰った事、その為に詐欺師が犠牲になった事を知っていると書かれていた。
ナイヤルトコも戦争、儀式を受け入れているわけではないが、皇帝と皇弟が死を回避できる話を信じてしまっていて、どうする事もできない事を理解した時に、やる事が見えた事が書かれていた。
[この先、やり直せる事を信じているビエンテ皇帝は、国民を皆半魔半人にしてしまおうとしています。ブンコーくんのお父上、カオカさんは結果を示すから、他の者たちを半魔半人にするのを半年猶予を持ってほしいと、自身を実験に使ってかまわないからと犠牲になってくれました。カオカさんは魔物の力の影響で、いつ自我を失い魔物になるか日々怯え、いつブンコーくんを力加減を間違えて殺してしまうか、怯えていました]
メーライトは手紙から目を逸らし、ブンコーを見ると、ブンコーはニコニコとタミラーシの介助をしながら「女神様は皆を救ってくれるから、そうしたら友達だった奴らの父ちゃんたちは帰ってこれるから、そうしたら街を綺麗にしてもらって畑も直してもらって、お腹いっぱいご飯を食べよう」と言っている。
「ご飯、食べてないの?」とメーライトが聞くと「うん。皆戦争に持っていかれちゃった。ここはまだタミラーシ様がご飯を分けてくれるから食べられるけど、皆は1日一食なんだ」とブンコーが答える。
タミラーシは「それで言えば、メーライト嬢も招いたのに、まだ食事も出していません」と申し訳なさそうに言い、メーライトは「私は平気です。すぐに手紙を読みますから待っていてください」と答えると、残りの手紙を読む。
[メーライト様、半魔半人のカオカさんを撃破したと聞きました。この私の命を貰っていただけますか?]
この一文を読んだメーライトには何処か確信がある。
続けるように、[私の夢は作家でした。何処か書く前に諦めていましたが、メーライト様に出会い、アーシル様の誕生に関わらせてもらった時、なすべき事が見つかり、命の終わりを見た時、私は本を書きたくなりました。命を込め、多少扇動的な内容ではありますが、キチンとこの儀式を止める為の一冊が書けたと思います。この手紙の残りの一枚には、私の理想を書きましたが、あえて読むのは後になさってください。また私の想いとメーライト様の想いが違っていて、より最良の使徒様が顕現なされる事を期待しております。シムホノン]と書かれていた。
メーライトが涙ながらに手紙を閉じると、タミラーシに言われたブンコーが教会の奥から「シムホノン様の遺品だよ」と言って、シムホノンの服と眼鏡、そして一冊の本が渡された。
「使徒の誕生に携わり、メーライト嬢の心に触れた司書官シムホノンが、文字通り命を燃やし、命を込めて書き上げた救国の一冊です。この力で使徒を、ナイヤルトコとアルデバイトを救う使徒をお喚びください」
椅子に座ったままのタミラーシの言葉に、7人の孤児たちが「女神様、僕たちを助けてください」と言うと、人々もメーライトに「女神様」「我々をお助けください」と口々に続く。
メーライトは照れくさそうに頷くと、救済のペンを取り出して「アーセワさん、アノーレさん、アーシルさん、来てください」と喚び、「聞こえていたかな?私と、タミラーシ様、ここの皆がお腹いっぱいに食べられる食事をお願いします。アノーレさんは怪我をした人たちや、病気のタミラーシ様に治癒魔法を使ってください」と言う。
「お任せください神様」
「神様、やるから安心して」
「私も料理が得意だから任せてね神様」
その一幕だけでも人々は涙を流し、メーライトを見て「お助けください」と願い祈る。
メーライトは「私は神様じゃないけど、頑張ります。出来るだけやります」と宣言をした。
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