第27話 救国の女神は限界を迎えてしまう。
鈍く光る刀身を見て、メーライトは震え上がり混乱していく。
アーセワは必死に「神様!お気を確かに!」と声をかけてくれるが、その声は遠くに聞こえてしまう。
「メーライト、助けて?友達の私が悪い貴族に殺されちゃう」
アルティの言葉に、メーライトは「イヤァァッ!」と叫んだ時、メーライトの精神は限界を迎えて気絶をした。
だが、通常の気絶とは違っていた。
アルティが我先に動くと、1人の貴族を部屋の外に追い出し、扉を凍り付かせて老騎士達の侵入を防ぐ。そして「氷魔法、アイスサイズ」と唱えると巨大な氷の鎌を出して「死神が復讐に来たよ」とワルコレステに言った。
ワルコレステは必死に周りを見たが、アーセワ達は倒れたメーライトを無視して、手近にいる兵士達を殺している。
アルーナは「月の戦乙女の恐ろしさを思い知れ」と言いながら、持ち上げた騎士に光魔法を放って焼き殺し、アーセワは「非戦闘員?バカにしないことね、あなた達が食べていたスジ肉なんかを丁寧に捌いて柔らかく食べられるようにしていたのは誰?と言いながら騎士に近づくと、鎧の隙間にナイフを入れて細切れに変えてしまう。
他の使徒達も変わらなかった。
各々が目につく兵士や貴族を片っ端から殺していく。
この世の光景と思えない中、震えて逃げようとするワルコレステに、「緊急避難。神様であるメーライトが命の危機を覚えて、限界を迎えた時、メーライトの周りにいる使徒たちは、目につく範囲にいる、メーライトに仇をなす恐れのある者を徹底排除するんだよね」と説明をするアルティ。
自身の身長より大きな鎌を振り上げて、命乞いをするワルコレステの首を問答無用に斬り飛ばすと、アーセワ達は周りに敵がいなくなった事で気絶をした。
アーセワ達が気絶する中、無事な自分の手を見て、「ありがとうメーライト。あのオトモダチの事もあったとはいえ、アルの事を特別にしてくれたんだね。だから知れたし、今もこうしていられる」と言う。
アルティはメーライトを抱きかかえると扉を開けた。
目の前に現れた老騎士と老神官に「アーセワ達はそのうち目覚めるから放置して。何かしようとすると、再起動して襲いかかってくるから、絶対に放置だよ」と言う。
部屋の中の凄惨な状況に顔をしかめる老騎士達に、「全部話すよ。あと、そこの貴族は証人だから連れてきて、殺すにしても、まだ殺しちゃダメだよ」と言い、ベッドのある部屋に行き、メーライトを安置すると、アルティは自分の生まれからこれまでをキチンと説明し、落とし所と証拠を提示した。
証拠は生き残った貴族サワヨキンと、地下牢獄で本を書いて殺された詐欺師の遺体、執筆に協力した評論家がいた事で、ワルコレステの悪事が露呈し、老騎士達だけでは決めかねる内容で、王子殿下のクサンゴーダを呼んでこの先について話し合った。
大まかな流れは、全ての悪事をワルコレステ主導で行い、ワルコレステに押し付ける形にしてしまい、その証言にサワヨキンを使う。
「メーライトも、アーセワ達も聞いていたけど、あのジジイはこれからも使徒が必要になったら、老若男女を問わずに冤罪でも微罪でも使って投獄して、命を助ける事を条件に、命懸けで本を書かせてから殺すって言ってた。だから未然に防いだ事になる。城の奪還なんて春になればアルーナ達でもやれるよ」
「それはわかった。だが、使徒様…」
「アルティ、名前を知らないから仕方ないけど、使徒呼び嫌いなんだよね」
「アルティ殿、そこまでの状況把握力や判断力、交渉力があれば、ワルコレステ様を殺さずとも、糾弾する事も出来たのでは?」
老騎士の問いに、アルティは呆れと悲しみの混じるニヤリ顔で、「わかってないね。復讐ってそういうモノじゃないでしょ?アルは生まれた時にはあの連中への怒りがあったんだよ。それはアルの本を書いたあの男が、魂と共に怒りと恨み、唯一の願い、復讐を込めたから。だからアルはそれをした」と答えた。
クサンゴーダは一度きちんと立ち上がると、アルティに「救国の女神の使徒アルティ。この国の病巣を取り除いてくれた事に感謝を申し上げる」と言う。
