第58話 皆を支社まで送り届けて午後はフリー
地獄門の中に入っていく、厳岩師匠と霧積くんを見送った。
二人はまた三階で修行らしい。
リーディングプロモーション組は陸橋を渡って支社を目指すのだ。
川崎の街を歩いていると、ここしばらくの環境の変化に面食らうね。
アイドルの護衛をするなんてねえ。
秘密にしておけというゴリラの力を使ってしまって、大丈夫なんだろうかね。
ミキちゃんは迷宮がゴリラさんたちの目的地と言うけど、どうかなあ。
おじさんとしては、もっと宇宙人の襲来とか、そういう世界の終末な感じの事件に向けて送られているのだと思うのだけどなあ。
まあ、アイドルの子たちは魅力的でお話をすると楽しいんだけどね。
なるべく、おじさんの出来る事をなんでもして上げたくなってしまうのだよ。
みんなでリーディングプロモーションの支社の入っているビルについてエレベーターに乗った。
チン。
「では、僕はレッスンだから、またなヒデオ」
「今日はありがとう、『モグ』くん可愛かった」
「またね。今度は狩りにつれて行ってよ」
「はい、時間が合えばご一緒しましょうよ、カスミさん」
「ヒデオは商売繁盛でいいな」
アイドルさんと別れ、階段を下りてジムに行く。
知り合いの人は居ないなあ。
みんな用事で出かけているようだ。
さて、俺は午後はどうしようかな。
『サザンフルーツ』は学校が終わってからレッスンだろうから、来ても夕方だろうな。
レッスン中は俺には何の用事も無いしな。
暇になってしまったなあ。
リュックとかケトルは買ったしな。
呑みに行くには早いし。
とりあえず、エレベーターに乗ってビルから出てみた。
さて、どうしようか。
マリエンに行っても、まだ何にも無いだろうし、これから迷宮に行くにもなあ。
とりあえず、街をぶらぶらしようか。
俺はゴリラ二匹を引き連れて川崎の街を歩く。
川崎は地獄門のある西側よりも、東側が開けた街で、国道までの範囲に色んなお店や、飲み屋、飲食店が建ち並んでいる。
大きめのデパートも三軒ほどあるし、映画館も沢山ある。
神奈川県では発展している都市だったんだけど、迷宮が出来て発展に拍車が掛かった感じだね。
あれ……。
なんか、俺に黒いワイヤーのような橋が架かってきているな。
なんだこれ。
なんだこれ。
俺を囲むように四人。
黒いスーツを着てガタイが良い感じだ。
またヤクザか、半グレかな?
ローラースケートスニーカーを履いた女の子がガガガーと走ってきて、俺の前でギャンとターンをして止まった。
ソバカスがある茶髪のフレアスカートにスタジアムジャンパーの女の子だ。
彼女は、プウと風船ガムを膨らませた。
「ヒデオ、狙われてんよ」
「あ、うん、そうみたい、君だれ?」
「チャーミーの赤坂詩織」
ああ、日本政府の人か。
赤坂さんが発言するのと同時に、黒服が懐に手を入れて、なんか出した。
赤坂さんが瞬間移動のように黒服の一人に近接して顎を蹴り上げた。
俺もゴリ太郎とゴリ二郎に命令を下して黒服二人を制圧した。
だが、敵が一人余った。
一人のサングラスの黒服がなんだか訳のわからない事を言って拳銃を乱射してきた。
バキューンバキュン。
わあ、あぶない。
街中で発砲とかやめなさいよ。
といっても、人手がたりなくて制圧ができない。
俺が行ってボコればいいのだが、その前に打たれて死にそう。
俺は花壇の後ろにしゃがんで隠れた。
ヒュンヒュン。
どこからか矢が飛んできて、鉄砲黒服の腕にブスブスと刺さった。
アイヤーと吠えて黒服は手を押さえた。
「中国系かな、黒社会か」
赤坂さんがプウと風船ガムを膨らましながら黒服を蹴り倒してそう言った。
商店街の奧から、黒魔導師が現れた。
弓矢を背負っているね。
『チャーミーハニー』のリーダーの鮫島さんだ。
「いやあ、ヒデオさん、大変だったねえ」
「なんで俺なんかが狙われるんですか?」
「ヒデオさん、目立つ能力者なのに、街でぶらぶらして暇そうだからじゃないかな」
「そんなぐらいで襲ってくるんですか?」
「チャイナの黒組織は後先考え無いから。全員、うちが貰って行っていい?」
「ええ、俺が連行しても何もできませんし、いいですよ」
「ありがと、赤坂もご苦労さま」
「たまたま行き会った、偶然。ヒデオは運がよさそう」
赤坂さんは、カカカと笑った。
なんだか敏捷性と機動力が凄いな。
『
「赤坂さん、ありがとう、でも一つ聞いていい?」
「なんよ、ヒデオ」
「何で八十年代のイラストみたいな格好してるの?」
「うるせえなっ、あたしはポップな格好が好きなんだよっ!」
怒られたぞ。
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