第28話 十階からどんどん潜って行く

「とりあえず、護衛が四人、アイドルが六人だから、二グループに分けてレイドを組もう」


 山下さんの呼びかけで、護衛とアイドルとに別れた。

 俺は護衛グループだな。


 ふよふよとカメラを持った妖精さんがどこからかやってきた。

 今日もまた無愛想ちゃんだな、よろしくね。


『お、今日のヒデオはなんだろ』

『リーディングプロモーションの護衛狩りか、おっと『サザン』だけじゃなくて、ケインとチョリ、ユカリまで居るなあ』

「今日はムカデ部屋攻略だよーん」

『『『『おおお!』』』』


 俺の手首に着けたコメントリーダーという半透明のスクリーンに文字が流れて消えていく。

 コメントで半双方向通信なのは面白いね。


 とりあえず、山下さんのカメラピクシーに触り『一時パーティ参加』と唱える。

 山下さんも俺の担当の無愛想ちゃんの頭に手を置き、『一時パーティ参加承認』と言った。

 これで俺は護衛パーティに入った事になるようだ。


 アイドル達もチョリさんに同じように一時パーティ登録をしている。

 『サザンフルーツ』は三人の恒常パーティなので、山下さん、チョリさんとレイド登録をした。

 いろいろと組み合わせが出来るんだなあ。

 ちなみに『一時パーティ参加』だと、迷宮を一度出るとパーティから外れてしまうらしい。


「ヒデオは護衛パーティに恒常登録しろよ」

「え、ヒデオは『サザンフルーツ』の護衛ですから」

「あ? タレントのパーティに護衛が入ったら面倒なんだよ、ヒカリ」

「でもでも」

「そうだよ、ヒデオに護衛してほしいのは『サザン』だけじゃあないからね」

「意外ヒデオさんモテモテだね」


 チョリさんが笑いを含んだ声でそう言った。


「ありがたい事だね」

「わたしらが最初にヒデオを見つけたんだからねっ」

「まあ、パーティ分けは編成でしか無いから気にしないように、では出発する」


 山下さんの号令で俺達は階段を降りて、地下十一階に足を踏み入れた。

 十階までの荒削りな岩肌から一転して、石を組んで作った通路の迷路となった。

 そんなに狭くは無いね。

 ゴリラ達が背を丸めないで歩けるぐらいの高さ、横幅も結構広い。

 それぞれが着けたヘッドライトや懐中電灯で通路の岩壁がテラテラと光る。


 隊列は一番前に『盗賊シーフ』のムラサキさん。

 その後に山下さん、ケインさん。

 中衛に『サザンフルーツ』の三人、そしてチョリさん、ユカリさん。

 後衛にチャムスさん、そして俺が歩いている。

 ゴリラはムラサキさんの隣にゴリ次郎、俺の後にゴリ太郎を配置した。


 ムラサキさんがゴリ次郎の位置を察知したのか、腰のあたりをパンパンと叩いた。


「ゴリちゃん頼むよ」

『ウホウホ』


 ゴリ次郎、返事してもムラサキさんには聞こえないからね。


「前がゴリ次郎さんで、後がゴリ太郎さん?」

「そうだよ、ユカリちゃん」

「思ったより個性があるのね。ゴリ次郎さんはクールで、ゴリ太郎さんは熱血だわ」

『ウホウホ』

『ウホウホ』


 ユカリちゃんの言葉にゴリラ達は喜んだ。

 あまり人に見て貰えないから嬉しいらしいね。


「オーク四、ハイオーク一」


 ムラサキさんが小声で声を掛けてきた。

 前方にオレンジ色のランタンが揺れていて、だんだんと近づいてきている。

 ヒカリちゃんが弓を背中から下ろし、矢をつがえた。

 山下さん、ケインさんが剣を抜く。


「心を弾ませ元気を出そう~~♪ 足並み揃えてハイリハイリホー♪ どこまでもどこまでも行こうよ~~♪」


 チョリさんがバンジョーを演奏しながら【元気の歌】を歌う。

 なんだか心の奥から元気が湧き出してくるね。


『さすがチョリの【元気の歌】は効くぜ』

『ダブルバードとは贅沢だなあ』

『ミキちゃんは歌温存か』


 相手がこちらに気が付いたようだ、ランタンが揺れながらこちらへと向かってくる。

 来た魔物は、豚面の魔物のオークと、オークの上位種、ハイオークであった。

 甲冑を着込んで盾を持ち、片手剣で武装している。

 肥満した体を揺らして突進してくるのは迫力があるね。


 ゴリ次郎は一番大柄なハイオークに襲いかかった。

 ハイオークはゴリ次郎の大きな手に捕まれる、目を丸くして悲鳴を上げた。

 そしてそのまま持ち上げられて壁に向かって投げつけられた。

 ぎゃあという激しい悲鳴と共に鈍い音がして血が吹き飛び、首がありえない方向に曲がって動きを止めた。


「ヒデオ、後からオーガー一!」


 ムラサキさんの声に、ハッとして振り返ると、大きな鬼が後からせまっている所だった。


「ゴリ太郎」

『ウホウホ』


 ゴリ太郎が喜びの声を上げてオーガーに殴りかかった。

 いきなり殴りつけられたオーガーは一瞬棒立ちになって動きを止めた。

 そのままゴリ太郎はオーガーの足を持ちおもちゃのように振り上げて壁に叩きつけた。


「ゴリちゃんたち滅茶苦茶強いわね」


 ユカリちゃんがゴリ太郎に手を振ると、奴は満面の笑顔でポーズを作った。


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