第8話 救国の女神が休息している間に問われる使徒達。
老騎士と老神官は窓口として奮闘してくれた。
宰相ワルコレステ達をはじめとする貴族達は、メーライトの能力についてなんとか把握をしようと画策していた。
あの日、城から見えた内壁一番から溢れた光の渦。
あれが魔物の攻撃ではなく、使徒の放った一撃なら、あの力があればナイヤルトコと戦える。
国土と民の数ではナイヤルトコに勝っているアルデバイトだったが、魔物の力と魔法の力では容易に戦局はひっくり返される。
それにメーライトの使徒達が何人になるのか、どのような能力者が居るのか、知りたい事は山のようにあった。
だがいくら聞いても、2人の老人は知っていることだけ、アーセワから聞かされたことのみしか口にしない。
「では、本を読んでも無駄になるケースがある」
「相性などと言う抽象的なものではなく、キチンとした理由を聞き出してこい」
「正確に何人の使徒が喚べるのだ?」
そんな質問は全て無意味に終わる。
苛立つ貴族達は直接聞くことにする。
まずはアノーレを呼ぶ。
訝しむアノーレに、「メーライト嬢には心穏やかにと言われたから、使徒様にお伺いします」と説明をして、メーライトが一度に喚ぶ事のできる使徒の数を聞き、使徒が何人居るのかも尋ねる。
アノーレは、少しバカにするように指を折りながら、「まだ今は数人。ですがそのうちに際限なくなりますわよ」と説明をする。
「今ではない理由は?」
「簡単ですわ。神様はまだ立って歩けるようになったばかりの子供です。人間も同じ、大人になり身体さえ整えば、出来ることも歩ける距離も増えますわよね。せめて今は消耗したお身体を労り、身体が強くなるように備える事をお勧めします」
この言葉に貴族の1人が「そんなの待てるわけがない!今すぐにでもナイヤルトコが攻めてくるやも知れないのだ!」と声を荒げるが、アノーレは鼻で笑うと、「願う事と感謝の心を忘れて、神の奇跡に常を求めるなんて図々しいわよ」と言ってから部屋に戻ると、アルーナが次は呼ばれた。
アノーレとすれ違う時、アルーナは「どうだ?」と聞くと、「早晩陥落だわ」とアノーレは答えた。
呼ばれたアルーナに聞かれたのは、メーライトが他の使徒を喚べなかった時の話で、アルーナ1人でどこまでやれるのか、この戦をどう見るかの意見だった。
アルーナは壁と門の方を見て「今の状況でも、一個師団ならまだなんとかなる。それは敵がひと塊だからだ。だが様々なところから波状攻撃をやられたらアタシでも無理だ」と説明をする。
「説明いただけますか?」
「アンタ達は、あのでかい門の前にアタシを置いて戦わせたいんだろうけど、魔物からしたらあんな門も壁も関係ない。あの壁も門も人間用で魔物用じゃない。突破される。現に魔物を使って空から攻め込まれたから、王様は怪我をしたんだろ?」
確かに魔物が徒党を組んで攻め込んでくるなんて前代未聞で、先人達が壁と門で城を守ったのは、ナイヤルトコが攻め込んで来ないようにする為だった。
息を呑む貴族達の中で、宰相ワルコレステだけは、「…では質問を変えさせてください。仮にメーライト嬢が万全なら、使徒様はどこまで戦えますか?」と聞くと、アルーナはナイブレイドを見せながら「一騎当千って知ってるか?アタシが笑顔のままで実現してやるよ」と言って笑った。
戻る中、今度はアーセワとすれ違う。
「アノーレにも伝えたけど、神様が遠視と同期をしようとするから制止して」とアーセワは言う。
「了解。神様は優しすぎる。爺さんから地図を見させて貰ったが、東に撤退する必要があるな」
「…ええ、今のままでは袋のネズミです」
呼び出されたアーセワは、使徒のリーダー的存在として、メーライトの能力なんかについて聞かれる。
恭しく「神様に害を為す問いにはお答えできません」と言うが、殺気を放つアーセワ。
「では」と言って、ワルコレステは「その使徒として、先を見通す目でこの先を予測していただけますか?」と聞いてくる。
「国を離れ、城を捨て、東の砦に民を連れて逃げるべきです」
アーセワはごく当然に言うと空気がヒリつく。
ここで言葉こそ出てこないが、大半はそれを超常の力でなんとかしてこそだと周りの目は言っていた。
「…理由を、そして東の砦をご存知なのですね?」
「食後に老騎士を頼り、地図を見ました。あの東の砦ならば、渓谷の入り口を塞ぐように建設されていて、上空からの攻撃以外なら、一方向の攻撃にのみ対応すればよくなるのでアルーナ1人で対処可能になります。それにさらに東に行く事で、敵国は兵站の維持がネックになり、飛行型の魔物にしても、長距離飛行が可能な種類に限定されるので、対応もし易いでしょう」
「ですが、結局はこの城を前線基地にされてしまえば、兵站の問題は解消されますが?」
「その頃までに立て直せば問題はありません。神様さえ万全で、一日でも長くアルーナと神様の繋がりを強められれば、奪還も容易です。この城は超常の者への備えが甘く、攻められる事に向いていません。それこそ前線基地にするというのなら、一気に叩き潰して再起不能にしてしまい、今度はコチラから攻め込むべきです」
悪くない作戦だった。
ワルコレステは了承しかけたが、貴族の中から「国を捨てるなんて以ての外だ。それ以外の方法を用意しろ」と言い出す。
アーセワは呆れ顔で、「国に人がいなくても国なのか、人が居ればそここそが国なのか、少ない時間で、高貴な生まれの貴い考えで、答えを出せば良いでしょう。間に合えばですけどね」と言って戻ろうとした時、部屋に入ってきたのはメーライト達だった。
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