第34話 今日は用が無いので街でうろうろする
パストロミルミルキリンコシンシン。
パストロミルミルキリンコシンシン。
……、なぜこのDスマホは呼び出し音や目覚まし音が変なのだろうか。
今日は仕事が入って無いのでミキちゃんのモーニングコールは無しだ。
しましょうか、とか言ってくれたけど、遠慮した、年下の女の子に甘えてばっかりじゃね。
さて、今日は予定が無いな、どうしようかな。
二匹のゴリラを見渡しなが俺は思案に暮れた。
朝ご飯を食べて、リーディングプロモーションの支社に行ってみるかな。
休日な感じだから競艇でも行くかなあ。
なんだかお金があると博打がつまん無いんだよなあ。
だったら迷宮に行く方が楽しいしね。
ゴリラ達を連れて川崎の街に出る。
朝ご飯はどうするかな。
立ち食いそば屋で、うどんでも食べようかな。
役所の近くの立ち食いそば屋さんに入る。
出汁のいい香りがするね。
ゴリラ達は邪魔なので店の外で待たせておく。
天麩羅うどんの食券を買って出す。
すぐ出てくるね。
カウンター席で一味をちょっと振って食べる。
ぞるぞるぞる。
美味しいねえ、だんだんおじさんになっていくと出汁とネギの味がたまらなく美味しくなるんだよねえ。
不思議な事だよ。
天麩羅うどんを食べたらお腹がくちくなったよ。
さて、リーディングプロモーション支社に行くかな。
特に用事はないんだけど。
『サザンフルーツ』は今日は学校の日だね。
リーディングプロモーションのあるビルに行き、エレベーターに乗る。
ゴリラの分だけ人が乗れないから不思議な光景になって、OLさんが変な顔をしていたな。
ごめんなさいね。
リーディングプロモーションの支社のドアを開ける。
「あら、ヒデオさん、おはようございます」
「佐々木さん、おはようございます」
出来る女史タイプの佐々木のぞみさんと挨拶をして事務所の中に入る。
社長さんは本社かな。
山下さんが机についているな。
「ヒデオさん、どうしましたか」
「いえ、何か仕事は無いかなって、ははは」
「今日は狩りのアイドルはいませんね、非番なんで、護衛は好きにしていて良いですよ」
「そうなんですね」
「なんだったら護衛パーティを組んで迷宮に潜ってもいいですし、買い物をしたり、遊んだりしても良いんですよ」
おじさんはお金が無い時期が長かったから、そういう優雅な生活はピンと来ないんだよね。
まあ、オフの日と思って遊びに出かけるかな。
タレント溜まりの部屋を開けると、知らないアイドルさんばかりで、知っている子は居なかった。
知らない若い子とあまり話はできないんだよね。
ちょっと怖いんだ。
中年というのはとてもデリケートなんだよ。
階段を下りて、護衛のジムを覗いてみる。
ミカリさんがベンチプレスをしているね。
大きくて筋肉が凄いので躍動感があるね。
「お、ヒデオさん、どうしたの」
「何か用事が無いか御用聞き廻りよ」
「あはは、オフの日は好きにして大丈夫だよ」
ズシっと重量感のある足音を立てて、大柄な兄ちゃんが寄ってきた。
「お前がヒデオか、へへっ、素人じゃんかよ。俺とスパーリングしてくれよっ」
ミカリさんがバーベルを置いて立ち上がった。
「ヒデオは護衛仲間だ、余計なコナかけるんじゃねえよ、三郎太」
「ミカリは黙ってろ、これは漢護衛の筋目の話だっ」
「なんだと、てめぇ……」
二人の巨漢の間で殺気がみるみるうちに膨らんだ。
「三郎太くんと言うんだ、うちのゴリラは、ゴリ太郎、ゴリ次郎だから、なんか平仄が揃ってるね、よろしく」
「なんだとっ、このクソオヤジッ!!」
怒るとすぐ手が出るタイプらしい。
こちらに向いて激高すると三郎太くんは俺に殴りかかって来た。
ゴリ太郎が優しく腕を掴んで止めた。
ゴリ次郎が優しく足を取って持ち上げた。
「うわ、うわあああっ!!」
ゴリラ達は三郎太君を掴んで振り回した。
「うぎゃあああっ、何が、どうなっているんだっ!! た、助けてくれええっ!!」
ミカリさんが肩をすくめて振り回される三郎太君を見つめていた。
「ゴリラさんたちは、有能だねえ」
「うん、頼りになるんだ」
「だけど迷宮の奥だと、あんたが足を引っ張りそうだね。ちょっと
「そうなんだよねえ、『
「とりあえず戦士をやるって手もあるよ」
俺達が話あっている間も、三郎太くんを縄跳びのナワみたいにブンブン振っていた。
「助けて、助けてください~~!! あやまります、あやまりまーす!! げぷっ、げろげろげろ」
あ、いかん、振り回し過ぎで三郎太君がゲロを吐いた。
「ゴリ太郎、ゴリ次郎、やめて」
『『ウホウホ』』
ジムの床に倒れて三郎太くんはシクシク泣いた。
「自分で掃除しときなさいよ」
「一緒に掃除しよう、三郎太くん」
「はひ……」
「ヒデオさんは優しいねえ」
ミカリさんが呆れたように言った。
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