第7話 救国の女神は国王ゲアブアラを救う。

老騎士、老神官、メーライトは、このまま内壁二番で防衛にあたると思っていたのだが、夜には内壁三番を越えて城に呼ばれていた。

アーセワとアノーレを連れて城に行くと、恭しくも物々しい歓迎を受ける。


必死に老騎士や老神官が間に入り場をとりなそうとしても、眉唾くらいにしか思っていない城の連中は、メーライトを町娘、アーセワ達を一般人くらいにしか思っていなかった。


これに憤慨したのは老騎士と老神官で、老騎士は若い近衛兵達に「相手によって態度を変えるとは、騎士の心はどうした!」と言って怒鳴り上げるが、「古臭い老人の戯言」と聞こえるように陰口を叩かれ、老神官は若く将来を見込んだ弟子達が、自分には聞こえた神の声すら聞けず、メーライトの持つ「救済のペン」が放つ神気すら感じ取れない事に、「お前達、情けない。修行をやり直しなさい」と落胆していた。


呼び出しておいて、ぞんざいな扱いをする面々に苛立つアーセワは、わざと老騎士に「この人達はどのようにすれば神様への態度と発言を悔やみますか?」と問えば、「女神様…、メーライト嬢には申し訳ないが、アルーナ殿をお喚びいただきたい」と言う。


アーセワが答える前に、アノーレが申し訳なさそうに、「神様、お疲れの所に申し訳ないけどさ、アルーナも喚んでくれないかい?」と言うと、メーライトは頷きながらペンを構えて「アルーナさん、来て」と喚ぶ。


光と共に現れたアルーナを見て、神官や騎士達は息を呑む中、現れたアルーナは不機嫌で、「神様、無理させた。ごめん」と謝ってから、老騎士と老神官に「部下の躾も出来ないのか?不遜な態度は万死に値するぞ?」と凄む。


自分たちも馬鹿にした癖に、アルーナの態度には不満を見せる騎士に、アルーナは「心根を入れ替えてやる。構えろ」と言って構えさせると、一撃で薙ぎ払い「弱い。弱さを紛らわす為に虚勢で誤魔化そうとするから心も弱くなる」と言い切った。


「私達は実力をお見せしました。それで?この場に呼んだ理由をお答えください」


アーセワが窓口になり、アノーレはメーライトの前に立つと、「神様は、お優しくてつけ込まれると良くないですから、私たちが窓口ですからね」と言って壁になり。アルーナはいつでも戦えるように、腰のナイブレイドに手をのばせるようにしていた。


「これは失礼いたしました。救国の女神様と使途様達の御力は確かに拝見させていただきました。私は宰相のワルコレステと申します」


前に出てきた初老の男は、欲にまみれた顔で3人の使徒とメーライトを見ると、「第一内壁でお見せになった御技を、お願いしたくお呼びしました」と言い始める。


「何を望まれますか?大きな戦闘と兵達の治療により神様はお疲れで、過度な力は神様を疲れさせてしまいます。神様が疲れてしまえば、我々も現世から一時的に退く身。そうなれば総崩れになります」

「まずはお話を聞いてくださいませんか?」


ワルコレステの話では、極秘事項だが、混乱に乗じて賊が単身城に入り込み、国王ゲアブアラが怪我をしてしまい、これからの事が何も決められないという話で、それは老騎士達も知っていて顔を暗くしていた。


「一晩待てませんか?」と言うアーセワを制止して、メーライトが「アノーレさん、あと1人ならなんとかなりますか?」と声をかける。


アノーレは「私はやれるけど、神様だよ。アルーナまで喚んで疲れてるし、前の疲れも癒えてないじゃないか」と心配すると、アーセワは「神様の疲労は戦局に直結します。慰労を要求します」と言い、アルーナは「オッさん、これ以上は神様に無理させないように守れよな」と老騎士と老神官に指示を出す。


老騎士と老神官はキチンと指示を出して、メーライトに食事や湯浴みの準備を始める。

アルーナは「朝飯前ってより夕飯前だけどさ、チャチャッとやって少し休もうぜ」とメーライトに言った。


メーライトが「私も倒れないように頑張ります!」と言うと、「神様、アンタが一番偉いんだっての」とアルーナは呆れていた。


国王の傷は深く、国王の手を取って声をかけていたのは、一人息子のクサンゴーダだった。


この土壇場で、宰相が居るからと国王に寄り添う王子の姿にアーセワ達は呆れてしまう。


メーライトが「アノーレさん。お願いします」と言うと、アノーレは「あいよ」と言ってから治癒魔法を使う。

みるみる国王の怪我は治り、目を開けてメーライトに感謝を告げた。


起き上がれるようになるとメーライトにもう一度感謝を告げて、戦時下でも国賓のように扱えと指示を出す。


医者達はメーライトのお陰で治ったことに感謝する者と、訳のわからない力を使ったと文句を言う者と明暗のように分かれていた。


メーライトは目を丸くして混乱してしまうほどの扱いを受ける。


お湯を用いた湯浴みの経験もなく、服も大急ぎで普段着からドレスまで上等な物が用意されてしまう。


暗目の、枯れ草のような髪色かと思えば、明るいピンクがかった栗毛は城の灯りでキラキラと輝いていて、用意されたご馳走に、「私なんかがこんなご馳走を!?魔物やナイヤルトコの人達を倒したのはアルーナさんで、皆を治してくれたのはアノーレさんで、そもそも私達を助けてくれてるのはアーセワさんなんです。3人こそ食べてください!」と言い、3人は呆れながらも老騎士達の勧めで食卓を囲む。



宰相のワルコレステは、この場でも立場を忘れず、老騎士に「これで戦闘が可能なのかを聞くんだ」と言う。


老騎士は顔を暗くして「せめて食後を待ちましょう」と言ったが、「いつナイヤルトコが来るかわからない。打てる手を打たないでどうする!?」と声を荒げられ、渋々メーライトの元に行き、「メーライト嬢、お疲れは癒えましたでしょうか?ナイヤルトコには備えられますか?」と質問をする。



メーライトが答える前に、「ちっ」と舌打ちをするアルーナと、「無粋ね」と聞こえるように言うアノーレ、そして代わりに「この扱いで朝を迎えられれば平気です。ですが、それはあくまで現状維持が出来ればです。心労なんかがあればうまく行きませんよ」とアーセワが話した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る