その姿は散々弱々しく、背景の一部になっていた王子の顔ではなかった。
「へえ、悪い気はしないね。とりあえずメーライトは直前の記憶が多分曖昧だから、ジジイが『バレてしまっては仕方ない。もう、1人殺したのだからこの先は一心同体。よろしく頼む』って言って、騎士に剣を抜かせて脅してきた事にしてよ」
クサンゴーダは「わかった」と答えて、ひとまずその場は落ち着いた。
メーライトは2時間後に目覚めると、砦の一室にいて、周りにはアーセワ達もおらずに、居るのは老神官のみ。
老騎士は万一に備えてアーセワ達が倒れている部屋に控えていた。
「あれ?」
「お目覚めですか?」
「神官様」
「何があったか覚えていらっしゃいますか?」
「…あまり、アルティがダンジョンコアを持ち帰ってくれて、宰相様と話した辺りまでしか…」
「そうですか、何があったか、お伝えする必要がございますね。とりあえずメーライト様が目覚められると、使徒様達も目覚めると聞きました。皆様が来るのを待ちましょう」
老神官がお茶を用意して、メーライトがそれを飲んでいる間に、老騎士がアーセワ達に何が起きたか、アルティから聞いた事を告げて、口裏合わせを行うとクサンゴーダを帯同してメーライトの前に行く。
メーライトはベッドの上で王子を迎える事になってしまい慌てたが、クサンゴーダは次期王として、キチンとメーライトに謝罪をし、何があったかをアルティとサワヨキンから聞いた話としてしていく。
感情を乱すメーライトに、「神様、もう諸悪は居ませんよ」、「私達も騙されていたけど、もうそんな事にはならないよ」、「結果はどうでもダンジョンの脅威は取り除かれたんだ」、「そうです。ご安心下さい」とアーセワ達が言葉を送り落ち着かせていく。
「ダンジョンコア…。あれ?アルティはどこ?」
落ち着いたメーライトがアルティを探すタイミングで、老騎士が「アルティ殿はメーライト嬢に言葉を残して出ていかれました」と説明した。
「出て行った?」
「ここにいるとよくないと思うと申されました」
「まったく」と言ったアノーレが、「神様、一度消して呼び出そうよ」と言うと、老神官が慌てて「おやめください!アルティ殿は『あ、そうだ。アーセワ辺りが、アルの事を一度消して呼び戻そうとしたら、ダンジョンコアは一緒に消えないから、その場に落ちて次のダンジョンになるよ。大丈夫、キチンとメーライトの為に働くよ』と仰っていました!」と口を挟む。
「やられた」
「あの子、それでダンジョンコアを欲しがっていたのね」
「抜け目のない奴」
皆が口々にあきれる中、「神様、視覚共有して、どこに居るか見てみてよ?」と言ったアーシルの言葉に、メーライトが視覚共有をしてみたが何も見えない。
「見えない」
「神様、アルティに能力を与えすぎてます。視覚共有の選択権までアルティにあるのですね」
アーセワの困り顔に、アルーナが「なんでそんなに強くしたんだよ?」とツッコミを入れると、メーライトは「バナンカデスさんが…」と呟いた。
「へ?」
「バナンカデスさんが、早くアルデバイトに帰りたいって言ったから、力を…とにかく力を求めたの」
想像通りの答えにアーセワはため息をついてしまう。
「なんでだよ神様?なんであのお嬢さんの為に頑張るんだよ」
「友達…だから」
「友達?」
「うん。初めての友達だったから、だから頑張ったし、アルティも2人目の友達だから」
メーライトは怒られると思って暗くなると、アルーナが「アタシは?」と聞いた。
「え?」
「アタシだってダチみたいなもんだろ?」
「え?でもアルーナさんは、私を神様って」
「そりゃあキチンとしてねえとアーセワが怖いし」
メーライトがアーセワを見ると、アーセワはウンウンと頷いている。
メーライトは使徒達の顔を見て「えぇ…。皆とはお友達がいいなぁ」と言うとアルーナが嬉しそうに「よし、じゃあダチだかんな!」と言い、間髪入れずにアーセワが「アルーナ!」と注意する。
メーライトはコレだけで嬉しそうに微笑むと、「皆、ありがとう。よろしくお願いします」と言った。
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